曇天の花火大会

矢口ひかげ

1日目 「外の風景」(その日は遠雷が雲に反射する月夜でした)

「月が綺麗ですね」なんてお洒落に愛を語りたいが、本日は生憎の曇天である。


 おまけに花火も雲に隠れて光と音だけがただ繰り返される。告白なんてムードは微塵もない。


 僕と花は、とりあえず集まるだけ集まったが、天気については意中になかった。


「……花火見れないね」


 花が口を尖らせる。


 祭囃子より川のせせらぎが大きい。小さな石橋に二人腰掛け、ぼーっと対岸の灯りを眺める。



 僕は花が好きだ。大好きだ。


 それを簡単に伝えられたらどれほどいいことか。


「告白するならせめて思い出に残るロマンチックなものを」


 そう思い、毎年花火大会に向けて計画を試みる。が、「なんとなく気恥ずかしい」ただそれだけで、僕の告白は幾年も延期された。


 今日こそは、と思ったら今回は雲に邪魔をされてしまった。


 俯いて頭を抱える僕を一瞥し、花はわざとらしくため息をつく。


「……仕方ないなぁ」


 花は跳ねるように立ち上がると振り返り、


「来年また行こうか」



 その笑顔をみて僕は、来年まで告白は延期しても大丈夫かな、と悟った。

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