夢を見る都市
「これはどう言う事なのでしょう?」
その日訪れた都市を見て、そう発したのは変わったデザインのドローンだった。
感情を感じさせない機械的な声、しかし何処か驚いたようなドローンが見ているのは広く大きな都市だった。
管理や手入れもしっかりとされていて、劣化などは見えない都市の中にはそれを管理しているであろう何体、何種類もの機械達がちらほら見て取れる。
それだけならば、今の世界でも別段珍しい事でもなかった。
ドローンが驚いたのは、その風景の中に人間がいたためである。
「人がいます。」
そう言葉を音に出すドローンに、隣にいた人間の少年が
「そうだね。」
と返事を返す。
その余りにも自然な反応に、ドローンはふわふわと浮く自身の機体を首を傾げるかのように傾けた。
「全然驚かないのですね。」
「うん。本物だったなら驚いたかもしれないけれど、これホログラムみたいだからね。」
そう言いながら少年が道ゆく人に手を伸ばすと、その手が人体をすり抜けた。
「なるほど。」
「がっかりした?」
「いいえ、特には。」
目の前の異様な光景に納得し、移動をしようとして、しかしまた新しい疑問が生まれてドローンはそれを音にした。
「なぜこんな事になっているのでしょうか?」
ドローンの疑問に少年は少し考える。
「そこまではわからないかな。何かの機械とかが壊れたのかも知れないし、誰かが意図的に行なってるのかも知れないし。」
「でわ何故このままなのでしょうか?」
その問いを聞いて、少年はまた考える。
考えながら都市を見渡す。
そこにはかつての光景が再現されている。
機械達が街を管理し、人間達はその中で生活をしている。
それを見て少年は
「寂しいからじゃないかな?」
と自分の考えを口にした。
「寂しいですか?」
「うん。きっと皆んな寂しいんだよ。だからこうして寂しくなかった時を再現しているんじゃないかな?」
少年の答えを聞いて、今度はドローンが考えて
「どうやら私には理解が出来ない事のようです。」
そう結論付けた。
「そうなの?」
「はい。だってそんな事は虚しいだけではありませんか。続けたところで虚しさが積もって寂しさが強くなるだけで、根本的な解決とは言えません。」
とはドローンの意見。
少年はそれに「そうだね。」と返した。
それから「でも」と言葉を続ける。
「いいんじゃないかな?それでも。結局は虚しいし寂しいままかも知れないけれど、それでも少しだけそう言った事から目を逸らすきっかけにはなるでしょ?」
「現実逃避は良い事とは思えません。」
「お堅いな〜。なら見に行ってみよう。じゃあ手、出して。」
なぜ?
そう思いながら、ドローンは機体に格納されている手を出した。
すると少年はその手をガシッと掴んで歩き出す。
「何をするのですか?」
「見に行くんだよ?言ったでしょ?それで確かめてみよう、虚しい事ばっかりなのかどうかをさ。」
「それは、まあ、わかったのですが、なぜ手を握っているのでしょうか?」
ドローンの疑問に少年は「それはほら。」と空いている方の手で指を刺す。
その指の先では、人間とアンドロイドが仲良く買い物をしていた。
人間は映像で、アンドロイドは実体だった。
虚像を相手にアンドロイドは笑っていたけれど、やはり何処か寂しそうでもあった。
良く見ると同じような光景はたくさんあった。
「景観は崩さないようにしないとね。」
言って少年がニッと笑う。
そんな少年を見て、やれやれと言った仕草をしつつも、ドローンは手を引かれるままに、嘘で飾られた街の中に入って行った。
終末世界にひとりきり 鳥の音 @Noizu0
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