逃避行

広い公園、人がいた頃は管理されていたであろうその場所は、草木が生い茂りちょっとした林のようになっていた。

そしてそんな場所を探索するのは人間の少年と変わったデザインのドローンだった。

その場所へ訪れたのはただの気まぐれだった。

ただ、なんとなく、見ていてワクワクしたから中を探索した。

全体的に緑の葉が生い茂った公園、すっかり干上がってしまった池や噴水、錆び付き育った草に覆われた遊具

そうした物の中にあった休憩スペースで一人と一機はソレと出会った。

ボロボロに朽ちかけた男性タイプの自動人形だった。


「おや、これはまた、久しい、こんにちは、今日も良い天気ですね。」


自動人形は少年と目が合うなり挨拶をする。

声帯パーツも不備があるようで声にはノイズが混じっていた。


「こんにちは、こんな所で何をしてるの?」


少年も挨拶を返し、ドローンは軽く会釈だけした。


「今日は良き日です。だからこうして空を眺めていたのですよ。」


自動人形は遠くを眺めながらそう返す。


「そうなんだ。」


「貴方はなぜここへ?」


今度は自動人形が少年へ尋ねてくる。


「俺は、うーん、なんとなくかな?特に理由はないんだ。」


アハハと笑いながら少年は返答する。

そんな少年を見て自動人形はニッコリと優しい笑みを浮かべた。


「貴方は、私の主人に良く似ている......どうです?この後予定がないのなら私と一緒に行きませんか?」


それを聞いていたドローンは少年のパーカーの裾を引っ張った。

少年はドローンの方へ目を向け小さく頷き、そして再び自動人形の方へ向き直る。


「予定は特にないけれど......ごめん、俺は一緒に行けないや。」


少年は真っ直ぐ自動人形の目を見てそう返す。


「そうですか。」


自動人形はそう零すとそのまま黙り込んでしまった。

少年がそんな自動人形に何かを言おうとした所で、ドローンに手を強く引かれた。

そしてそのままドローンに手を引かれる形で、一人と一機はの場を後にした。


「同情するのは危険です。今後は気を付けてください。」


少年の手を引いたまま、無機質な声でドローンが言った。

それがなんとなくお説教をする大人のように見えて少年は笑った。


まだこの世界に人がいた頃、自動人形はとても優れた自我を有し人々の良きパートナーとして暮らしていた。

しかし、だからこそ起きる問題もあった。

ソレは自動人形だけがなる心の病。

主人を失った自動人形が希になる病気。

具体的には死を受け入れる事が出来ず永遠に自分の主人を探し続けると言う物だ。

そしてその過程で少しづつ狂っていく。

最初は主人を探しているのだが、少しづつ現実に気付き始めるのだろう、いつしか探している者が面影に変わる。

見た目が似ている、考えが似ている、性別が似ている、形が似ている。

そうして主人の面影を見つけると共に永遠に眠りにつく。

自我を持ち、本当に主人を愛するからこそなってしまう心の病、あの自動人形はそれだった。

あの自動人形の主人がどんな人物だったのかはわからないが、しかし自動人形の朽ち具合を見る限り、きっと自分とは全く違う人物なのだろうと少年は思った。

そして、そんなに大好きだった人物の変わりを求めていたのだと思うと、そんなに大切な人物に変わりがいるのだと言う考えになってしまったのだと思うと、少年はとても悲しくなった。

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