俺はきっといつか奴らにむかつく

「本性? 何言ってるの?」


林は少しだけ嘲笑うかのような口ぶりをしつつ足を組み、しなやかに微笑んだ。


「狙いやすい、話しやすい、男子っぽい、優しい。全部が全部、お前が理想としてるお前なんだろ」


彼女の口元から笑みが消えた。


しかし、すぐに再び口角が上がる。


「うん。確かに私は演じてるよ」


簡単に認めた。

声色からわかる。何かを決意したことが。


「でも、たとえ演技でも、私はもう素では生きない」


「あぁ、俺もそうだよ」

彼女の言葉に続けた。


「俺も老けるまでは僕を貫く」


「…海人君も、中身違うんだね」


彼女は少しだけ目を見開いた。


「あぁ、でも俺は自分から外面を作って、今に満足してる」


「…そうなんだ」


そういう彼女に笑みはない。


弱々しい答えだった。

だけど、その答えで確信した。

今の彼女の演技は、やりたくてやってる物じゃない。


なら、どうして演技をしているのか。


きっとそれこそ、俺が吉井との件を終わらせてしまうことに対する迷いの正体。


無論、答えなんてわかっていた。


「怖い、よな」


ゆっくり、振り返りつつ彼女に話しかけた。


「本来の自分が受け入れられるのか、演技していた事を責められないか、それと」




「好きな人に、嫌われないか」




彼女は、何も答えない。




しかし、その頬から滴る雫が、確かな肯定を物語っていた。


「私は、冷めてるから」


ふと、彼女が口を開いた。


「いつも無愛想で、サバサバしてて、厳しくて」


震える声を押さえつけつつ、淡々と言葉を紡ぐ。


「だから、高校から愛想良くしたら、ずっと楽しくて」


声に、潤いが増した。


「だけど、辛くて、悲しくて」


きっと、本当の自分自身が周りに愛されてないという現実が、だろう。


俺にも、そういう経験はあった。


「でも、もう戻れないんだよ…」


彼女の言葉は、そこで途切れた。


ぼたぼたと涙を零す彼女に、語りかける。


「無理して戻らなくてもいい」


俺は、ポケットから携帯を取り出し、その画面を表示させ林に渡した。


「でも」


彼女は恐る恐る俺の携帯を取り、


「お前の演技、下手なんじゃねぇのか?」





「ばか…ほんとに、ばか」


そして、彼女の瞳から大粒の涙が流れ出した。




『無理して笑ってんの、さすがに気づくっつーのにな』


『あいつのことなら全部好きだわ』


彼とのメッセージには確かにそう言い残されていた。





「…前は、ごめん」


携帯に向けて、林が言った。


「いや、すまん。俺が全体的に悪かった」


普段は陽気なはずの彼の声は、電話を通して非常に落ち着いたトーンになっていた。


「私さ、すんごく性格悪いよ」


そんなことを言いつつ、少しだけ微笑んだ。


「いいよ。気にしない」


吉井の言葉は揺らがない。


「ちっともいいとこないよ」


「んなわけねーよ。悪いとこも良いとことして見てやんよ」


「それでも、いいの?」


「もちろん」


「じゃあ、付き合ってあげても、いいよ」


「お、う…あり、がとうっ」


携帯からでも分かるほど彼は激しく涙ぐみ始めた。


「もー泣かないでよばか」


そう笑う林の目元も、僅かに潤んでいた。


せいぜいイチャラブしとけよ。お前ら。







「はぁ〜夢見たい」


電話を切って、しばらくすると林が呟いた。


「そんなわけないでしょ」


若干呆れつつ答えた。

だけど、そのように言ってくれるほど喜ばれると、少し照れくさい。


「にしても、海人くんはいつも通りだね」


「え?」


林の言葉の意味がわからなかった。

しかし、すぐに彼女が説明した。


「さっきのまさしく男の海人くんはどこへやらって思って」


そう言いつつ、俺の布団に倒れ込んだ。


「あぁ、まぁもう僕はショタとしていることに慣れてるからね」


仰向けに倒れたことにより少し張った胸元に気を寄せられつつ言った。


「みんなのショタの中身は普通の男の子かぁ。なんか笑っちゃうね」


林がぼそっと呟いて、ニコッと微笑んだ。


「まぁ、ショタの中身なんてこんなものだよ」


どこか遠いところを見つつ言った。


みんなと仲良しな可愛い子の中身も、なかなか冷たかったけどな。

と、若干の皮肉を込めて。

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