もう終わった話

診察室のような内装の部屋で、その二人は向き合うように座っていた。


「さて、これが恐らく最後の定期検査な訳ですが。何か変わった所はありますか?」


回転式の椅子をくるりと回し、そう話しかけて来るのは小柄な女性だ。

彼女の背よりも少し丈の長い白衣と頭を丸々覆い隠す紙袋が特徴的で尚且つ異様さを放っている。


「別に。」


そう不機嫌そうに素っ気なく返すのは、患者服姿の少年だ。


「ふむ。相変わらず機嫌が悪いですね、君は。」


「そりゃ不愉快だからね。当然でしょう?」


少年は笑顔ではあるが、笑ってはいなかった。

あからさまにイラついている少年に白衣の女性は「そうですね。」と頷く。


「やはり嫌ですか?」


「嫌じゃなかったらこんなに不機嫌じゃないよ。」


「ふむ。ならいっその事すっぽかしてしまってわ?」


女性のそんな提案に、少年は「それは。」と言葉を詰まらせる。


「いいじゃないですか?そも、君のような幼い少年一人が背負う必要は何処にもないと私は常々思ってましたし。」


「でも俺が逃げたら......」


「皆、緩やかに死ぬでしょうね。ですがそれは普通の事ですよ。」


「そうかもしれないけど。」


困ったように俯く少年に女性は優しく言葉を投げる。


「君は人間が好きですか?」


その問いに、少年は静かに首を横に振る。

それを見て、女性は「私と同じですね。」と笑った。


「例え普通とは異なる生まれ方をしたのだとしても、君だって人間なんです。なら他の人間と同じように、君も自由に生きていいんです。」


「......。」


「ふむ。さて、それでは検査もこれで終わりです。私もあちらへ行かなければならないので、これでお別れですね。」


女性は椅子から立ち上がると、少年へと近付き彼の頭に手を置く。


「私が何を言ったところで最後に決めるのは君自身です。ですがこれだけは覚えておいてください。何をせずとも時間は進みます。生き物の時間は有限です。だから、どうか後悔だけはしないように。お互い良い終末を過ごしましょう。。」




「......ん?ああ、夢か。」


目を覚ませば、そこは廃墟の一室だった。

即席で作った寝所から、人間の少年が身体を起こし伸びをする。


「おや?今日は早いのですね。おはようございます。」


目覚めた少年にそう挨拶をするのは、変わったデザインのドローンだった。

丁寧で無機質な言葉と四角い身体に、夢で見た懐かしい人物が重なって、何とも言えない気持ちになった。

こうして今日も一日が始まる。

自分は今、悔いの無い日々を過ごせているのだろうかと疑問を持ちながら、少年は今日も終末を過ごす。

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