第3話
とんでもない勘違いをしていたのかもしれない。
初めから、美月も『僕の中の現実』を認識していたのだろうか。
「いや、ならどうして告白したことになってるんだ……」
考えがまとまらない。
気づけば家の前まで歩いてきていた。
道中のことは一切記憶になかった。美月とのことだけを考えていた。
すべてを正直に明かそうと決心したのは夜が更けてからだった。
ここにきてごまかし続けることはもう無理だ。
しかし電話は繋がらないし、メールにも返事はない。
「遅すぎたか……」
明日は土曜日だが幸い部活動があるため顔を合わせるはず。どうにか話をしようと決意し布団に入るが、結局一睡もできないまま夜が明けた。
重い体に鞭を打って学校にたどり着いたが、肝心の美月は来ていなかった。
終日美月のことが頭から離れることはなかったが、完徹の疲れが出たのか夜は泥のように眠った。
翌日、家の呼び鈴がひっきりなしに鳴る音で目が覚めた。
「ん、誰だよこんな時間に……いっ!?」
時計を見ようとスマホを確認すると、美月から大量の不在着信と『今から家に行く』というメッセージが届いていた。
一瞬で目が覚めた僕は飛ぶように玄関を開けると、顔を真っ赤にした美月が仁王立ちしていた。
「ご、ごめ……」
「いるなら早く出てきなさいよっ!」
遮るように一括した美月だったが、
「あんまり不安にさせないで」
きゅっと僕の袖を握る美月の手が震えていることに気づき、彼女もまた何かを抱えているのだと察した。
「話したいこと、ううん。言わないといけないことがあるの」
俯きながら呟く美月にいつもの元気はない。
「私と別れて」
別れてくれと告げられたが納得いくはずもなく、せめて理由だけは教えてほしいと説得して彼女を自室に招き入れた。
美月は不安を誰かに見せることなどほとんどないのだが、今は憔悴しきった様子で泣くのを堪えているようにみえる。
「落ち着いたらでいいよ」
「うん、ごめん……大丈夫だから」
「遊園地のことと関係してる?」
美月は小さく頷き、やがて自分の身に起こっていたことを語りだした。
「陸と付き合う少し前から夢を見るようになったの」
美月は僕と同じ夢を見ていた。
「私って陸にはいつも素直になれなくて、陸に強く当たってしまってから違うのに、そんなことがしたいわけじゃないのにって反省してた。夢の中では思い通りに自分を作ることができたわ。私、陸に対してズルしてたようなものよ。素直じゃない、面倒な自分を隠して陸にいい顔をしてた……何が起きるかわかっていれば簡単に自分を作れるもの」
僕も同じ思いを抱いていた。だからこそかける言葉見つからずに黙っていると、美月は一方的に続ける。
「だから別れて。陸と付き合ってからの私は、私であって私じゃないわ」
責は果たしたとばかりに部屋から出ようとする美月の腕をつかむ。
「待てって!」
「ダメ。本当の私のことはきっと陸は好きになんてならない!」
「ズルをしていたのは僕も同じだ!僕も美月と同じ夢を見てるんだよ。だけど自分の都合のいいように解釈して美月を騙し続けていたんだ。僕も同罪だよ!」
彼女を繋ぎとめたいと思う気持ちで、叫んでいた。
美月は心底驚いた様子で僕を振り返る。
「……え?」
じわり、と瞳が光る。
「本当、に?」
「うん」
「そっか……うぅぅ」
感情が溢れたのか、号泣する彼女を慰めるように頭を抱く。
「辛い思いをさせて、ごめん」
美月は声が出せないのか、返事の代わりに頭を大きく振って答えたのだった。
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