世界を泳ぐ
何故だが、その街は水没していた。
大きな川か何かが決壊したのか、雨水が溜まってしまったのか、理由は全くわからないのだが、とにかく水没していた。
大きな建造物の上階と思われる物がいくつも水面から顔を覗かせているのが伺える事からかなり深いであろう事がわかる。
「ふーふー、ふーふー、ふーふーふー。」
そんな街の水辺で、少年は鼻歌を歌いながら洗い物をしていた。
「楽しそうですね。」
楽しそうな少年にそう返すのは、少年の旅の相棒のドローンだ。
電子レンジくらいのサイズの黒い箱にプロペラのような部品が着いたデザインのドローン。
しかしその日は少し違った。
なぜなら少年が洗っているのはドローンの部品だったからだ。
そのため、全ての部品が外されてしまっている。
だから今は、ドローンと言うよりただの黒い箱にしか見えない。
「良いですね、貴方様は……私は余り楽しくありません。」
いつも通り感情を感じられない無機質な女性の声で、ドローンはポツリと呟いた。
「洗い終わったら乾くまで抱えて歩いてあげるから、そんな拗ねないでよ。」
「別に拗ねてはいません……でも、早く終わらせてください。」
「了解。」と返答すると少年は部品を洗う手を少し早めた。
バチャバチャと言う音と共に部品に付いた砂埃が透明な水に溶けていく。
「釣竿、捨てないで持ってくればよかったなー。」
水没した街を見渡しながら、ポツリと少年が言った。
「魚、いるのでしょうか?」
少年の独り言にドローンが返答を返す。
少年は作業する手を止め、1度水没した街を見渡す。
とても綺麗で透明な水面には、空が反射していて、まるで空が2つあるかのようだった。
端から端を見渡し最後に水面に写ったもう一人の自分を見ると再び作業を再開した。
「うーん……どうだろ?そう言うのは君のがわかるんじゃないの?」
「これだけ広いと調べるのは難しいですね。」
「そっかー……よし、こんなもんで良いかな。」
話しながらも手を動かしていた少年は作業を終えた。
洗った部品をタオルで軽く拭いて綺麗に並べると黒い箱になってしまったドローンを両手で持ち上げると抱き抱えた。
「何か見たいものはある?」
「では、沈んだ街を見せてください。」
ドローンを頭の上くらいまで持ち上げる。
「どう?」
「いい眺めですね。」
ドローンはしばらく黙り込んでその水没した街を見る。
目で見える範囲を見渡し、最後に水面に写った自分の姿を見た。
そこには黒い箱を掲げる少年が写っている。
それが何となく間抜けに見えてドローン可笑しいと思った。
「何か面白い物でもあったの?」
少年はそれを察したのかドローンにそう聞いた。
「そうですね。」
「魚でもいた?」
「いえ、頭の悪そうな人間が見えた物で……ぷぷ。」
「頭の悪そうな人間……て、俺じゃん!」
「そもそも、人間は貴方しかいませんので。」
その後も一人と一機は街の周辺をしばらく探索した。
水没した街を泳ぐ影が、時たま水上に飛び跳ね大きな水溜まりに波紋を作ったが、一人と一機がそれに気付くことは無かった。
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