一章 ようこそ、Valtanaへ

1章 1話 ようこそガネット村へ

頭が痛い。身体中がふわふわしてるような、変な感覚するし、目が回るような感覚がする。

あれ、俺ってさっきまで何やってたんだっけ?確か……

(あー……そうだ)


世界初のVRMMORPGを手に入れて、最新ゲームのRC版をやろうとしたんだった。にしてもまさかこんなに精神転送がきついなんて思わねーんだけど、β版で誰もクレームなり何なり入れなかったのかよ。それで……それで?

ゆっくり目を開ける。見慣れた俺の部屋の天井はなく、代わりにむき出しの木の天井が映った。くらくらする感覚を覚えながら少しずつ起き上がり辺りを見渡すが、やっぱり俺の部屋ではなくなっていた。なんて言えばいいのか、現代日本じゃ見かけないような、西洋の古い家の中、みたいな。

てっきり何らかの広場だとか、草原だとか森の中だとかで目覚めるもんだと勝手に決めつけてたんだが、違うのか……?


ポトリ。


額から何かが落ちる感じがして視線を落とすと、濡れたタオルが布団の上に転がっていた。たった今、自分がベッドの上で寝かされていて、誰かが介抱してくれていたのだということに気がつく。

「でも誰が介抱なんてしてくれたんだ?」

このゲームのNPC?それとも先に目覚めた他のユーザー?


トントンッ!

「うぉあ!?」


突然ドアを叩く音がして変な声が出てしまった。ドアの向こうの相手は了承と捉えたらしく、こちらに入ってくる。恐らくは俺を介抱してくれた相手なんだろう。さて、どんな奴なのか、お礼言わなきゃななんて考えながら相手を見て、


「気がついたんですね、よかった……」


思わず息を飲んだ。


青みがかった長く艶やかな黒髪、大きく宝石のようにに綺麗な紫色の瞳を長いまつげが縁どっている。あまり表情が崩れなさそうなその顔はこの上なく整っていた。

その美人は俺が意識を取り戻している様子を見るとほっとしたような表示を僅かに浮かべ、「ちょっと待っててくださいね」と言うと、すぐに部屋を出てしまった。


いや、まあ……わかっているさ。本物の顔では無いんだろうなってことは。だってここゲームの世界だし。あんな紛うことなき美人が現実世界に早々いるわけないってもんだ。そういや記憶が飛んでるみたいだが、俺はどういうアバターを設定したんだったかな?てかアバターいじったっけ?あれ?


「全然覚えてねぇ……」

「ああ、気がついたんだね。本当によかった」


今度は初老男性の声が聞こえドアの方を向いたら、神父のような格好の爺さんとさっきの美少女が部屋へ入ろうとしていたところだった。慌ててベッドから降りようとするが「横になっていなさい、あまり無理をしてはいけないよ」と言われてしまったので、ありがたく横にさせてもらう。


「本当に気がついてよかった。どこか痛むところはあるかな?」

「いや、大丈夫みたいです。少しクラクラするくらいで。……あの、ここは」

「ここはガネット村。一応はゴーリー帝国の領地だ。自己紹介がまだだね、私の名はエルマー。この教会の神父をしているよ。そしてこの子は孫の……」

「リーラと言います」

美少女……リーラちゃんが頭をぺこりと下げた。俺もつられて頭を下げる。

「あの、介抱してもらってありがとうございます。よぅッ……ウ、ウタといいます。あの、俺この世界に来たばっかりで……何が起きたのかも分からなくて……」

俺の言葉に二人は顔を見合わせると、俺が起きるまでに何があったのかを説明してくれた。



昨日の朝、教会の前で俺が倒れていたのをリーラちゃんが発見したこと、目覚めるまでは二人が交代で介抱してくれていたこと、元々来てた奇妙な服(特徴をきいたら、俺がゲーム開始するまで来てた服だった)は、熱により汗が酷かったのでエルマー神父が着替えさせてくれたこと……


「ともかく、気がついてよかった。私は何か口に入れられそうなものを作ってこよう。……リーラ、ウタくんのそばについていてあげなさい」

「うん」


そう言うとエルマー神父は部屋を出て行ってしまった。……かわい子ちゃんと二人っきりなのは嬉しいが、なんか、気まずい。


「あの」

「うおぁ!?え、な、なに??」


突然声をかけられ、またもや変な声が出ちまった。しっかりしろ俺!仮にも実況者だろーが、臨機応変に対応出来なくてどうする!


「驚かせてしまってごめんなさい、あの、『LINK SPIRITS』っていえば分かりますか?」

「え……?まさか、」

「はい。私も多分あなたと同じ、『LINK SPIRITS』の一般ユーザーとして、『ヴァルタナストーリー』をプレイするはずでした」

「……はず?」

「そうです。」


そこで一旦口を閉じると、リーラちゃんは俺の方へ顔をまっすぐ向けた。彼女の紫色の瞳がじっと俺を見つめる。


「私のわかる範囲でお教えします。私たちに何があったのかを」

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