命の重み

 ディヴィさんの言う短距離な道を進み始めて初日の午後、山あいの道を歩いていると一団の人間がバラバラと飛び出してきた。薄汚い格好、下卑たニヤニヤ笑い、頭の悪そうなセリフと3拍子そろった強盗団、その数20人ほど。しかし、なんだか、こういう連中多くないか。


「はっはっは。俺は泣く子も黙るカンダタ様だ。おい、命が惜しかったら、馬と荷物とそこの姉ちゃん置いて失せな」

 パズーを後ろに下げて、ディヴィさんの前に俺が出る。こいつらの視線にさらすことすら不愉快だった。


「断ると言ったら?」

「おうおう。かっこいいところを見せようってのか。やめときな。怪我するだけじゃすまねえぜ」

「ああ。俺も同意見だ。カンダタだかカンジタだか知らねーが、怪我じゃすまさねえよ。」

 そういって、久しぶりに耳からハルバードを取り出す。


「シューニャ、やめなさい」

 後ろから声がかかる。その声を聞いてうれしそうに、

「なんだ、ねーちゃんがもう一人か。へっへ。こいつはいいや。今日はついてるぜえ。2人いりゃあ、二日は体がもつかもしらんな」

 OK。その台詞で有罪だ。死刑執行令状へサインしたな。やってやるぜ。


 俺は一撃で胸くそ悪い発言を繰り返していた男を叩き潰すと、当たるを幸いに周囲の連中を切り、潰し、刺す。瞬く間に3人を残すのみとなった。多少は腕の立ちそうな3人に向き直ったとたん、俺は股間を押さえてうずくまる。ぐおおお。馬鹿野郎。痛みはすぐにやんだが、1人の男が目の前に立ち、その斧を振り下ろそうとしていた。くそ、この斧はなんか危険な感じがする。


 やべえ。そう思った俺の視界の端を何かが伸びていき、男に絡みつく。ムチだった。身動きを封じられると共に男は口から泡を吹いて昏倒し、しばらく痙攣した後ピクリとも動かなくなった。その後、2度ムチが振るわれると残った2人も同様の運命をたどった。俺はハルバードを振って血を払うと小さくする。


「ディヴィさん、助かったよ」

「急にどうしちゃったの? びっくりしたわよ」

「それは……」

 俺の視線の先で、フードを降ろしたノアゼットが青ざめた顔をしている。


「私は、これ以上、シューニャが人殺しをしてはいけないと思って」

「お陰で俺が代わりに死ぬとこだったぞ! 何考えてんだよ」

「シューニャなら、手加減すれば殺さずに制圧することもできるでしょう。それなのにどうして殺すのです?」


「この間、オークの一隊を倒したときは止めなかったじゃねえか」

「オークと人は違います」

「はっ。そうかよ。人の命は大切だからどんなときも奪っちゃいけねえってか?」

「当然でしょう」


「じゃあ、聞くがな。こいつら、こんなことをするのは初めてじゃないんだぜ。今までにどれだけの人間が犠牲になってても許すのか?」

「前非を悔い改めたのであれば」

「悔い改めるわけがねーだろ。もし、こいつら許してみろ。明日にはまた誰かを襲ってるさ。間違いなくな」


「それは分からないでしょう?」

「ああ、そうかい。ご立派な聖女様にかかれば、みな涙を流して善人になるってわけだ」

「すぐにとは言いませんが、真心を込めて話をすればきっと」


「ノアゼットさま」

 それまで黙っていたディヴィさんが声をかける。

「残念ですが、この場合はシューニャさんが正しいと思います」

「そんな。ディヴィさんまで」


「そういう世界もあるのです。すべてが光に包まれているわけではありません。闇もまた存在するのです」

 ディヴィさんがノアゼット様に話を始める。じゃあ、この間に、行きがけの駄賃を頂くとしましょうか。


 頭領らしき男は懐に革袋を2つ忍ばせていた。一つには銀貨と銅貨、もう一つには小粒の宝石、指輪や水晶片などが小分けされて入っていた。どうみてもおっさんに似合う代物じゃない。見知らぬ犠牲者に手を合わせた。残りのメンバーの懐も漁る。銀貨換算で20枚分ぐらいかな。そうだ。あの斧も頂いていこう。手にしてみると他の物とは明らかに出来が違う。


「シューニャさん、行きましょう」

 ディヴィさんから声がかかる。側に行くと、ノアゼット様がぎこちなく頭を下げた。

「先ほどはシューニャさんを危険にさらすようなことをしてすいませんでした」

 

「ああ」

 俺はそんな声しか出すことができない。

「さ、もう済んだことだし、行きましょう」

 デイヴィさんの声に従い、ノアゼット様がパズーに乗る。


 パズーの手綱を引きながら、ディヴィさんに改めて礼をいう。

「ありがとうございました。そのムチすごい威力ですね」

「ああ、これ。ムチ自体は魔力が良く伝わることを除けばごく普通の品よ」

「それじゃあ、さっきの3人は?」


「私の生の魔力を流したの。魔力の低い人間には耐えがたい苦痛のはず」

「雷に打たれるようなもんか?」

「そうね。似てなくもないかもね。魔力の方がゆっくり流れる分苦痛も長いけど」

「やっぱり、すぐに楽にするのは許せなかったとか?」


「そういうことでもないわ。ただ、この体は人を攻撃する魔法を身に付けてないから、面倒でもそうするしかなかっただけよ。治癒魔法ならかなり高度のものまで使えるのだけど」

「そうなのか。いずれにせよ助かった」


「それは私も一緒。あの人数、ノアゼットちゃんを守りながら捌ききれるかといったら自信はないわ。シューニャがいなかったら厳しかったと思う。ありがとう」

「いや、まあ、へへ。大したことじゃないよ」

「ついでだから言うけど、ノアゼットちゃんはまだ大人じゃないから、素直になれなくても許してあげてね」


「ディヴィさんて本当にすごいな。一緒にいてくれて助かるよ。俺一人じゃ大喧嘩してると思う」

「そう言ってくれるのはうれしいけど。今だけよ、そう思うのは」

「どういうこと?」

「すぐに分かるわ」

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