トラブル発生
しばらく進むと、ひと際大きくて立派な木が立っている広場に出る。広場の周辺の木の上には小屋ができており、その小屋を木や蔦で作られた細い通路のようなものが結んでいる。人影は見えるがこいつらは姿を見せようとしない。遠巻きにして俺達を監視している。
「王が来られるまで、しばしそこで待て」
「急ぐ旅なのであまり待たされては困る」
「そちらの事情など知らぬ。あまり時間はかからぬだろう。大人しく待つ方が身のためだぞ、人間」
「断ると言ったら?」
俺の目の前1メートルほどのところに矢が突き立つ。
「今のは警告だ。次はお前を貫く」
ほえー。弾道から危険はないと思って反応しなかったけど、反応して見せた方が良かったかな。まあ、射手が多いと全部に対応するのは大変だしな。
「仕方ないんで少し待ちますか」
俺は矢に背を向けて、皆に話しかける。
「ここはどこなのでしょう? ただの森とは思えません。それにあの巨木、何か不思議な力を感じます」
「ココはエルフの理想郷だよ」
プウラムがこともなげに告げる。
「エルフの理想郷! 本当に実在するのですね」
そう言って、絶句するノアゼット様。
「マダム、それって驚くほどのことなのですか?」
「ええ。あらゆる森や林の根源と言われている場所です。おそらく今までに訪れた者はほとんどいないでしょう」
「本当にエルフの理想郷とかいう場所なんですかね?」
「本当だぞ。ウソじゃないもん」
そう言って、プウラムは俺に向かって、ほっぺを膨らませ、舌を突き出した。
「たぶん、間違いないと思うわよ。この感覚、神界に似ている感じがする」
そーいえば、俺がこの世界に初めて連れてこられて、神と話をした場所の感じに似てる気がする。
「なんでこんなところに連れて来たんだ?」
「わからない。いつの間にかココに来ていた」
わお、プウラムも分からず、この場所に来ちまったのか。
「この場所からの出方は分かるか?」
返事がない。
「あの木に呼ばれている気がした」
そう言って、広場の真ん中にそびえる巨木を差す。そして、プウラムはしばらく巨木を見つめていたが、トコトコと巨木に向かって歩き出した。
「森の娘よ、止まれ。そなたといえど、我らの王の許しなく触れようとしてはならぬ」
しかし、プウラムは止まらない。
「これが最後だ。止まれ」
切迫した声と共に鋭い矢音が響き、プウラムのすぐ側の地面に3本の矢が突き立つ。プウラムは気に留める様子もなく歩み続ける。
「プウラム。止まりなさい」
ノアゼット様の声に一瞬振り返るが、ニコッと笑うとまた巨木に向かって進み始めた。まずい。周囲の空気が変わったのを感じて、俺は勢いよく地面を蹴り、走り出す。それと同時に四方から矢が放たれるのを感じた。標的はプウラム!
俺は最後の数メートルをジャンプし、プウラムに突っ込む。俺が通り過ぎた後を数本の矢が通過していく音が聞こえた。勢いあまって、そのままプウラムを中に抱きかかえるようにして、ゴロゴロと地面を転がる。そして、何かにドンと当たって俺は転がるのをやめた。
腕の中のプウラムに怪我はないかと見ると、ケロリとして俺の手を振りほどき、立ち上がる。慌てて抱きしめようとするが間に合わなかった。第2射が飛んでくるのに備えて、かばうように俺も跳ね起きる。第2射は飛んでこなかった。俺がぶつかったもの、そして、プウラムが手を伸ばしているものは、あの巨木だった。
プウラムは巨木に手で触れ、嬉しそうな顔をした。その顔もこの場所の他の木々と同じように光り輝いている。そこまで見届けて、俺は、周囲の殺気に対峙する。尖った耳をした眉目秀麗な数人が、抜身の兼や手槍などを構えて、俺達を取り囲んでいる。この木に流れ弾が当たるのを避けるため、弓矢は捨てたようだ。
プウラムは周りの者たちなど気にせず、満足したような顔をして、またトコトコとノアゼット様達の所に戻ろうとする。なんという超マイペースぶり。周囲のエルフ達もあっけにとられて道を開ける。
突っ立ったままの俺に気づくと戻ってきて、俺の手を掴んで言った。
「ね。あっちに戻ろう」
エルフ達は、今度は行く手を遮ろうとする。
「森の娘よ。始祖に認められたそなたは通って構わん。ただ、その人間は残れ」
俺はダメなのね。
「下等な人間の分際で、原初の木に触れた罪は重い。罰を受けてもらわねばならぬ」
俺の顔を見るプウラムに笑いかけると、
「ほら、ノアゼット様が待ってるよ。先に行きなさい。俺は大丈夫だから」
一瞬不満そうな顔をしたが、俺が笑みを大きくすると、首をコクリと振り、歩き始めた。その全身から金色の粉がうっすらと舞い落ちる。
エルフ達は、プウラムを避けるように大きく道を開ける。先ほど射殺も厭わなかったのとは大違いだ。良く分からないが認められたからなのだろう。まあ、とりあえず心配事が一つ減った。あとは、この俺がどうされるかという問題なんだが……。周囲のエルフ達の武器の中には明らかにヤバい雰囲気を放っているものがある。凡百の武器ならば大丈夫だが、さて、どうすっか?
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