杖打ち20の刑

「では、この一行の責任者ノアゼットに杖打ち20の刑を……」

「まってくれ」

 慌てて俺が口を挟む。

「禁を犯したのは俺だ。ノアゼット様は関係ない」


「余の裁定に不服があると?」

「ああ、あるね」

 俺の返事に周囲の者から非難の声が上がる。それを手で制して、アンファール王は言う。


「罪を認めぬというのか? 大方、触れてはならぬという決まりを知らなかったとでも主張するのであろう?」

「いや、俺としちゃ言いたいこともあるが、不知を理由に免罪を主張はしない」

「ほう。ならば何を不服というのだ」


「罰するなら実行犯である俺であるべきだ」

「かの者はそなたの主であろう。上に立つ者は配下の者を監督し、その不始末の責を負わねばならぬ」

 俺のいた世界じゃ、上に立つ奴ってのは手柄を奪って、失敗の責任を押し付ける奴らだったけどな。


「そうかもな。ただ、俺は分からず屋でね。普段から言うことを聞かないもんだから、拘束具を着けられているぐらいだ。見栄えが良くないんでお見せはできないが。そんな出来の悪い奴の責任まで負わされるのは過酷ってもんじゃないか」


「だが、お前の主であることは変わらん」

「クラウス様に強制されてのことだ。できることなら俺を追放したいって前にも言われたよ」

「なぜそうまで言って、自らの責任を主張する?」


「俺は誰かの責任を押し付けられるばかりの人生だったんでね。無実の罪を押し付けられるのには飽き飽きしてるんだ。だから、逆に俺の不始末を誰かに代ってもらおうって気もないのさ。死ぬほどカッコ悪いから」

 決まった。くう、俺カッコイイ。この姿に感動して、罪が帳消しになったりするんじゃないか?


「良かろう。そなたの名は?」

「シューニャ」

「では、シューニャを杖打ち20の刑とする。直ちに執行せよ」

 ははは。罪が帳消しになるなんて、さすがにそんなにうまくはいかないか。


 まあいいだろう。か弱い女の子が杖打ちになるのを見逃したんじゃ漢じゃねえ。あのほっそい体じゃ2打ちで昏倒するかもしらん。

「上着を脱いでここに立つのだ」

 え、脱ぐの? イヤン恥ずかしい。


 馬鹿やってないで、言われるままに上半身の服を脱ぎ、両手を頭の上で組む。まあ、エルフは体が細いし力は大したことないだろうと思っていたら、細マッチョが杖を持って進み出てきた。ちょ、あっちのお姉さんじゃないのかよ。慌てて背中に意識を集中する。


「ひとつ!」

 掛け声と共にビュンと音がして、背中に杖が打ち込まれた。ビシッ。衝撃に耐える。うーん、ちょっと技を効かせ過ぎたな。まったく痛みを感じないや。神様に授けられた技の39番。身体硬化。素早い動きができなくなる代わりに体が硬くなる。よし、少し効果を下げよう。


 ビシッ!!! いてええ。涙が思わず出た。背中がズキンズキンと痛む。うは、効果下げ過ぎた。えーと、もうちょい。それから数発打たれる間に丁度良い塩梅のスキル強度となった。痛みは感じて体が赤くなるけど、実はそんなにダメージがない程度。


 例えるなら、頬を染めながらノアゼット様が俺に愛の告白をしてきて、思わず夢じゃないかと自分のほっぺを思いっきりつねったときの痛みぐらい。まあ、そんな体験はしたことないから分からんけどな。


「20!」

 最後の一発が背中に食い込む。こいつはスキル無しで受けた。衝撃と痛みでひざが落ちる。組んだ手を放して手をつき体を支えた。ひいい。これ20発受けたら体バラバラになるぞ。きっと、背中が腫れるな。


「シューニャ!」

 崩折れた俺を見て、悲鳴のような声があがる。俺は深呼吸をして立ち上がると手を振った。いつまでも裸でいるわけにもいかないので、服を拾って頭から被る。背中と擦れて、ゾクリときた。


 そんな俺を面白そうにエルフの王は見ている。

「刑の執行、つつがなく終了いたしました」

 それに対して、僅かに首を縦に振り、同意の意を示すと、俺に向かって話しかけてくる。


「よく大人しく杖を受けたな」

「他に選択肢はありませんでしたからね」

「戦おうとは思わなかったのか?」

「そこまで能天気じゃありません。あなたとやりあっても勝てる自信がないです。勝ったところでこの場所から出る方法が分かりませんし」


「意外と冷静に状況判断ができるのだな。主を庇おうとする心意気といい、単なる戦闘屋ではない。気に入ったぞ」

 後ろを振り向き、配下の者に指示を出す。

「この者たちと食事を共にする。支度を」


 促されて、広場の奥についていく。歩きながら、皆が心配そうに俺に声をかけてきた。

「シューニャ、痛くない?」

 片目をつぶって、右手の親指を立ててみるが、その影響で服と背中がこすれ合わさり、顔をしかめてしまう。カッコつけたのが台無しだ。


 広場の奥には床に敷物が広げられており、食べ物と飲み物が用意されていた。意外に質素で、いつも食べているビスケットに似たものに、いい香りのする飲み物だけだった。

「久方ぶりの我らが客人に」

 アンファールが杯を掲げる。

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