それぞれの事情
こうして、ディヴィさんが加わったことで、パーティは賑やかになった。俺と他愛もない話をしてくれるので、歩いていてもいい気晴らしになる。それに、なんとノアゼット様が会話に加わることも出てきたのだ。ディヴィさんは俺と違って気兼ねなくノアゼット様に話しかけるからだろう。
「ここから先、街道は2本に別れているわ」
地面に絵を書きながらディヴィさんが説明する。
「この道はかなり物騒ですがまっすぐ西へ。もう一つの道は一度南に下って、また北上します。チベ国の中心を通るので比較的安全かなあ」
「まっすぐ行く道は歩きで7日ぐらいかしらねえ」
俺は図を覗き込みながら言う。
「じゃあ、遠回りする方は、10日ってところか?」
「え? この道初めてじゃないの?」
「いや、この絵が正しいなら、計算すりゃ日数が出るだろ? 直角二等辺三角形なんだからさ」
「ちょっかくなんとかって何よ?」
「うーん。この長さの関係が分かるんだよ。だから、この道が7日かかるなら計算すると、ここが5日、ここも5日かかるって分かるんだ」
ディヴィとノアゼット様が驚いた顔をする。
「シューニャって、顔に似合わず、頭いいのねえ」
「いや、俺のいた世界だと、子供でも分かるぞ」
「俺のいた世界ってどういうこと?」
うーん。話しても信用されるかなあ。まあ、いいか。俺は今までの話を簡単に説明する。
「シューニャ。今までそんな大事なことをなぜ黙っていたの?」
「聞かれませんでしたからね」
「では、シューニャはこの試練の為に、そのような犠牲を……」
「犠牲なんてそんな大層なことじゃないですよ。それを言ったら、ディヴィさんだってそうですよね?」
「え?」
なんだ。肝心な部分は話してなかったのかよ。
ノアゼット様は深刻な顔をして何か考え始めている。
「マダム。そんな事より、道はどうします?」
「え、ああ、道ね。じゃあ、まっすぐ進みましょう」
歩きながらヒソヒソ声で話をする。
「シューニャ。なんで話しちゃったのよ?」
「だってしょうがないじゃん。話の流れでさ」
「ノアゼットちゃん、なんか深刻に考え始めちゃったじゃない」
「いや、ディヴィさんも俺に口止めしなかったでしょ?」
その夜、野宿に適した岩穴を見つけ、寝る支度をしているとノアゼット様が思い切ったように言う。
「この試練、できるだけ早く終わらせようと思います。お二人のためにも」
思わず、ディヴィさんと顔を見合う。
「ノアゼットちゃん、そんなに気負わなくてもいいと思うわ」
「いいえ、お二人がそのような犠牲を払って献身していただいていると知った以上そうはいきません。早くお二人には元の生活を取り戻していただかないと」
つーか、この任務終わったら俺どうなんだろな。考えてみたこともなかった。
「今まで、私は究極魔法を身に着けられるよう厳しい修行をしてきました。正直に言うと、どうして、私だけがこのような目にと思ったこともあります」
そりゃそうだ。日本なら楽しい学生生活送ってる年頃だよな。
「でも、今日お二人の話を聞いて、いかに自分が甘かったのか知りました。お二人の期待に応えるためにも目標に向かって邁進したいと思います」
「んーとね。ノアゼットさま。努力されるのはいいですけど、私たちの事情は忘れてください。別にそれほど辛い目にあってるわけではないですし」
いや、俺は相当ひどい目にあってると思うぞ。ディヴィさんがこちらを見る。はいはい。そんな目をしなくったって余計なことは言いません。
「それに、アタシはあなたと知り合えて良かったと思ってるわ」
それについては俺も同意見だ。こくこく。
「ね。シューニャもあんなに頷いてるし。だから、ノアゼットさまが好きに判断してくれればいいけど、アタシたちの事情は考えにいれないで欲しいなあ」
「でも……」
「人にはそれぞれ役割があるの。押し付けられたにしてもね。それを受け入れるかどうか決めたのはアタシ。だから気にしないで」
しつこいけど、俺には選択権はなかったけどな。
やっぱり、ディヴィさんはしっかりしている。自分の足でしっかり立っているというか。その辺の芯の通ったところが近藤先輩に似てると感じたところなんだろうな。最初は酔った外見から似てると思ったのだけど。先輩に似てると思うと、なんとなく逆らいづらい。パブロフの犬のように受け身ポジになってしまう。これで、外見がなあ。ノアゼット様のようにほっそりしてりゃ、言うこと無しなんだが……。
「シューニャ。そのにやけた顔は、何か良からぬことを想像していたな? 人がまじめな話をしているというのに、まったくぅ」
「もともとこういう顔なの。いや、まったくディヴィさんの言う通りだと思います」
「話がそれちゃったけど、ノアゼットさまは自分のことだけ考えて判断してね」
ノアゼット様はまだ釈然としないようだ。
「まあ、いいわ。旅はまだ長いんだし。ゆっくり考えて。でも夜更かしは美容に良くないから、早く一緒に寝ましょ」
そう言って、肩を寄せ合ってパズーのそばに横になる。ぐう。俺もそばに……。
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