仮面と本性
【5月28日 月曜日 午後19時20分】
俺はあの後すぐに帰宅し、吉井に林を諦めるようにメールで伝えた。
「おーけぃ。わかったよ、迷惑かけてすまん」
と、返信が来た。
しばらく彼と、メールでやり取りをした。
ただのメールからは、どんな感情を抱いているのかわからなかった。
だが、彼も林に関して諦められない所があるにしても、もう無駄に関わったりはしないだろう。
なぜなら、
彼は陽気で、バカで、それでいて、優しい。
ほんとに短期間しか関わっていないが、そうであることは確信していた。
林が嫌がると知れば、彼女のことを考えて関わることを辞めるだろう。
これで、林涼夏の一件は、終わりだ。
いや。終わらない。
まだあいつは迷っている。
なら、どうにかしたい。
こんな後味の悪い終わり方、死んでもごめんってやつだ。
やるならやるで、全部解決して、俺自身が納得出来るまで円満を追い続けてやる。
【6月1日 金曜日 午後15時50分】
校門にて、柵に背を預けつつ彼女を待った。
そこまで待つことなく彼女は現れた。
「すずちゃん!」
そう呼びかけると、一瞬足を止めて、再び歩き出した。
無視かよ。
そう心でボヤきつつ、すぐに彼女の背を追い、
「連行します!」
「えっ?」
自分でも訳の分からないことを言いつつ彼女の右手を取り一気に引っ張った。
林自身は全く現状を理解出来てないようだ。
「いーからこいっ!」
半分叫びつつ、彼女の腕を強引に引っ張り家の方向に走り出した。
「え、ちょ、待っ」
驚きの声をもらしつつよろめきながらも引っ張られる林。
本気で抵抗する気はなさそうだ。
そして
ものの3分もかからず家に着いた。
「はぁ、はぁ、はぁっ…入って」
激しく息切れしながら鍵を開け扉を開く。
「無理やり連れてきた側が疲労困憊でどうするのよ…おじゃましまーす」
そう言いつつも、彼女は家に入り靴を脱いだ。
「あ、家誰もいないから気にしないで。とりあえず2階来て」
彼女のことをすぐに追い、一歩先に自分の部屋に向かった。
そして、部屋まで来てひとまず林をベッドに座らせた。
ここでやっと違和感に気づく。
林が全く喋らない。
「…すずちゃん?」
「え、えっと、何」
心配になって呼び掛けたが、ちょっとあたふたした返事が来た。
「…どうしたの? 大人しくなっちゃって」
「いや流石にこの状況は…」
そう言うと、目線を落とし完全に俯いた。
それと同時に、彼女の言葉でやっと俺のしていたことのヤバさを再認識した。
傍から見ればこの状況は男が女の子を誘拐してベッドに座らせて今まさに強姦を働こうとしている完全にアウトな状況じゃないか!
「あーもうっ!」
突如声を張った林はネクタイを乱暴にゆるめボタンを上から弾くように外し始めた。
「ちょ、待ったぁ〜!」
慌てて彼女に飛びついて腕を掴んだ。
すでに半分ほどボタンの外れたブラウスは、ひらりと風に舞うようにはだけ、淡い青色の布地があらわになる。
「や、その、えっと」
戸惑ったのは俺だった。
思わず豊満な谷間に視界が吸い込まれそうになるのを抑え目を閉じつつ左に首を振る。
「ねぇ、こっち向いてよ」
頬をぺたっと両手で包まれ、顔を強引に正面に向かされる。
ダメだとわかりつつも少しずつ目を開ける。
しばらく目があった。
そして、林は顔を赤らめ、控えめに目線を外す。
「…いいよ。ほら、襲いなよ」
その言葉で、俺の理性が、
いや切れてたまるか。耐えろ俺。
とりあえず彼女の体から離れよう。
そこからもう一度話を戻そう。
「…海人くん?」
「えっと、ごめんっ!」
言った直後、俺はすぐに彼女の腕を離し一歩下がり後ろを向いた。
「吉井くんのことで、話があるから、とりあえず服を着てください…」
そう言った直後、3拍ほど時が止まる。
そして、彼女が口を開く。
「…はぁ?」
その声のトーンは、聞き覚えがあった。
彼を振った時の『無理』と似た雰囲気を含んでいた。
無慈悲で、冷たくて、言葉の節々が鋭い。
普段の林からは感じられないオーラ。
「はぁ、じゃねぇよ」
だけどこれが彼女の
「いい加減本性見せろよ。林涼夏」
本性だ。
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