ゲームと料理は紙一重?

「つまりどの子も彼女じゃないと?」


リビングに降りてガラス製の茶色い足がついたテーブルを4人で囲み、母親に俺たちの関係を適当に説明した。


俺の右隣には母親がいて向かいには林、そして彼女の隣に伊藤が座っていた。


なお鈴木はソファで転がりつつリモコンを持ってポチポチとテレビのチャンネルを変えていた。


「ま、まぁそういうこと…」


「ふーんそっかぁ〜」


母親は手を頭の後ろで組み、つまらなそうに呟いた。


「でも海人君はこいつを寝取って既成事実を作ろうとしたんです!」


「ちょ、亜美ちゃん!」


ふと伊藤が立ち上がり林のことを指さしつつ言った。

いやそれは言うなと心の中で叫ぶがもう遅い。


「ほぉ…?」


母親が興味深そうに感嘆を漏らす。


「ほんと、強引なんだから…」


そして、伊藤に便乗し林が呟いた。


「ねぇやめよ? 本当にやめよ? そのノリはきっと悪い方向に向かうと思うんだ」


と言ったが既に悪い方向に突っ走っていることに気づいた。


「しかも、私彼氏いるのに…」


さらに林が畳み掛けてきた。


「海人…それはダメだとお母さんは思うぞ…うぅっ」


「やってない。何もしてないから!!」


悪ノリを続ける林に、頭を抱えわざとらしく泣き言をこぼす母親。


ツッコミも追いつかないこの状況。


あーめんどくせ。


と胸の内で呟いた。






「お邪魔しました〜」


「海人君またね! お母さんもまたいつか!」


「はーい。海人の事よろしくね〜」


しばらくわちゃわちゃと話し続けているうちに、辺りは暗くなっていた。


手を振りつつ伊藤と林を見送った後、扉を閉めた。


そして忘れ物に気づいた。


「って静凪ちゃんは!?」


と言いつつリビングに戻ると、いつの間にかテレビでゲームを起動させてガッツリ遊んでいる鈴木がいた。


「ねぇ、静凪ちゃん…?」


そう呼びかけるも返事はない。


「おーい」


「ちょっとこの試合終わるまで待ってて」


彼女は俺に一言も許さず黙々とコントローラーを傾けいじる。


しかも割と上手い。


はぁ、とため息を漏らしつつ隣に座り彼女を待った。





「終わったよ」


ふと鈴木がコントローラーを置き、軽く伸びをした。


「ん、お疲れ様」


「お母さんは?」


間髪を入れず問いかけてきた。


「今は2階。自分の部屋」


「んー。そっか」


そう言いつつ立ち上がり、キッチンに向かった。

そしておもむろに冷蔵庫を開けて中を漁り始めた。


「ちょ、どうしたの?」


「お邪魔したし、ご飯くらい作っていくよ」


「え、大丈夫だよ」


そう言ってる間にも、もさもさと冷蔵庫を漁りつつ挽き肉やら玉ねぎやらを取り出した。


「大丈夫かどうか決めるのは海人君じゃないでしょ〜」


「いやまぁ…」


確かに親が作ってくれてるけど…


「ということでしばらく黙ってなさい」





追いやられるようにソファに座ってぼーっと鈴木を眺めていた。


エプロンもなしに黙々とひき肉を焼いている。ハンバーグだろうか。


次第に香ばしい香りが漂ってきた。


こうして見ると、まるで嫁だ。


そんなことを思っている時、階段から母親が降りてきた。


「あら、静凪ちゃんありがとうね」


降りてきた直後母親は感嘆の声を漏らしつつ鈴木と一緒にリビングに並び、彼女の様子を眺めていた。





「出来たよ〜」


しばらくすると、鈴木がテーブルにハンバーグとご飯を並べつつ呼びかけてきた。


どうやら二人分だけで、鈴木自身の分は無いみたいだ。


「ありがとう。でも静凪ちゃんは食べないの?」


「私はこれから家でももう1回作るから。じゃ、またね」


そう言いつつ、すぐに荷物を持って玄関に向かった。

慌てて立ち上がり彼女を追った。


「ごめんね色々」


「お気になさらず、だよ〜。じゃ、またね」


「うん。またね」


「あ、静凪ちゃんちょっと待ってー!」


帰ろうとドアを開けた鈴木を親が呼び止め駆け寄ってきた。


「はい、これ。お礼!」


そう言いつつ母親は鈴木に封筒を渡した。


…生々しくないか少し。


「え、いや、その、大丈夫ですよ?」


「いーいーかーら!」


鈴木もやや困りつつ遠慮していたが、彼女の言葉を無視して無理やりカバンにねじ込んだ。


親よ。そんなあなたの背中を見て育った記憶はないぞ。


結局鈴木は封筒を受け取って俺の家を後にした。




鈴木のハンバーグは親が作ったのよりも美味しいのではないかと思うほどだった。


しかもこれから彼女は自宅でも作るわけだ。

高校生にしては忙しい。

なんとなく彼女の身が心配になった。

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