疑問と答え

「なんだ。シューニャ?」

「この服一そろいなんだけどさ。これって、あんたの差し金だろ?」

「なんのことだ。そなたに会った時にはもう着ていたであろう」

「とぼけんじゃねえ。そこのアリエルとかいうのに命じて、ノアゼットに渡したんだろう?」


「ふむ。随分な言いがかりだな」

「初めてノアゼットに会ったときには俺に渡そうとしなかった。そん時にはまだ手元になかったんだ。で、一度俺が離れたときに、お前のところの天使が渡したんだろう?」


「推測にすぎないな」

「ああ、だが根拠はあるんだぜ」

「どんな?」

「ここで、あの天使が現れたときに、ノアゼットは驚きもしなかった。ただ、親しいという訳じゃない。前に短時間会ったことがあると考えるのが道理ってもんだろ」


 その途端、クラウスは破顔大笑した。

「いやいやいや。顔に似ず、意外と頭がいいじゃないか。ただ単に強いだけでなく、知恵が回るとは心強い。そなたを護衛役に選任したのは間違いじゃなかったな」

「ランダムに選ばれたはずじゃなかったっけか?」


「あの話を真に受けたのか。私は神だぞ。私のすることは偶然のようでいて意味があるのだ」

「では、もう一つ聞きたい」

「これで最後だぞ」


「まあ、実際、この拘束具が必要になる行為に出てしまったのは事実だが、俺が女性にあんな行為をしたのが納得できん。何をした?」

「ああ、お前に与えたあの武器は所有者のテストステロンの分泌を大幅に増加させる」

「なんだ、そのテストなんちゃらって?」


「頭は悪くないが、知識はそれほどでもないか。攻撃性や積極性を高める男性ホルモンだよ。闘争心が強くなるが同時にあっちの欲望も強くなる」

「なぜ、そんな真似を?」

「お前に力は与えたが、心も強くしてやらねば、戦うことはできまい?今まで誰かと殺し合いなどしたことなかったであろう?」


 道理で、切った張ったに躊躇なく飛び込めるわけだ。そういうことであれば仕方ないか。

「やむを得ない処置というのは分かった。納得できないがな。お陰でゴミでも見るような目で見られるようになったじゃないか」


 何を言うといった冷ややかな顔をしながらクラウスは言う。

「そうだ。先ほどからそのノアゼットのことを呼び捨てにしておるようだが、これからはマダムと呼べ」

「なんじゃそりゃ?」


「この任務のリーダーであり、お前の大事なものの生殺与奪を握っておるのだ。もう少し敬え。きちんと態度で示せば、あの娘も軽々に呪文を唱えたりはせぬだろう」

 ちぇ、誰のせいでこうなったと思ってやがる。


「へいへい。仰せのままに」

「そなたたちの側にはアリエルが常に控えていることを忘れるなよ。お前が主人にどのような態度をとるか、すべてわかるのだからな」

 おっと。しばらくは大人しく言いつけに従うとするか。


 俺たちの話が終わったと判断したのか、ノアゼットちゃんが跪いて言う。

「クラウス様。シューニャのご無礼お許しください」

「そなたが謝ることでもあるまい」

「私が率いている者です。監督不行届きの罪は私にもございます」


「ふむ。気にしておらぬ。まあ、ゆっくりと教育するが良い」

「寛大なお言葉ありがたき幸せにございます。私からも一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「申してみよ」


「あの竜をユニコーンにお変えになりましたが、失ったのは馬でございました。なにかお考えがあってのことでしょうか?」

「ああ、この先様々な試練があるだろう。その際、自らの身ぐらい守れるようでなくてはと考えたまでだ。基本的にアリエルは手助けせぬようにいいつけてあるしな」


「左様でございますか。そのようなお心遣い感謝に堪えません」

「いや。そなたが無事にたどり着けることをまっておるぞ」

「はい。かならずや」

 その返事を聞くとクラウスは宙に浮きあがる。そして、俺にだけ見えるようにウインクをした。


 なんだ。気持ち悪い。まさか俺に気があるのか?

 気づくとアリエルとかいう天使の姿も無い。水竜パズー改めユニコーンのパズーを引いて、ノアゼットちゃんのところに連れて行く。鞍や鐙、ハミなどの一式も付いている。意外と気が利くじゃないか。


「どうぞ、準備ができました」

 そう言うがノアゼットちゃんは乗ろうとしない。ああ、そういうことか。

ご主人様マダム。準備ができました。お乗りください」

 すると、ノアゼット様(今後は様付けしておこう)はひらりとパズーに跨った。


 浅瀬を探しに行こうとすると、パズーは踏みとどまり、角で目の前の川を指し示す。

「なんだ?泳いで渡れるってのか?」

 うんうんと首をふる。おい、気をつけろ、角があたりそうじゃねーか。


 さすがは元水竜。上手に川の流れに流されることもなくスイスイと泳いで進んでいく。俺は低空を旋回しながら、周囲に目を配って警戒する。妨害が入ることなく、無事に向こう岸に渡りついた。それはいいが、もう結構暗くなっている。仕方がない。今日は野営だ。


 簡単な食事を取り、ノアゼット様は膝を折って座り込んだパズーの腹のところに丸くなる。いいなあ。添い寝なら俺がしてえ。いっそのこと、俺もユニコーンにしてくれ。そうしたら、ノアゼット様に乗っていただける……。ん? ユニコーンに乗れる? つまりッ、ノアゼット様はまだアノご経験がないということッ!


 まあ、若いし神官だもんな。当然ちゃ当然か。まあ、でもなあ、世の中、見かけじゃわからんしなあ。清楚そうに見えてその実……ていうのはよく聞く話だから。ユニコーンに乗る資格があるということは、もう間違いなし。ああ、あのウインクはそういうことか。神よやるじゃないか。気に入ったぜ。

 



 

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