ネトスト

「完全に断ち切りたい…?」


彼女のあまりにもハッキリとした、受け取り方によっては非情な言葉に、少し動揺した。


「うん」


彼女の目は俺をじっと見据えている。


眉は少し寄って、目付きは険しくなっていた。

何か嫌なことを思い出すような、嫌悪感のような、怒りのような感情を表すように。


「えっと、どうして…いや、なんでもない」


どうしてそこまで関係を切りたいのかと聞こうとしたが、ここまで関係を拒絶したくなる理由なんて、早々言いやすいものでは無いだろう。


ただの印象だが、彼女はその人が嫌いだから、で関係を切りたいというような人格だとも思えない。


「彼と会うシチュエーションはだいたいどこ?」


「えっと、部活くらいかな」


目線を上の方にして彼女はそう答えた。


「何部?」

「テニス部」

「そっか…」


だとすると完全に絶縁するのは難しいな…


どんな振り方をするにしても、どちらかが部活に行かない、またはやめるという選択肢を取らなければ接触は避けられない。


いや。今考え込んでも意味は無い。


まずは問題点の列挙から始めよう。


「他に問題はある?」


「んー…」


彼女は目線を外して少し俯いた。


「ない、かな」


そう言った。しかし、目線は外したままだ。


おそらく、問題はある。言いづらいか、それとも言ったって解決出来ないような無理難題なのか。

そのどちらかであるが故に嘘をついたのだろう。


「あの、別に隠さなくてもいいよ」


彼女の視線が俺の方に戻った。


「僕達は恋愛相談部。だから、解決出来ないようなことでも、相談には乗れる」


「…そっか」


彼女は、少しだけ間を置いてから、口を開いた。


「その人の携帯から私に関してのデータを消してほしいの」


「データ…?」


「うん。私への連絡先とか全部」


彼女は言ったあと、視線を下げた。

できるわけが無い、そう諦めたのだろうか。


「なるほど…」


彼女が関係を切りたい理由は、おそらくだがその携帯にある。


そして、関係を切りたい理由が携帯にあるとすれば、その理由もかなり絞られてくる。


俺はこの理由を断定するためにはどう質問するのが最適か、少し考え込んだ。


「告白されたのは、何回目?」


言葉を探り探りに伝えた。

彼女は、一瞬目線をあげて、すぐに俯いた。


「…ちょっと、わかんない、かな…えへへ」


その時、彼女は初めて愛想笑いをした。

その笑顔はぎこちなく、悲しげだった。


「そっか…」


わからない、の真意は多すぎてわからない、または分かるけれど伝えたくない回数、のどちらかだろう。


少なくとも、その回数が1度や2度ではないことは簡単にわかる、


いわゆるストーカー、のようなものだろう。


彼女が逃げられない原因は先程言ってきた携帯のデータ、そして部活が同じという現状、尚且つその粘着質な彼の性格だ。


何をするにしても、情報が足りない。


しかし、出来るのならばいま彼女の負担を僅かにでも減らすべきだ。


「部活の大会とか出たりしてるの?」


「ううん。全然」


彼女は軽く首を振った。


「じゃあなんか思い入れは?」


「んー。特にないかなぁ」


「なんか色々冷めてるね…」


「ん?なんか言ったー?」


ちょっと意地悪な笑みを浮かべて聞いてきた。


「聞こえないふりでしょ」


「あらら、バレちゃった」


「こんな静かな教室なんだから、聞こえるに決まってるでしょ」


「あー。それ私のセリフじゃん」


ちょっとだけ拗ねている。

ムスッと少し膨れる様子は幼げな雰囲気を感じさせた。


「まぁ、待ってて」


そう言って、俺は席を立った。


「どこ行くのー?」


彼女も立ち上がって、ついてこようとしている。


「まぁ待っててよ」


後ろ手に手を振って、彼女は待ってるように促した。

そう言うと、彼女は何も言わずに俺を見送った。



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