大宴会
部屋に入ってみるとそれなりの金額を払っただけのことはあった。オクト神殿で泊まった部屋には劣るものの、それなりの調度品が置いてある。寛ぎたいところだが、ガルガルしているお方が約1名。支度をして下に降りた。部屋に入ってすぐに降りてきた俺達を見て、宿のオヤジが声をかけてくる。
「どうかしたかい?」
「夕食前に一仕事さ。まだ、夕食は食べれないんだろう?」
「そうだな。もう少ししないとな」
「夕食はここで取りたいんでテーブル一つ空けておいてもらっていいかな?」
「分かった。取っておくよ」
まずは詰所に行き、白羊亭に宿泊していることを申告する。次に道具屋に行き、薬草その他を売った。すべて合わせて銀貨5枚と銅貨数十枚。短時間に森で採取してこの金額なら悪くない金額だと思うが、これもディヴィさんの目利きがいいからなんだろうな。
次に武器屋に行く途中の広場で、いくつか屋台の店が出ていた。ほかほかと湯気をあげる粥の店や大きな肉を串に刺して焼いている店。あっちはなんだろうな。魚を揚げたものか? その横はビールやワインの店。新鮮な果物を並べた店もある。ディヴィさんが喉をぐびぐびさせているので、2人にはここにいてもらうことにして、一人で武器屋に向かう。
斧と剣の看板の店は、扉からして重厚な作りで、中に入ると筋骨隆々としたスキンヘッドのおっさんとひょろりとした若造の2人が居た。カウンターの向こうには、剣、斧、槍、フレイル、弓などが壁に所狭しと吊るされている。
「いらっしゃい。ご用件は?」
「こいつの鑑定と買取を頼みたい」
背負っていた大きな袋をカウンターの上に置き、先日手に入れた斧を取り出す。刃の保護を兼ねた木製の覆いを除けるとおっさんがうなりをあげる。
「こいつをどこで手に入れなすった?」
肩をすくめて見せる。強盗倒して奪いましたとも言えないしな。
「ちょいと触らしてもらうぜ」
そう言うと斧を手に取って子細を改め始めた。そして、若いのに声をかける。
若造は呼ばれて、近寄ると歌うように1節の呪文を唱え、斧に触れる。
「うん。間違いない。ケブリン鋼でできてるし、強化魔法も施されてるよ」
筋肉モリモリマンは俺の方を向くと、
「銀貨25枚出そう」
「よし、売った」
あっさりと承諾した俺に驚いている。
「随分と気前がいいんだな。言い値で売るとは」
声に微妙な警戒感が混じっている。
「ああ。理由は簡単だ。俺はこいつの品がいいことは分かるが値付けはできない。これだけの店構えだし、あんたの所は信用できそうだ。それに、斧は食えないしな。パーティに大飯食らいが居てね。食費が大変なんだ」
俺のセリフを聞くとマッチョマンはニヤリと笑う。
「よっしゃ。決まりだ。気に入ったぜ。26枚出そう。銀貨1枚は俺からその腹ペコ野郎へのおごりだ。今、金を用意してくる。ちょっと待っててくれ」
そう言って、奥に消える。野郎ではないんだがな、と思っていると戻ってきて、銀貨を置いた。
「こいつはペトロヴ商会の印だ。大きな街には大抵店がある。今後もご贔屓に」
指さす先の壁には×印状の2本の剣の下に3つ首の犬が彫ってあった。
礼を言い、銀貨とメダルをしまって、店を出る。広場に戻るとディヴィさんが盛大に飲み食べしているところだった。
「かゆ、うま」
大丈夫か、ディヴィさんまた幼児退行してないか。
「シューニャ。用は済んだ?」
「お待たせしました。では、宿に戻りましょう」
軽食を食べてご機嫌なディヴィさんとそれを見てほほ笑んでいるノアゼット様を連れて、日が落ちかけた道を宿に急ぐ。宿からは賑やかな声が漏れていた。中に入ってみて驚く、いくつもあるテーブルがほぼ一杯になっていたからだ。俺たちが入っていくのを見つけると宿のオヤジが隅のテーブルに案内してくれる。なんとなく思い付きでテーブルとっておくよう頼んでおいて良かったぜ。
それからの食事の数々は圧巻だった。ガチョウの丸焼き、子羊肉の串焼き、川魚の酢漬け、根菜を煮込んだスープ、厚切りのチーズに白くてふわふわしたパン。ビールにワイン、etc、etc。頼んだものを次々と平らげ、杯を空けていく。
途中でオヤジが心配そうな顔をしていたのでカウンターに行き、銀貨を10枚握らせた。
「これで足りなくなったら、声をかけてくれ」
「ああ。まだ、大丈夫だ。だが、お連れさん食いすぎじゃ?」
「有名な白羊亭で食事出来て、舞い上がってるのさ」
俺のお世辞に相好を崩すと、
「そう言ってもらえるとうれしいね。まあ、ほどほどにな」
確かに、ほどほどにしないとな。今日の収入の銀貨30枚が宿代と食費で消えたら、この先やっていける自信がねえ。とはいえ、また、店の人を捕まえて何か言っているディヴィさんを見ると……。ふう。俺も飲むか。
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