砂漠の魔物
強盗団とのいざこざから3日後、俺たちの前には砂漠が広がっていた。
「ここを越えたら、ダタール国に入るわ。そうしたら、タンファの街もすぐよ」
「じゃあ、頑張って越えちゃいますか」
砂に足を取られながら、数十メートルほど砂漠の中を進む。
ディヴィさんが、舌打ちして警告を発する。
「まずい。サンドウォームよ。気を付けて。いったん固い地面まで戻って」
指さす方の砂が盛り上がりながらこちらに近づいてきた。ハルバードを取り出し叫ぶ。
「俺が最後尾だ。行ってくれ」
身構える俺の前で砂の山が爆発するように吹き上がり、そいつが姿を現した。チンアナゴを太くしたような怪物が、サンドウォームなのだろう。そいつの先端部分がパカっと3つに分かれて開くと、鋭い歯がビッシリと生えているのが見えた。そしてその部分を俺に向かって振り下ろす。どすん。ギリギリのところでかわした。砂に足を取られて動きにくい。
先端部分を持ち上げたところで、胴と思われる部分を目指してハルバードを振るう。ドシュ。傷口から緑色の体液があふれだす。お、外皮はそれほど硬いわけじゃないんだな。気を良くした俺は猛攻撃をかける。ザシュ、グチャア。胴を真っ二つに切り離した。なんだ、大したことないじゃん。
そう思って油断した俺の目の前の2か所からまた別のサンドウォームが飛び出す。そして、先頭部分を開くとそこから砂と共に猛烈な風を吹き付けてきた。変な湿り気を帯びた砂が、俺の全身に張り付いていく。砂は目にも入ったようで猛烈に痛いし、呼吸もままならない。
やべえ、また、ピンチじゃねえか。次に襲い来るであろう衝撃に備える俺の胴をなにかしなやかなものが打ったと思うと、ものすごい勢いで後ろに引っ張られた。バランスを崩し転倒する俺はそのままズルズルと引きずられる。しばらくすると背中に当たる感触が固いものに変わった。
「危ないところだったわね。先に言っておけば良かったのにごめんなさい。あいつら複数体で行動するから厄介なのよ」
べっ。立ち上がって、口に入った砂を掃き出し、息を整える。武器もしまってよさそうだ。
「ムチってのは便利だな。こういう使い方もできるなんてさ。くそ、目が痛くて開けられねえ」
「触らないで。返ってひどくなるわよ。ちょっと待ってて」
ディヴィさんが呪文を唱える。しばらくすると何かの液体が顔に押し当てられる。
「しばらくじっとしてるのよ。砂を洗い流すから」
すべすべして柔らかな手が俺の顔の表面をそっとなぞり、砂を落としていく。液体が顔から離れ、近くでバシャンという水音がした。再び呪文を唱える声がし、今度は目の部分だけを液体が覆う。
「痛いと思うけど、瞬きして。砂についていたサンドウォームの体液を洗い流さないと目が見えなくなるわ」
うおお。痛すぎる。目にキリをねじ込まれたような痛みに耐えながら、数回瞬きする。
「もういいわよ」
また、液体が目元から離れ、バシャンという水音がする。
そーっと薄目を開けようとするがやはり痛みで開けられない。
「まだ開けないで。今日はもう休みましょう。あ、あそこなら野営に良さそうね。付いて来て。パズーもこっちへ」
ディヴィさんは俺の手を取ると歩き出した。目が見えないとちょっと歩くのも大変だ。
「ここに座って、仰向けに横になって」
導かれるままに腰を下ろす。そして、背を倒すとなにかしなやか布に覆われた物が頭に当たる。何か確認しようと手を頭の後ろに動かす途中で、何かとても柔らかいものに触れた。ふにゅん。なんだこれは。さわさわ。今まで触ったことのない感触だな。
頭をこつんと叩かれる。そして、すぐ頭の上から、
「ちょっとシューニャ。わざとじゃないんだろうけど、胸に触るのやめてもらえないかしら」
げ、ということはつまり。
「シューニャ。あなたって人は」
ノアゼット様の厳しい声。
「ああ。ノアゼットちゃんいいのよ。目が見えないと不安だから、色々確認したくなっちゃうものよ。次触ったら容赦しないけど」
「すいません。もう手動かしません」
うわー。あんなに柔らかいものなのか。そして、この声の距離感からすると頭に触れているのは、ディヴィさんの太股? 俺はひざ枕してもらってるのか?
俺の目の上にすべすべしたものが置かれる。これは手のひら?
「目を治療するわ。じっとしてて」
そして、長くゆったりとした口調で魔法の詠唱が始まった。耳に心地よい優しい声が節をつけて言葉を紡ぐ。その声に耳を傾けているうちに俺はいつの間にか寝てしまった。
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