第3話

――2030年 2月12日 日曜日 午後3時半 山原・紫苑やまはら・しおん宅――


 さてと。手作りチョコレートの材料は揃っているわね。髪の毛の灰3グラムと左手の薬指の爪の粉末も準備オーケーだわ。


 出来るなら部長・葉月・志登はづき・しとくんの言う通り、ベルギー産のチョコを使いたかっけど、売り切れちゃってたのよね……。まさかだけど、部長から教えてもらった恋のおまじないって、意外と世の中に知られているのかしら?


 そんなことは今は良いわ……。それよりもチョコレートを溶かすためにお湯を沸かさないと……。


 よっし、お湯は出来たわ。これをボールに入れてっと。あっ、買ってきたチョコレートを包丁で刻むのを忘れてた……。面倒くさいわね……。


「んっと、こんな感じの大きさで刻んで良いのかしら? 手作りチョコレートを作るのは初めてだから、よくわからないわ?」


「おお、おおー? やっておりますなー? あー、いいわねー。年頃の娘が好きな男の子のために手作りチョコを作るなんて。ママ、心がキュンキュンしてくるわ?」


 あっ、ママがキッチンにやってきたわ……。あっちに行っててって言ってたのに……。


「うふふっ。愛しい我が娘が頑張っている姿を見ておこうと思ってね? ちょっと、写メを撮って良い?」


「やめてよ、ママ……。パパの相手でもしててよ……」


「だって、パパったら、娘が手作りチョコなんか作ってやがるって、枕を涙で濡らしてるもの。紫苑しおんちゃんだって、17歳なんだから、恋のひとつもするって言ってるのに、聞かないのよ?」


 パパ……。まだ、泣いてたんだ……。昨夜、俺はそんなの認めんっ! どんな男だっ! 俺がとっちめてやるっ! って叫んだあと、うっさい! お父さん、静かにしててっ! って、一喝したら、泣き出して、寝室に籠っちゃったんだよね……。


 パパ、ごめんね? でも、コタくんを見れば、ひと目で気に入ってくれると思うから……。


「うふふっ。パパは紫苑しおんちゃんのことが大好きだから、許してあげてね? でも、ママは紫苑しおんちゃんがどんな男の子を好きになったのか、すごく気になるわ?」


 もし、コタくんと正式に付き合うことになっても、なるべく、家に招くのはやめておこう……。ママのことだから、写メを撮って、ご近所で自慢しそうだし……。

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