本体はピンク色

「ただいまー」


今日も両親は家にいない。帰ってくる言葉ない。

そして、鈴木もいたが、お邪魔しますも言わない。


「え、えっと、僕の部屋くる?」


そう聞くと、何も言わずにコクリと頷いた。

彼女の言動には違和感をかなり感じていたが、理由がわからない。


どう扱えばいいかもわからない。


俺は、とりあえずで彼女を部屋に連れてきた。

部屋に入ると、彼女は俺のベッドに座って俯いた。


何がしたいのか全くわからない。


襲っていいってサインでもないし、などと馬鹿なことを考えてると、彼女が声を出した。


「ん」


ポンポン、と俺のベッドを叩いた。

扉の前で立ち尽くしていた俺へのここに座れという催促だろう。

何も考えずに、ただ言われるがままに座った。


隣に座ったものの、彼女は何も動かない。

ただ座ってるだけの、気まずい時間が過ぎている。

流石にこの状況に耐えかねて、口を開いた。


「…静凪ちゃん?」


そう声掛けたが、彼女は何も反応しない。

その時

彼女は何も言わず、俺の体に抱きついてきた。


「ちょ、鈴木!?」


不意な突進のような抱きつきに、俺は強引にベッドに押し倒された。

彼女は俺の腹のあたりに顔を埋めて、その腕は決して離さないとばかりに強く固定されていた。


「どうしたんだよ!?」


混乱して身を引こうとする俺を、意外なほどある腕力で動きを封じた。


「怖かった」


「え?」


唐突な言葉に、思わず聞き返した。


「怖かったの!」


彼女は、顔を埋めたままそう叫んだ。

その言葉を聞いた途端、息が詰まった。


「凄く、怖くて、つらくて」


彼女から嗚咽のような声が洩れた。

静かに、でも激しく泣きじゃくる。


「足が、力入らなくて、崩れ落ちちゃいそうで」


言葉は途切れ途切れに綴られた。


どうして全く気づかなかったのだろうか。


無力な自分を責めた。


「ごめん…」


彼女が俺の腕を掴む力は強かった。

ちゃんと配慮してれば声色が震えてたことにも気づけたかも知れない。

彼女は、無理をしていた。多大な恐怖を感じていた。

なのに、察せなかった。

俺は問題の解決だけを優先していた。

ほかのことが、見えていなかった。


…馬鹿だ。


俺の胸は、凄まじい空虚感で満たされる結果となった。


それからしばらく、鈴木は俺に体を預けて静かに泣いていた。

俺は、言葉をかけることも出来ず、ただ力なく彼女の頭を撫でることしか出来なかった。



「…大丈夫?静凪ちゃん」


しばらくしてやっと落ち着きを取り戻した彼女に、そっと声をかけた。


「ごめんね。色々」


抱きついたまま、彼女は普段の声色でそう言った。


「謝るの僕の方だ。ごめん」


彼女は、やっと顔を上げた。

目は腫れていたけど、優しく、微笑んでいた。


「ばーか」


それだけ言って、また彼女は俺の腹のあたりに顔を突っ込んだ。


「なんだよ。全くもう」


不器用な愛想笑いをする自分に、呆れた。



「ねぇ、静凪ちゃん?」


彼女が再び抱きついてきてから10分くらい経った。

しかしそれから彼女は体制も変えず抱きついてきている。

呼びかけても反応はなく、すーすーと吐息をたてている。

…寝ている。


「鈴木、起きてる?」


返事はない。

俺は、腹に回っていた手を解き、拘束から逃れた。


「それにしても、熟睡かよ…」


彼女は俺がいなくなったことにも気づかず、横寝になっている。

時刻は午後5時。

親が帰ってくるのはいつも10時過ぎだし、8時くらいまでは放置しておくことにした。


が、彼女の無防備な寝顔に、少なからず、いやかなりグラッと来ていた。

整った顔立ちに、はだけた洋服。

横になっていることでそのDくらいはある胸がむにゅぅっと強調されている。

俺は唾を飲んだ。


その時だった。


「ん…んぅ…」


彼女は少し呻くような声を出しつつ、仰向けになるように寝返りをうった。

それにより、服は張り、さらにその胸の形が強調された。


俺はその光景を目に焼き付けつつ、静かに扉を閉じた。


しかし今閉じたことに後悔している。

