問題発生

 結局その日は村長の所に泊めてもらった。一応、息子を悪女の手から守ったということで、1泊だけは許可が出たという訳だ。まあ、その息子はぶつくさ言ってたんだが、後は親子で話し合ってくれい。俺は知らん。それよりももっと深刻な問題があるのだ。


 その問題というのは、部屋割りである。腕組みなんぞをして、この難問に立ち向かっている俺は部屋で一人だ。今まではノアゼット様と相部屋だった。護衛だから当然だな。べ、別にあわよくば着替えが見えたりするかもなんて期待していないぞ。


 しかーし、ここに新たな強敵が出現した。ディヴィとかいう女である。

「え? 同じ部屋に泊まるつもり? ありえないわね。女の子どうしじゃないと寛げないでしょ。じゃあ、あなたはあっち」

 そう言って、俺の目の前で無情にもドアは閉められたのだった。許せん。


 くそう。悔しいぜ。

 まあ、でもな。今後もこれだけ部屋のある所に泊まれるとは限らんしな。金が無ければ1部屋で我慢するしかないこともあるだろう。よっしゃ、元気が出てきた。明日の為に英気を養おう。寝るか。一人で……。


 翌朝、食事をしながら見ると心なしか、いつもよりノアゼット様は眠そうだ。

「マダム。お疲れのようですが?」

「ああ、うん。昨夜はちょっとディヴィさんと長くおしゃべりをしてしまってね」

「そうそう。色々お話して楽しかったわよねえ」

 なんだよそれ。疎外感マックスじゃねえか。


 出がけにディヴィは村長のところに行って何か話している。しばらくすると酒樽と革袋を持って戻ってきた。

「それはなんだ?」

「んー。もう近寄らないって約束してせしめてきちゃったあ。うふ」


 いざ出立しようとすると、ノアゼット様は躊躇している。

「私だけが騎乗するというのも……」

 へ? 私にはそんなことおっしゃったこと一度もございませんが? 思わず不服そうな顔をしているとディヴィが言う。


「シューニャは、コレには乗れないでしょ?」

「お、おう」

 思わず虚勢を張っちゃったけど、その実、俺にはユニコーンに乗るはある。残念ながら。


「まあ、アタシは鍛えてるからね。徒歩で大丈夫だよ。それにノアゼットちゃんはリーダーだから」

「そうですか。でも疲れたら言ってくださいね。いつでも代わります」

 あれ? ノアゼット様は知らないのか? あまりしつこく勧めても気まずいことになるんじゃ?


 ノアゼット様に聞こえないように小声でディヴィに話しかける。

「ああは言ってるけど、乗るつもりはないんだろ?」

「そりゃ、リーダー差し置いて乗るわけにはいかないじゃない。こう見えてもそれぐらいはわきまえてるわよ。いざという時は二人乗りぐらいできそうだけどね」


「へ? お前乗れるのか」

「もちろんよ。人を見かけで判断しちゃいけないわよ。てゆーか、さすがにそのセリフはダメね。さすが女主人に手を出そうってだけはあるわねえ」

 ものすごく汚いものを見る目で見られた。


「いや、それは俺にかかった呪いみたいなもんで……」

「まあ、どっちでもいいわ。ノアゼットちゃんに邪なことをしようとする奴はアタシがきつーくお仕置きしちゃうから」

「なんか、やけに力が入ってるな」


「そりゃそうよ。だって、ノアゼットちゃんて可愛いじゃない。清楚って感じで。全身の肌も透き通って綺麗だし。私の好みだわ」

「好みってお前、女だろう?」

「いーじゃない。そんな些細な事」

「些細なことって……。それに全身の肌綺麗って、見たのか?」

 目を細めて、当然じゃない女の子同士なんだから、という顔をしやがった。


 うおおお。悔しいぜ。転生するときに女にして貰えば良かった。いや、良くないか。

「しかし、なんか天使ってこうもっと……」

「厳格で真面目そうなんだと思ってた? うーん、まあアタシが変わり者ってのもあるし、この体のせいってのもあるかもねえ」


「この体って、どういうことだ?」

「1年前に人間界に落とされたときに、この体に入ったのよ」

「元の体の持ち主は?」

「さあね。死んでたから良く知らないわ」


「死んでた?」

「そう。丁度いいタイミングでフレッシュな状態だったからアタシの魂を投げ込んだってわけ。元の魂はクラウス様が救済したんじゃないかしら」

「死因は?」


「それ聞いてどうしようっての?」

「いや、なんかさ、ちょっと気になるっていうか。死んでたのに生き返るのが不思議と言うか」

「肉体の損傷は修復してあったわ。悪いけど、この話はおしまい」


 唐突に話を打ち切られて、びっくりする。確かにちょっと踏み込み過ぎだったかな。頬のラインが固くなっているディヴィの横顔を見て詫びる。

「すまない。興味本位で聞くことじゃなかった」

「いいわ。気にしないで」


 それから、しばらくは黙って歩いた。ふと気づくと、これだけまとまって話をしたのは久しぶりだった。それだけのことだったが、ちょっぴりうれしくなって気が軽くなる。意外とこのパーティでうまくやっていけそうな予感がした。


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