真夜中の歌姫
「人間様、歌はいかがですか?」
「かわいい……痛いっ!」
「これは人ではないですよね……何ですか?」
何時も通りに目的もなくモトコンポを走らせていた少年とドローンであったがその日は運悪く大雨に振られてしまった。
そのため近くにあった劇場に雨宿りをしようと入ったのだがどうやら先客がいたようだった。
「歌は…いかがですか?」
「うーん、かわいい……あ、ごめんって、殴ろうとしないで!この子の説明ね……見た所自動人形ってやつだと思うよ。」
「自動人形ですか。」
少年に言われてドローンは自動人形を観察する。
金色の長い髪は汚れて埃まみれになっている。
とても整っていて綺麗だったであろう顔は右半分の損傷が激しくヒビ割れ右目が潰れてしまっているため不気味に見えた。
服はどうしたのかボロ布を纏っているだけだった。
少年はかわいいと言っているがドローンにはとてもそうは見えなかった。
「あの……?」
「お嬢さん、お名前を伺っても?」
「えっと……」
「何しているのですか?」
「ヘブッ!」
ドローンの容赦ないチョップが自動人形に詰め寄っていた少年の頭に振り下ろされ鈍い音がする。
「あ、あの…大丈夫ですか?」
「うん、いつもの事だから…それよりお嬢さんの名前は?」
「すいません。私に名前はないんです。番号で呼ばれていたので…。」
自動人形は少し困ったような顔をする。
「そっかー、ならしょうがない…。」
「歌が好きなのですか?」
「はい、私が歌うとたくさんの人が笑顔になるんです。だから私は歌が好きです。」
「ほーう、ならせっかくだし一曲歌ってもらおうかな。」
「はい、何かリクエストはありますか?」
「きらきら星。」
ドヤ顔だった。
特に意味も無く少年はドヤ顔だった。
「承りました。」
そんな少年を見てクスッと笑うと自動人形はきらきら星を歌い出す。
僅かに雨音がする薄暗い劇場内に自動人形の歌声が響く。
その歌声は透き通っていて、とても綺麗で少年もドローンも自動人形が歌う歌をただただ静かに聞き入っていた。
「どうでしたか?」
上目遣いで少し不安そうに自動人形が訪ねる。
「とても素晴らしかったです。」
感情表現をする術がないドローンは静かにそう答える。
「いい!凄くいい!」
少年は大はしゃぎしながらそう叫んだ。
「それは良かったです。」
自動人形はそんな一人と一機を見て嬉しそうに笑った。
先程まで小雨だった雨はいつの間にか大雨になったようで雨音の激しさが劇場内でもわかるほどだった。
雨宿りはまだ終わらない。
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