第69話 行きついたところ
どこに着くかは、あの神は教えてくれなかった。
虹の橋の階段は途中でフェードアウトしており、自身の五感もスッと消えた。
今は精神だけが存在しているようだ。
この後、精神も消えて無になるのか。それとも意識を持ったままどこかに行けるのか。
それはわからない。
それこそ、神のみぞ知る、というところだろう。
さあ、どうなるか。
「……。あれ?」
なぜか、天井があった。
その模様に見覚えはない。
「陸! 気づいたのね!」
「ふげっ……あれ? 母さん?」
――むむ? どうなってるんだ。
予想だにしなかった状況に、混乱した。
リアル母親に、抱き付かれている。
その後ろには父親の顔も見えた。
「あれれ? ここって?」
「病院よ! あなた倒れてたみたいで! お医者さんの話では、いちおう特に異常はないそうだけど」
特に異常は……ない……?
と、いうことは。
俺は、もしかして生きている?
あらためて体の感覚を確認する。
手も動くし、足も動く。皮膚感覚も問題なし。
体の下には、体温で温められている布団と、ベッドの硬さも感じる。
そして鼻には、病室特有の匂い。
……。
おいおい、おかしいだろ……。
なんで俺が生き返っているんだ。
違うだろ。
生き返るのはクロだぞ、クロ。
慌てて再度、周りを見回す。
クロは……やはりいない。
母親と、父親だけだ。
あの神、何やってんだ。
何ミスってるんだよ……。
「あのさ、母さん。クロはやっぱり――」
「あ、そうそう! クロも無事だから! 安心してね」
「えっ」
――!?
「でも姿が見えないけど」
「そりゃ病室には連れてこられないでしょ。外で千佳子と一緒にいるわよ」
光速でベッドから飛び起きた。
「あ、ちょっと! もう平気なの?」
俺は振り返らず、「平気!」と叫んで病室を飛び出した。
エレベーターは待てなかった。
階段を一段飛ばしで駆け下りた。
それでも、急ぎ足りなかった。
外に出た。
正面入口の横の花壇。
姉がいた。
そして、その足元には――。
「く、クロ」
クロの目が見開かれるのがはっきりわかった。
姉の手を離れ、駆け寄ってくる。
「クロ! よかった……」
俺たちは、固く抱き合った。
「でも、なんで俺まで?」
クロがワンワンと訴えている。
――あ、わかった。
「そうか。お前も神さまに『ご褒美』をもらったんだな?」
その質問に、クロはワンと一声で答えた。
どうやら、そうらしい。
クロも、神の再面談があったのだろう。
そこで俺と同じく、何か願いはないかと聞かれたのだ。
そして俺と同じような希望を出したのだろう。
お互いがお互いを生き返らせた。
そういうことだ。
「ありがとう。俺ら息ピッタリだな」
クロは俺の顔をペロリと舐めた。
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