歩き始める

ザーザーと雨の音がする。

薄暗い劇場の廃墟に人影が2つと浮遊する不思議な形の影が一つある。

一つは少年だ。

黒のTシャツに黒のズボン薄手の灰色のパーカーを上に着た少年。

一つは汚れた長い金髪が特徴的な少女型の自動人形。

綺麗に整っていたであろう顔は右半分の損傷が激しく少し不気味に見える少女。

そしてもう一つはドローンだ。

電子レンジくらいのサイズの黒い箱に4つプロペラのようなパーツが着いたデザインのドローン。


「やっぱ勿体無いな…うん。」


「あ、あのー……。」


少年に至近距離で眺められ困ったような表情を浮かべる自動人形。


「どうしたのですか?」


「せっかく可愛いのに服はボロボロだし顔も壊れてて勿体無いなと。」


「ふむ……確かに損傷が酷いですね。顔だけでなく足も片方壊れてしまっています。」


言われて見ると確かに左足が膝先から取れそうになっている。


「あー、関節部が壊れてるや…でも他のパーツは大丈夫そうだよ。」


「解るんですか?」


「うーん……なんとなく?」


破損部を真剣に観察する少年。

少年のそんな表情を見る事が初めてだったドローンは少し感心していた。


「お嬢さん、歌のお礼にこの足治してあげるよ。」


「治るんですか?」


足が壊れて不便だったのであろう。

自動人形は嬉しそうに笑顔になる。


「部品を取り替えればすぐに治せるよ。」


「でも部品なんてこの辺には……。」


少年の返答にしょんぼりと俯いてしまう自動人形。

そんな彼女の頭を優しく撫でながら少年は優しく笑う。


「大丈夫、部品ならあるよ。ね?」


「はい?」


唐突に話を振られてドローンは珍しく間抜けな声が出た。

顔があったのなら間違いなくポカーンとしていただろう。


「こっちにおいでー。」


「拒否します。」


「あ、まて!逃げるな!」


嫌な悪寒を感じドローンは少年から距離を置く、それを見て逃がすかと少年はドローンを追いかけた。

突然追いかけっこを始めた2人を自動人形は最初は呆然と眺めていたが次第に可笑しくて笑いだした。

しかし程なくドローンは取り押さえられたのだった。



「よし!どう?歩ける?」


自動人形は足を動かす。

恐る恐る立ち上がり歩き始める。

しばらく歩くと次は軽く走り出す。

次第に動きは激しくなり飛んだり跳ねたり回ったり。

歌だけでなくダンスも出来たのかもしれない、凄く身軽に動く。


「凄いです!」


「うん……凄いね。」


「活発な方だったようですね。」


嬉しそうに劇場ないを飛び回る自動人形を一人と一機は呆然と眺めていた。


「ありがとうございます。人間様とお連れ様。」


一通り動いて満足したのだろう。

自動人形は少年とドローンの元へ戻ると深々と頭を下げる。


「いいのいいの、歌のお礼だから。それに俺はパーツ付け替えただけだから。」


「そうですね、貴方様は私の腕をもいでバラして付け替えただけですね。」


ニコニコと返答する少年を見ながら、ドローンはあからさまに不機嫌と言った感じだ。


「ごめんて、すぐに新しいパーツ見つけて治してあげるからさ。」


「また…もいでバラすんでしょうね…。」


「ごめんって…。」


気付けば雨はすっかり止んだようで雨音が聞こえなくなっていた。

雨宿りももう終わりのようだ。

当然の事だがドローンの機嫌はしばらく治らなかった。

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