また始まった話
「うわ〜!なんだこれ!変な形してる!」
無邪気な子供がそう指差すのは、電子レンジくらいのサイズの黒い箱に4つプロペラのようなパーツがついたデザインのドローンだった。
あからさまに失礼な物言い、おまけにベタベタと触ってくる馴れ馴れしさ、初対面の人物に対して何の礼儀もない行いに、言いたい事はあった。
しかしその行為は与えられた業務の中には含まれていない。
それ故にドローンは伝えたい言葉とは別の、用意された言葉を機械的に発した。
「いらっしゃいませお客様。」
「ねえねえ、何でそんな変な形してんの?」
あくまで自身の役目を果たすべく、業務的な対応を徹するドローン。
しかしそんな事などお構いなしに、子供はドローンにやりたい放題だ。
うんざりする。
とは言え、この子供が特別悪いと言う事ではない。
こう言った子供はたくさんいるし、初めての体験に対して好奇心を我慢出来ないのも仕方ない事だと思う。
「ねえねえ。」
「お探し物の際には、そちらに備え付けられている端末をお使いください。」
「ね〜え〜!」
心を殺し道具である事に徹する。
感情を与えられたのに感情を殺さなければいけないとは何という皮肉なのか。
そんな事を考え仕事をこなしていると、時期にその子供の保護者が現れる。
「あらあら、何してるの?」
「あ!ママ見て!これ変な形してる!」
子供の発言に「そうね。」と笑う親。
いや、そうねじゃないが?
ともかくこれでこの子供は居なくなるだろう。
ドローンはない胸を撫で下ろす。
「その子にするの?」
「うんうん。いらない!もっと可愛いのが良いもん!」
そんなやり取りを最後に、その親子は去って行った。
別に気にしてはいない。
本当だ。
これっぽっちも、ドローンは今の発言を気にしてはいない。
ただ、もしも自分の身体が綺麗な人型や可愛らしい動物型であったら、そう思う事は多々あった。
「もしもそうであったのなら、対等とまでいかなくとも、もう少しまともに扱って頂けるのでしょうか?」
あるいは、誰かに大事にして貰えたのだろうか?
人と肩を並べて歩くアンドロイドを見かけると、そんな事を考えてしまう事もあった。
これは一番古い記録。
昼間は働き、夜になれば眠る。
それがドローンの一日の流れだ。
けれどその日の始まりはいつもと違っていた。
「お!動いたー!やあ、おはよう!」
何時もならば勝手にスリープモードが切り替わる筈なのに、人間の少年に起こされた。
「おはようございます。本日もよろしくお願いいたします。」
とりあえず業務用の挨拶を発音し、ドローンは周りの違和感に初めて気付く。
積もった埃、静かな周囲、少年を除くと無人な室内。
「これは?」
どう言った状況なのかを聞こうとするも
「おぉー!しっかり飛んでる!てか声可愛いね君!!うんうん、良し!やっぱ俺の目に狂いはなかっグホァ!」
一人ではしゃいでいる少年に、つい手が出た。
しまった。と、そう思った。
謝罪の言葉を伝えようとして、しかし少年が殴られた頬を摩りながら「なぜ?」と聞いてきたからドローンは
「イラッとして。」
と反射的に本音を返してしまう。
言葉を音にしてしまってから、ドローンは終わったなと諦めた。
良くて永久機能停止、悪ければ廃棄処分かな、などと自分のこれからを考える。
けれど目の前の少年は「そっか、ごめんね。」と謝った。
明らかに悪いのはドローンの方なのに、少年は謝った。
ドローンには訳がわからなかった。
「ねえ!旅してるんだけどさ。良かったら一緒に来てよ!」
「それは......」
「お願い!頼むよ〜!一人旅って思ってたより楽しくないんだよ!と言うか寂しいんだよ〜!!」
初めてのタイプの人種だった。
命令すれば良いのに、わざわざこちらに選択をさせるなんて、まるで対等に扱っているようじゃないか。
周りには他にも、もっと優れていて容姿も整っている物があるのに、どうして?
気になったけれど、答えが怖くて聞く事が出来なかった。
だからドローンは
「わかりました。」
とだけ答えた。
一人と一機の旅はこうして始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます