第三章

第27話 面談 +登場人物紹介

【登場人物紹介】第二章終了時点


大森 陸 /主人公

主人公。二十二歳の大学四年生。


クロ /大森家の飼い犬

三歳の紀州犬。シロだがクロ。


==========


国王 /王様

九年前の先代国王急死により、三歳で国王となる。現在十二歳。


爺 /秘書

国王の幼少の頃の教育係。現在は秘書のような存在。本名ハンス。


ファーナ /将軍

美貌の女将軍。国王の叔母にあたる。


ヤマモト /高級参謀

コスプレ参謀。三人の高級参謀の中では一番若い。


ヤハラ /高級参謀

ウィトス /高級参謀


==========


暗殺者 /暗殺者

遺跡で国王の暗殺を図る。推定年齢は十代後半。


==========


カイル /孤児院の職員

金髪の少年。孤児院の出身で、十三歳ながらタフな肉体と高い能力を持つ。


エイミー /孤児院の院生

十二歳。赤毛ショートの女の子で院生のお姉さん的存在。


エド /孤児院の院生

十歳。ぽっちゃりした男の子で、おぼっちゃまカットの黒髪。


カナ /孤児院の院生

九歳。長い黒髪の和風少女。鍛冶屋のお手伝いをしている。


レン /孤児院の院生

十歳。黒髪短髪でスポーティな風貌だがインドア派。博識。


ジメイ /孤児院の院生

十一歳。坊主丸顔の昭和男子。自称預言者。


==========


イチジョウ /町長

主人公が最初にたどり着いた町の町長。国王の剣術の師匠でもある。




―――――――――――――――




 首都に来ていた子供たちは、カイルを除いて町に帰ることになった。

 俺はクロやカイルと一緒に、城門の外まで見送ることにした。


 カイルは町長と院長から頼まれごとがあるようで、何日か首都に残る。

 その何日かは首都の宿屋に……泊まってくれるわけはなく、俺が使わせてもらっている城の客室を相部屋で使うとのこと。


「じゃあリク、頑張ってね!」

「ああ、ありがとう。みんな元気でな。エイミー、手紙よろしくな」

「まかせなさい!」


 エイミーには、下手な字で書いた手紙を渡した。

 町長および孤児院の院長宛のもので、現状の報告と、そして子供たちをわざわざ寄越してくれたお礼が書いてある。


 最後に、再度一人一人と抱擁し、送り出した。

 子供たちは、少し進んではこちらを振り返り、手を振った。

 俺も手を振りかえした。

 子供たちの姿が完全に見えなくなるまで、見送った。


 門の外には、さわやかな風が吹いていた。

 ほんのり暖かく、適度に乾いている。そして新緑と花の香りが鼻孔をくすぐる。

 春の風だ。実に気持ちいい。


 少しの間だったが、子供たちに再会できてよかったと思う。

 疲れも癒え、やる気が湧いてくる気がした。


 俺は大きく伸びをした。


「さてと、中に戻るかな」

「りょうかいー」

「コラ、昨日散々くっついてただろ。離れなさい」

「へへへ」




 廊下を歩く。目指すは俺が宿泊している部屋だ。


「そういえば、カイル。お前の用事って、城の中で済むことなのか?」

「ん? あー、済むのもあるけど。挨拶回りとか、街に出ないといけないのもあるね」

「そうか。まったく心配していないので適当に頑張ってくれ」

「えー、ちょっとは心配してよ」

「お前は何でもできそうだからイマイチ心配する気に……ん?」


 廊下の先から、一人歩いてきた。

 コスプレ参謀のヤマモトだ。俺らの前で止まる。


「オオモリ・リク、少し話があるのだが。今日空いている時間はあるか?」

「はい、俺なら今日いつでも大丈夫ですけど。すぐこの後とかでも平気ですよ?」

「そうか、助かる。ではぜひ今お願いしよう。こちらに来てくれ」


 カイルと別れ、俺はクロと一緒にヤマモトに付いていった。

 今日は特に何もなければ神社に行き、時間が余ったら調査活動に使おうと考えていた。

 特に緊急でやらなければならない用事はない。




