禁書図書館

木製の床、たくさんの机と椅子、一面の本棚、そして棚にギッシリと詰まった本の数々。

そこは大きな図書館だ。

人がまだいた頃ならばたくさんの人間が足を運んだであろう図書館には今はもう誰もいない。

しかし不思議な事に室内にある全てのものがしっかりと管理されているようで埃一つない。


「凄いなー。」


そう零したのは人間の少年だ。

全体的に黒い服の上に薄手の灰色のパーカーを着た少年。


「掃除が行き届いてますね。」


無機質な声でそう発言したのは変わったデザインのドローンだ。

電子レンジくらいのサイズの黒い箱に4つプロペラのようなパーツがついたデザインのドローン。


「どなたか住んでいるのでしょうか?」


そんなドローンの疑問は直ぐに解消される事になる。

突然、図書館の各所に設置されているモニターの電源が入った。


「ようこそ、お客様、私は本図書館で司書をしているものです。」


モニターに映し出されたのは長い黒髪とツリ目と黒縁の眼鏡が特徴的なスーツ姿の女性だった。


「これは、映像ですか?」


「いや、電脳体だね。」


「電脳体?」


「うん、自動人形の体が電子で出来ていると思って貰えばいいよ。昔に流行ってたバーチャルクリエイターとかがこれだったから別に珍しい物ではないんだけど......」


と、途中で少年は言葉を止め電脳体、司書を観察するように見る。


「どうかなさいましたか?人間のお客様。」


そんな少年の視線に気付き司書もまた不思議そうに少年を見た。

少年は何かを言おうとして、しかし首を横に振る。


「しかし困りました。せっかくお客様が来てくださったと言うのに、ただいまは本の貸し出しを禁止しているのです。」


「え?貸し出ししてないの?図書館なのに?」


「はい。」


眼鏡をクイッと上げる仕草をし司書はキッパリと答えた。


「何か理由があるのですか?」


今度はドローンが問を投げ掛ける。

それに司書は首を縦に降る。


「ここの本は危険な代物なのです。だから読む事を禁止しています。」


奇妙な話だと一人と一機は思った。


「どのように危険なのですか?」


当然の疑問をドローンは問う。


「ここの本達は機械を狂わせるのです。」


それが返ってきた答えだった。

曰く、本を読んだ機械達が命令を効かなくなったらしい。

最初におかしくなったのは掃除用のルンバだったそうだ。


「アレの仕事は朝昼晩の掃除のみなのです。しかし本を読んで以来図書館の外に勝手に出て行くようになりました。」


次に狂ったのは本を検索する用の機械だったそうだ。


「本来ならば探したい本を検索すると何処にあるのかを教えてくれる機械でした。しかし最近では決まった本しか表示されなくなったのです。」


そうして少しづつこの部屋にある機械達が狂っていったそうだ。

奇妙な話だと司書は言った。

確かにそうですねとドローンも同意していた。

しかし少年だけが「なるほど」と何かを理解したようだった。


「ねえ司書さん、1つ質問いいかな?」


「はい、どうぞ。」


「君は本を読んでみた?」


少年の質問に司書は首を縦に降る。


「異常は感じた?」


その質問に司書は少し考えた。

本を読んで自分が感じた事を。


「胸が痛くて、ザワついて、苦しくて、暖かくて、心地よくて、目に入る物が少しだけ鮮やかに感じるようになりました。」


「それで何か危険な感じはした?」


「いえ、いえ、これはきっと、危険な事ではないと......私は思います。」


その時の司書はとても眩しい笑顔だった。

本来、電脳体に自我はない。

設定されたパターンでしか動くことが出来ないソレがなぜ呼んでもいないのに勝手に出て来たのか...

少年は棚にある本を手に取り優しく表紙を撫でた。

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