思いは時間を忘れさせる

「でぇ、私からの連絡も気づかずにプリクラで海人君を襲っていたということでいいのかな?」


「仕方ないでしょ。海人君可愛いんだもん」


プリクラの騒動後、俺たちはフードコートのテーブルを1つ占領して話し込んでいた。


伊藤は若干ふてくされ、林は呆れたように目を細めている。


「そういえば、えっと、あの、吉井くんは?」

一瞬林の連れの名前が思い出せず言葉に詰まった。


「だからその事なの」

くるくるとコーラをストローで掻き回しつつ返答した。


「なんかね、トイレ行くって言ってどっか行っちゃって」


「帰ってこなくなったの?」

伊藤が彼女の言葉を遮るように口を出した。


その表情はちょっとニヤついている。


「んー、まぁ、そんな感じ…」

左手で頬杖をつきコーラをかき回す手を止めた。

伊藤に反し彼女は少し落ち込んでいる。


「えぇ〜それって捨てられたんじゃない?」

嘲笑うかのような口ぶりで彼女は言った。


性格悪すぎないかこいつ。


「んー…はぁ」

林は言い返すこともせず顔を伏せた。


これガチで落ち込んでるやつだなぁ。

少しいたたまれない気分だ。


「べ、別に付き合ってたわけじゃないんだし仕方ないよ」

伊藤の口調が急に変わり林を慰め始めた。


多分笑う気も起きないほど傷ついてることを察したのだろう。


「まぁそうだけどー…」

そう言いつつ林はテーブルに突っ伏した。


「大丈夫だって、ね?」


引きつった笑顔で伊藤が声をかける。

しかし林はため息をつくだけで顔を上げない。


彼女を見ていると俺まで落ち込んできそうだ。


動こう。


「ちょっと僕探してくるからすずちゃんの事よろしくね」


「あ、ちょっと!」

呼び止めてくる伊藤を無視して席を立った。







「いねぇ~…」

ショッピングモールは全4階。


伊藤たちのいる1階から全店舗回りつつ3階まで来たが彼は見つからない。


3階から4階に向かう階段の途中のベンチで座り込んでいた。


最後の4階はゲームセンターで、さっきまでプリクラを撮っていた訳だし、その時見かけなかったのだからいないだろう。



帰ったのか。



ふとそんな考えがよぎった。

2人から連絡はない。きっと彼女達の元にも連絡はないのだろう。


見えるところは全て探したつもりだ。

しかしいない。



その時、携帯がメールを受け取った。


林だ。


「海人君、もういいよ。帰ろ」


…諦める、ということか。

確かに帰っているのなら、これ以上はもう無駄骨だ。


「そっか」


そう、簡単に返事をした。

正直、もう帰っている。ほぼ確信していた。


戻ろう。

席を立ち上がった、その時だった。


「あれ、飯田くんじゃん。なにしてんの?」


階段の上から発される陽気な声。

見上げると、彼はにっと笑った。


「お前ぇ…」


「女のコ達2人は?」


「いいからこい!」


彼の言葉を一切聞かずに手を引いて階段から引きずり落とした。






「すみませんでしたぁっ!!」


「すみませんで済むと思ってんの?」


全力の謝罪を彼女は冷ややかに無下にする。


「ねね」

伊藤が俺の裾を引っ張った。

「吉井くんどこにいたの?」


「あぁ…4階」


「えっ、ゲームしてたの?」

伊藤は口元を隠しつつ言った。


「ううん」


俺がそう言うと同時に、彼はポケットから銀色の細長い長方形の箱を取り出す。


そして、バッと立ち上がり頭を下げ、それを差し出す。


「待たせてすみませんでした、ずっとこれ選んでました!」


そう言うと同時に、彼は箱を開く。


開くと、金と銀のハートが絡み合ったネックレスが周囲の光を受けて輝く。


「こんなボンクラですが、どうか、付き合ってください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る