 見覚えのある部屋に案内された。

 昨日俺が使っていた、小さい打ち合わせ室である。


 部屋の奥側には、既に二人座っていた。どちらも見覚えがあった。

 今までヤマモトと三人で打ち合わせをしていたのだろう。


 一番上座に座っていた酷く色白の男が、俺の姿を見ると立ち上がった。

 服が黒っぽいため、白黒モノトーンが少し不気味である。

 参謀の一人、ヤハラという名前だったはず。


「ご苦労。君にはきちんと自己紹介をしたことがなかったな。私はヤハラ・ヒサミツだ。以後よろしく頼む」

「オオモリ・リクです。よろしくお願いします」


 年齢は五十歳くらいだろうか。中年だが、今見る限りでは腹も出ておらず、スタイルは良い。

 前に国王に聞いたことがあるが、参謀の中では一番年長で、発言力も一番強いらしい。


 自分の中では、大苦戦だった砦攻略戦の戦犯は、この人物だ。

 最終的に勝ったので特に責任論は出なかったようだが、今考えると酷い作戦だったと思う。

 さらには国王に遺跡入りを勧め、結果的に国王を暗殺の危険にさらし、俺が負傷する遠因ともなった。

 なので、この人に対してはあまりよい印象がない。見かけは切れ者なイメージだが、実は能力がないのでは? と思っている。


 ヤハラが座ると、もう一人の参謀も立ち上がって挨拶をしてきた。


「私はウィトスです。以後よろしく」


 俺も挨拶を返す。

 割と柔和な印象だった。体格は中肉中背で、ヤハラより少し年下といったところだろう。

 ウィトスは姓ではなくて名のほうだろうか? この時代ではフルネームで名乗る習慣がない。通称で名乗るのが普通である。先ほどのヤハラのように、フルネームで名乗るケースは非常に珍しい。


 ウィトスが着席すると、俺も手前の椅子に座った。クロは俺の横でお座り姿勢になる。

 最後に、奥側の一番下の席にヤマモトが座り、話し始めた。


「さて、では始めさせていただく。お前が書いた遺跡の件での報告書を、我々三人で読ませてもらった」

「ありがとうございます」

「今日はその内容について、我々から、この国の参謀として質問をしたい。陛下も聴取については了承済みである。よいか?」

「はい、答えられる範囲で答えます」


 ――その件か。

 国王にも根回ししているのであれば、嫌ですとは言えない。


 ではウィトス殿、宜しく頼みます――そうヤマモトが振って質疑が始まった。


「では質問させてもらうよ。まず君についてだ。報告書には、遺跡についてかなり細かく書かれていた。今後出土が予想されるものまで書かれている。まるで、この遺跡が建造物として生きている頃を見ていたかのような書き方だ。なぜそこまでわかるのか。そう思うのは当然だよね」

「まあ、そうでしょうね」

「陛下からは、君が古代人だからという旨の説明をもらった。陛下の言うことを疑っているわけではないが、本当なのかい?」


 俺が古代人であるという前提がないと、あの報告書は単なる妄想文であるはず。

 こうやって本人を呼び出して確認を取ってくるのは、当然の流れだとは思う。


「はい。本当ですよ。俺はどうやら最低でも千年以上は前の人間で、実際にあの建物が生きている頃を見ています。

 俺は未来……いや、あなた方から見れば現代ですね。現代へ、タイムワープで来たようです。崖から落ちて、気絶して、目が覚めたらこの時代でした」


 一瞬、沈黙が場を支配する。

 なぜかその一瞬の静寂で、俺の頭の中には、この半年間の出来事が駆け巡った。

 明らかにふさわしくないタイミングなので、それを押さえつけて頭を現実に戻す。


「……千年以上前となると、我々の知る歴史が始まる前だ」

「そうなりますね」

「証拠は……あるのかね?」

「証拠はこれから続々と出土されることになると思います。あとは、ここにいるクロも証拠かもしれません。神社に行けば像はありますが、現代に実物はいませんよね? 俺の時代には普通にいて、クロはうちのペットでした。クロは俺と一緒にこの時代に来たんです」


