第2話

玉砕したものだとばかり思っていた僕と、付き合うことになったと思っている美月。

僕は卑怯だと思いながらも自分に都合のいいように解釈することにした。

(何かの間違いでもいい……美月と付き合えること以上に望むことなんかないじゃないか)

この時はまだ、自分の身に起きた奇跡を歓迎していた。だが、僕と美月の認識のズレはその後も起こり続けた。


美月と付き合い始めて最初のデートで大きな失敗を犯した。行き先を遊園地か映画館で迷った挙句に遊園地を選んだが、まさかの休園で美月の機嫌は最悪だった。会話もなく別れたその夜、僕は再び夢を見た。

今度は朝から始まった。彼女の提案で行き先は映画館に。近くのカフェでお昼を食べ、あっという間に時間が過ぎる理想のデートを堪能した。

翌日、目が覚めると美月から『昨日は楽しかった!遊園地は別の機会に行こうね』というメールが入っていた。

遊園地が休園だった出来事はきれいさっぱりなくなっていたように感じる。


その後も些細な言い争いから大きな失敗まで、後悔を夢で回避するということを繰り返していく。

美月の反応から見るに、僕のミスは全てなかったことになっている。

夢が現実になっている、と感じるようになった頃には美月と過ごした記憶の現実と夢が区別は『失敗の有無』でしか判断できなくなっていた。

異常事態に思い悩んだ僕はネットの掲示板に事のあらましを書き込んだところ、一つの事象にたどり着いた。


(思春期症候群、か)

思春期の多感な時期にだけ起こりうる怪奇現象。症状は人それぞれだが当人に何かしら原因があり、それを解消することで治まるらしい。

都市伝説の一種といった扱いのようで、書き込みも出来の悪い漫画のような内容で溢れかえっている。

それでも現在進行形で不思議体験中の僕には引っかかることもあった。


(同じ日をループする……これなんて近いな)

「なに見てるのーっと」

「うわっ!?」

頭上からの声に驚き、反射的にスマホの画面を隠す。

美月はあからさまにむっとしている。

「怪しい」

「いや……急だったから、びっくりして」

「ま、いいけど。私だってスマホ見られるのは嫌だしね」

表面上は一歩引いているが、顔が納得していない。

「次のデートはどこに行こうかなって調べててさ、それを見られるのは恥ずかしくて」

「陸、言い訳へたくそだからやめたほうがいいよ」

「……ごめん」

これも夢の中でなかったことにできるだろうかと考えたところで、謎の力に頼るのではよくないと自戒する。


夢を見なくなった時、二人の関係はどうなってしまうんだろうといった不安がじわじわと強まる。

そんなことを考えながら彼女の様子を窺うと、自分のスマホを取り出してせわしなく画面に触れている。


気まずいまま時間が過ぎることを避けたくて話しかけようとしたところ、

「本当にデートのこと、考えてたの?」

美月から切り出してくれたのでありがたく便乗する。

「う、うん。定番スポットは行きつくしちゃったし、いい場所ないかなって」

「甲斐性なしー」

僕をからかってけらけらと笑う彼女は少し逡巡したのち、思いついたといわんばかりに指を立てる。


「遊園地に行こう!前に行ったときは閉まってたから――」

そこまで口にしたところで何かに気づいたように青ざめる美月を見て、はっと息を呑む。

「……ごめん、今日は帰るね」

「おい、美月!」

美月は突然立ち上がると、脱兎の如く部屋から出ていった。

追いかける気力はなかった。

動悸が嫌な音を奏で、息苦しい。


「美月に休園だった遊園地の記憶がある……?」

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