大人の資格
「こっ、これは!まさか......。」
無人のデパートにそんな声が響き渡る。
声の主は少年だ。
全体的に黒い服の上から薄手の灰色のパーカーを着ている。
少年は白い小さな箱を拾うと何やらはしゃいでいる。
「どうしたのですか?気味の悪い声を出して。」
そんなはしゃぐ少年に無機質な女性の声で喋りかけるのは人ではなくドローンだ。
電子レンジくらいの黒く四角い箱にプロペラのようなパーツが取り付けられた、少し変わったデザインのドローンだ。
「如何わしいものでも拾ったのですか?」
感情を表現出来ないドローンは無機質に答える。
しかし付き合いの長い少年には、彼女がドン引きしているだろう事が理解出来た。
だから変な誤解をされる前に、少年は拾った物をドローンに見せた。
「これは......タバコですか。」
少年が拾った物の正体はタバコだった。
小さな白い箱の中には白い棒状の物がいくつも入っている。
「これがどうしたのですか?」
こんな物で少年がはしゃいでいた理由が理解出来ず、ドローンはふわふわと浮く四角い体を傾げた。
「わかってないな...これは大人の嗜みなんだよ!」
ドヤ顔だった。
「では貴方様は子供なのですね。」
「今まではね、でもこれで俺も大人の仲間入りだね。」
「吸うのですか?」
「せっかくだからね。」
少年は白い箱から1本タバコを取り出す。
「体には悪影響しかありませんが、吸うんですか。」
ドローンが脅かすように少年に言う。
しかし少年の意思は硬いようで、首を縦に降った。
そこまでならばと、ドローンはこれ以上何も言わなかった。
ゴソゴソとポケットからライターを出すと手に持っているタバコに火を近づける。
しかし.........
「つきませんね。」
「つかないね......。」
一向に火がつく気配はなかった。
「大人への道は遠いようですね。」
「そだね。」
思い通りにいかずに少年は肩を落とす。
「やっぱり体に悪いのはダメだね!」
「そうですね、貴方様にはこちらのがあっています。」
そう言ってドローンは近くにあったお菓子棚から紺色の小さな箱を取ると、中に入っている白い棒状の物を少年の口に突っ込んだ。
「もがっ!何これ!甘!うま!」
「ココアシガレットと言う砂糖菓子です。」
「へー、何か煙草に形が似てるね。」
「煙草を模して作られたお菓子ですからね。」
「へぇー。ん?じゃあこれも大人の嗜みなのでは!」
「まあ、確かに、元々は喫煙者が喫煙前に食べる物だったそうですからあながち間違ってないのかも......。」
「だよね!これで俺も大人か。」
嬉しそうにしている少年を見てドローンは伝えるべきかと悩み頬をかくような真似をする。
ココアシガレットとは、確かに元々喫煙者用に作られた物ではあったのだが一般的には子供のお菓子として知れ渡っている。
「いいな。これ、何個か拝借してこ。」
しかしドローンの心配は無駄だったようで、少年の頭にはもう煙草の事より面白いお菓子の事しかなかった。
ドローンは少年を見てため息をひとつつくと床に放り捨てられた封の空いてしまった白い箱を棚に戻した。
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