青春ブタ野郎は正夢を見ない

@suisei_s

第1話

これは夢だと瞬時に理解する。そう言いきれるのはこれは僕が光景で、後の結果も知っているから。

話したいことがあるから、と呼びだした彼女は何も話さない僕を黙って見つめている。

きっと僕の言いたいことはわかっているはずなのに口を開こうとはしない。


頭の中で幾度となく繰り返した『好き』がどうしても声にならない。

彼女との出会いから思いを募らせた日々が脳内を走馬灯のように駆け抜ける。

人一倍努力するところが、うまくいかなくて思い悩む姿が、特筆するところのない僕を励ましてくれる優しさが、そのすべてが好きで――なのに伝えられない。


先刻見た徐々に冷えていく眼と拒絶の言葉を思い返すだけで動悸が激しくなる。

同じことを繰り返す恐怖のほうが大きく、せめて夢の中だけでもとの想いで精一杯言葉を紡ぐ。


「僕は……美月みつきのことが好きだ。付き合ってください!」

りく……」

 伝えたいことの一割も伝えられていない、絵に描いたような淡白な告白にも彼女は大きく反応してみせた。

「やっと言ってくれた。私も陸がずっと好きだった」

握った手で目元を拭う彼女を抱き寄せる。

活発な印象の美月だが、僕の腕の中では想像以上に小さい。

お互いに何かを期待するように見つめ合い、徐々に距離が縮まっていき――朝を告げるベルの音で目が覚めた。


やけにはっきりとした夢だった。夢だと認識していたにも関わらず現実と見紛うほどに。

白い天井へと伸びる自分の腕がどこまでも虚しく空を切る。大きくため息をつきながらベッドから身体を起こす。彼女を抱き寄せたぬくもりが残っているような気がして、自嘲的な笑いが漏れる。

「はぁ……」

胃の中にどんよりと沈み込んだ空気を吐く。夢でのように想いを伝えられたなら、涙でぼやけた彼女の後ろ姿を見送ることなどなかったのだろうか。

のろのろと制服に着替え、鉛の如く重い胃に無理やりパンを詰め込んで学校への道を進む。

程なくして昨日までは早く会いたかった、今は一番会いたくない彼女の姿が目に映る。


「おはよ、陸」

「……はよ」

美月が遠慮がちに言葉を掛けてくる。無視もできず、かといって彼女を直視することもできずに生返事を返し、歩みを進める。


「ちょっと」

「なんだよ」

急に肩を掴まれ、反射的にその手を払い美月を振り返ると、怪訝な表情を浮かべている。僕を振ったことを考えればひどく不釣り合いな感情を浮かべる彼女に違和感を覚える。

「陸……まさか昨日のは冗談でしたなんて言わないわよね」

「え?」

「勘弁してよ……私だって随分待ったんだから」

背中をばしと叩きながら手を取られる。

「ほら行くよ!」

ぐいぐい腕を引く彼女に辛うじてついていきながらも、脳内はひどく混乱していた。

「どういうことだ……?」

 漏れた疑問に返される答えは今のところ、ない。

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