タンファの街

 翌朝、たっぷりのモモを食べて出発した。今日は、是非にというのを断って、ディヴィさんも歩きだ。歩く途中で、ディヴィさんの希望で街道を外れ森の中に入る。何をするのかと思ったら、薬草やキノコを採るのだという。俺も指示を受けていくつか採取した。どれに価値があるかはさっぱり分からない。


 ディヴィさんはおおよその在りかの見当がつくらしく、効率よく1時間ほどで結構な量の採取ができた。同じ種類ごとにまとめて、袋に入れる。これは煎じて飲むと腹痛に効くとか、皮膚にあてて置くと解毒効果があるとか、他のものと併用すると効果が倍増するとか、色々教えてもらったがイマイチ良く分からなかった。


「ディヴィさんは治癒魔法使えるのにどうして薬草を採るのですか?」

「魔法は強力だけど、体力の消耗も大きいのよ。だから、薬草を併用するの」

 ふーん。そういうもんなのか。

「じゃあ、さっきの解毒作用のあるやつあれば、俺の目の治療も楽にできたとか?」


「そうね。だいぶ楽になったと思う」

「でも、それにしても採る量が多くないですか?」

「あとは売るのよ。結構な値段になるわ。自分の食べ物代ぐらいは稼がないとね」

「ああ、そんな心配しなくても」

「そうはいかないわよ。アタシの食べる量知ってるでしょ?」


 確かに。あれだけの量を食べて7日程度しか持たないわけだもんな。

「ノアゼット様。お待たせしてしまってすいません」

「いえ、私も色々勉強になります」

 そう言ってにっこりと笑う。うお、笑顔が眩しいぜ。絶対俺には向けられないと思うと悲しいが、とりあえず脳のメモリーに書き込んでおこう。


 街道に戻ってしばらく進むと人家がちらほら目に付くようになってきた。そして、街道を行く人の姿も見えるようになってくる。道行く人は、俺たちのことを見るとちょっと驚いた顔をする。女性2人はフードを被ってるから目立たないはずだし、俺のカッコよさに驚いてるのか? 無理のあるヨタ話は置いておいてなんでだろう?


 ちょっと考えたらすぐに分かった。パズーのせいだ。俺はもう見慣れたからなんとも思わないが、派手な水色のユニコーンが珍しいのだろう。ユニコーン自体はそれほど珍しくはないのかな? 


 しばらくすると城壁が見えてきた。

「あれがタンファの街よ」

 途中、南からの街道と合流し、人通りが一気に多くなる。あっちがメインストリートなのだろう。砂漠のアイツはヤバイからな。


 1時間ほど歩くと城門の前にたどり着く。城門には衛兵が立っていて、時々、見とがめた者を呼び止めて脇に寄せ何か尋問していた。それなりの人が並んでいたので、俺たちの順番が来るまでに10分ほど待たされた。メンドクサイので、素通りできますように。


「そこのお前たち。青いユニコーン連れのお前たちだ。こっちへ来い」

 あーあ。やっぱりそうですよねえ。

「お前は商人と言う風体でもないな。連れの者も顔を見せろ」

 2人とも大人しく、フードを脱いで顔を見せる。


 2人の顔を見て、衛兵の目が丸くなる。そりゃあね、いきなり金髪美少女と栗毛の美女の顔を拝めばね。

「私たちはクラウス様の導きで旅をする者です。タンリーエン発行の身分証もございます。お改めください」


「確かにこれは正規の身分証だが、チベ国の刻印がないな」

「途中、街に寄らずにここまで参りましたので」

「街道沿いの街に寄らずに来たというのか?」

「砂漠を越えて来ました」


「サンドウォームの活動が活発なこの季節に砂漠越えをしたというのか。信じがたいな」

「3体ほど倒して切り抜けました」

「サンドウォームを3体も!」

 相手次第ではウソを言うなと怒鳴るところなのだろう。


「供の者たちは、こう見えてかなりの腕前です。それぞれ、刀槍の技、癒しの技に優れております」

 俺とディヴィさんが交互に頭を下げる。衛兵は迷っているようだったが、

「まあ、いいだろう。通って良し。ただし、後でまた話を伺うことになるかもしれない。泊まっているところを後で詰所に届けるように」


 門を通り過ぎて、街に入る。

 交通の要衝なのだろう。近隣の者だけでなく、変わった衣装を着た人間も行きかい活気がある。

「さて、とりあえず宿を決めよう」


 大通りを歩いていくとすぐに月と星の絵の看板が固まっているエリアに出た。まあ、交易で潤っている街なら当然だろう。さて、あとはどこの宿にするかだ。

「ディヴィさん、この街の宿のこと何か知らない?」

「私も来たのは初めてだけど、白羊亭というところは聞いたことがあるわ」


 お、あれじゃないかな。看板の下に白い動物の鋳物が下がっている。入っていってみると1階は酒場を兼ねており、2階が宿になっているようだ。奥の厨房からいい匂いがただよってくる。なるほどね。なのか。カウンターにいるオヤジに声をかける。

「こんにちは。1泊したいんだが空いてるかい?」


「あいにくと6人用の大部屋しかあいてないな」

 ディヴィさんががっかりした顔をしている。よし。

「部屋代はいくらだい?」

「朝食付きで銀貨9枚」


 俺は懐から革袋を出し、銀貨を積み上げる。オヤジは意外そうな顔をしたが、何も言わず、ごつい鍵を出して手渡した。

「一番奥の部屋だ。ユニコーンは厩舎に入れておけば飼葉の世話はしておくよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る