シュレディンガーの猫

「ボクはね、高い所が好きなんだ。高い所から周囲を見渡すと色々な物が見えるだろう?動いていないのに沢山の物を見渡せるあの感じ、全能感とでも言えば良いのかな?ともかくソレがとてもとても好きでね。」


「なるほど、概ね理解しました。つまり全能感に酔って落っこちたと。」


大きな商業ビルの真前に半壊した状態で倒れていた、頑丈そうな設計の人形ロボットの話をきき、変わったデザインのドローンがここで何があったのかの推理し語る。


「いやぁー、そうなんだよね。力仕事を想定されて作られたお陰で完全には壊れなかったんだけども、流石に無傷とは行かなかったよね!いやー今回は高過ぎたみたいだ。」


「壊れた割に元気ですね。もう少し自身の行いを恥じては?」


ドローンの指摘にロボットは「面目ない。」と笑う。

そんなロボットの反応に「はぁー」とあからさまな呆れた反応をすると、壊れた下半身の修理作業をしている人間の少年の方へとフワフワと移動する。


「どうですか?」


「うん、見事に壊れてる。」


「治せそうですか?」


「この街、管理用ロボットが沢山いたし部品を取り扱ってるお店もあるだろうから何とかなると思う。」


「ふむ。だそうですよ?」


「いや、すまないね!面倒を掛けてしまって。」


爪も皮膚もないためにコツコツと音を立てながら頭を掻く仕草をするロボットに「気にしないで。」と少年は返す。

それから


「じゃあ部品探しに行ってくる。」


と言い残すと少年は商業ビルの中へと入って行った。

それを追おうとしたドローンをロボットが「なあ?」と引き留める。


「何ですか?」


「空を飛べる君は、雲の上に行った事はあるかい?」


先程と違い何処か真剣な声色のロボットに、しかしドローンは変わらぬ調子で「いいえ。」と返す。


「雲の上に行きたいのですか?」


その問いにロボットは首を横に振る。


「人間は停止すると空へ行くと聞いた事があるんだ。だから居なくなってしまった人達は、皆あの空を漂う雲の上に居るのかなと、そう思ってね。今までずっと雲を見ていた。でも、結局わからなかった。」


「そうですか。」


「君は、どう思う?人間は雲の上にいると思うかい?」


ロボットはその問いの答えを既に持っている。

ドローンはそう考えていた。

それ故にこのロボットは飛んだのだろう。

逃飛したのだろうと。

だからドローンは僅かに考えた。

何と答えるべきなのかを。


「いるかもしれませんね。」


「理由を聞いても良いかい?」


「私達は人間によって作られました。生命すら創り出せるのです。雲の上に移住していたとしてもおかしくないのでわないかと。」


ドローンの意見に、ロボットは「そうか。」とだけ返すと静かに空を見上げ始める。


「では、私も行きます。」


そう残し、ドローンもその場を後にした。

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