この扉の先に、無防備な女の子が寝ているわけだ。

ある意味、ここで何もしないのは男としてどうなんだ?もはやそれは人類への反逆だろう。


発展するためには性欲がないとならない。よって性欲に動かされてしまうのは仕方ないことなのだ。


「…はぁ」


何馬鹿なことを考えてるんだ。俺は。

仕方ないってダメに決まってる。

俺は自分の本能を理性で閉じ込め、階段を下った。


午後6時になった。

まだ鈴木は起きない。

流石に鈴木の親も心配すると思い、自分の部屋にノックして入った。


「おい、鈴木?」


「ん、んぅ…」


変な呻き声を出すだけで、起きた様子はない。

やはり、そうすると目が止まるのは…


「…デカいな」


心の声が思わず漏れた。

凄まじく触りたい。

ふつふつと湧き上がるその欲情を堪えながら、彼女の肩を軽く揺さぶった。


「お、おい。起きろって」


「んぅ〜…」


そう言ってもまだしっかりと起きない。


「せ、静凪ちゃん!」


「んぅ…飯田くん?」


肩を少し強めに揺さぶると、やっと彼女は半目に俺を見つめた。


「そろそろお母さんとかも心配すると思うから、帰ろ?」


「…あ。そっか。私…」


そう言うと、彼女はポケットから携帯を出して、少し操作してすぐぽいと枕元に放り投げた。


「ねぇ起きなって」


「お母さんに遅くなるって言った〜」


「そういう訳じゃなくてね!?」


彼女は俺の声も聞かず、うつ伏せになってしまった。


「…はぁ」


まぁまだ親が帰ってくるまで時間もある。

彼女の親も大丈夫ならもう少し寝かせてやろう。




午後8時になってしまった。

流石にそろそろ起こさないとまずい。

俺は自分の部屋を開け放つ。


「…ねぇ」


部屋の電気は、煌々と輝いている。


そして、肝心の鈴木は、


「何してんのかな?」


俺のベッドの下で、足だけ出してもぞもぞと動いていた。

思わずひきつった笑顔になる。


「あれ。飯田君くんいつからいたの」


ベッドの下から平坦な声で問いかけてきた。


「ちょうど今来たんだけど、質問に答えていただきたいな」


「んー。秘密」


そう言うと彼女はさらにベッドの奥へと潜って行った。


「あのね。なんも出てこないよ?」


きっと何かを探してるのだろうが、そんなベタな場所に隠すわけがない。


「じゃあどこにあるの」


「なにがー?」


「エロ本」


「普通に言うんだね…」


流石にそういう単語を言うとすれば彼女の感情も揺らぐかと思ったが全くだった。


「あっ!」


彼女が急に声を上げ、足をバタバタし始めた。


「ど、どうしたの」


一瞬やばいものでも置いてあったかと思い動揺した。


「…出られなくなった」


彼女は足を下ろし、脱力した。


「…何してるのほんとに」


「はーやーくー」


すぐにまた足をバタバタし始めた。

引っ張れ、ということだろうか。


「はぁ。はいはい」


若干めんどくささも感じつつ、腰を落として彼女の両足を持ち、引っ張った。


「あ、ちょっと待って!」


少し引っ張ると、彼女は急に暴れ出した。

どうしてなのか聞く間もなく、理由は目に写った。


「あっ…」


引っ張ったからか、彼女の服、すなわちスカートも地面と擦れ、ほとんど上の方にめくれていた。

つまりそこには、


「…見せパン」


普通の男のものより圧倒的に面積の少ないあの一般的な下着ではなく、ただひたすらに夢のないフリルのついた黒色の『見せることを前提とした』下着だ。


「う、うるさいなぁ。早く引っ張って」


そう言いつつ、無理やりベッドの下から手を伸ばしてきて、スカートを伸ばし下着を隠した。


見せパンと言えどそんなにガン見されるのは恥ずかしいのだろう。

彼女の体はもう腹の辺りまで出ていたが、どうやら完全に出るまでもう動く気はないようだ。


「はいはい」


見えなくなったことに残念さを感じつつ、再び彼女の両足を引く腕に力を込めた。

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