 部屋に戻れば、壊れたスマホや腕時計、着ていた服などがある。だが、そこまでしなくてもよいと思った。

 どのみち発掘が進めば、いろいろなモノが出てきて、証明されることになる。

 今この場で無理して信じてもらう必要はないとさえ思っている。


 そんな俺の考えは、表情にも出ていたのだろう。

 ウィトスは大きくため息をついた。


「……そうか。嘘を言っているようには見えないな……」


 再び沈黙。

 ヤマモトは、呆然としたような感じでこちらを見ている。

 ヤハラは切れ長の目を光らせ、厳しい顔でこちらを見ている。

 対照的な表情だが、どちらも言葉を発しないのは一緒だ。


「……君は、西の国出身なのかと思っていた……」

「すみません。ずっと確証がなかったもので。はっきりしたのは遺跡を見たときでした」

「そうか……そうなると、大昔は今よりも文明が……なぜ……」


 ウィトスはやや混乱しているような感じで、セリフの流れが変だ。

 もしかしたら、国王から俺の素性を聞いていても、信じていなかったのかもしれない。


 ヤハラが、ここで少しの休憩を提案した。

 三人の参謀は一度席を外す。

 俺もトイレに立った。クロにはそのまま待っているよう命じた。




 戻ってきたウィトスらは、だいぶ落ち着いた感じに見えた。

 話が再開される。


「できれば、一週間くらい落ち着く時間がほしいくらいだ。だが陛下の安全に関わってくる話だから、そんなわけにもいかない。私からはもう一つ質問させてもらうよ」

「はい」


「暗殺者を送ってきた勢力についてだ。君は報告書で、『暗殺者が所属するグループは、さほど大きな勢力ではないが、この国よりも高度な文明を持っていると思われる。そして何らかの事情で、この国が遺跡を発掘することを阻止したいと考えているようだ』と書いているね」

「そうですね」

「この国の対処として、何かできることはあるのだろうか」


 それは難しいと思っている。俺の時代でも、テロリストを根絶することは困難だった。


「書いたとおり、暗殺者の勢力には拳銃以上の武器はないでしょうから、まずは拳銃に対する警戒を万全にすることだと思います」

「その勢力に対して、逆にこちらから何か行動を起こすことは可能だと思うかい?」

「うーん……。やるのであれば、本拠地を見つけて、そこを叩くしかないと思います。武器の差がありそうなので、こちらにも被害が出るでしょうけど」


「本拠地の場所の見当は?」

「すみません。それはまったく見当がつきません」

「わかった。ありがとう。私からの質問は以上だ」


 そう言うと、ウィトスはヤマモトのほうに視線を送った。

 ヤマモトはそれを受け、「ヤハラさんは何かありませんか?」と振る。


「そうだな……。今現在、お前以外に大昔からワープしてきた者はいるのか?」

「探したことはないですが、知る限りではいないです」


 ヤハラの目の光は理知的で、こちらを鋭く抉ってくるような感じがある。

 少し、怖さを感じた。

 実は無能ではという疑いを勝手に持っていたが、こうやって至近距離で視線を交わすと、やはりそのような疑念とは程遠い印象を受けた。


「そうか。私からの質問はそれだけだ」


 ヤマモトが締めに入った。


「ではオオモリ・リク。まだ報告書を読んだのは陛下と我々だけであるが、お前が古代人であるという補足を私が一枚書き足し、下の者まで回覧――」

「いや、その必要はない。内容が内容だけに混乱を招くだけだ。これ以上回覧せず、我々までで留めておくべきだろう。陛下には説明しておく」


 ヤハラが途中で遮った。下まで回すつもりはないようだ。


「そうですか。まあ、ヤハラさんがそうおっしゃるなら」


 俺としては、ありがたいといえばありがたい。

 そんなに長い時間でもなかったはずだが、質疑でかなりの疲れを感じている。

 報告書が回されると、誰かが読むたびに参考人として呼び出されてしまいそうだ。こんなことが何回も続くのは勘弁してほしい。

 こちらとしては、拳銃対策だけしっかり周知してもらえれば不満はない。


「ではこれで解散だ。忙しいところ悪かった。オオモリ・リク」

「いえいえ、今日は神社に行こうと思っていただけで、特に急ぎの用事はなかったですから」


 俺は解放された。




 ***




 部屋に戻った俺は、ベッドにうつ伏せでバタンである。


「あー……疲れた」

「あれ? 兄ちゃんもう寝るの?」

「まだお昼にもなってないだろ。寝ないよ。ちょっと疲れただけ」

「ふーん」


 背中にフワリとした感触。


「コラ、上に乗るな」

「へへへ、オレが疲れを取ってさしあげよう」


 肩から背中にかけて、勝手にマッサージを開始している。

 じわっと親指に体重をかけていく指圧。なかなか気持ちいい。

 しかも俺のわき腹の怪我を考えてか、跨っているのに彼の尻には体重がかかっていない。さすがだ。


「どう?」

「うん。上手だな。これで商売できそうなくらい」

「へへへ、もっと褒めて」


 うん。これでウザくなければ百点満点だ。


 ……。

 …………。


「……げっ」

「あ、起きた」

「ね、寝てしまった……」

「うん。ぐっすり寝てたね」

「どれくらい寝てたんだ?」

「一時間くらい?」


 起こしてほしかった。寝るつもりじゃなかったのに。

 まあ、疲れは結構取れたが。




 ***




 俺は、クロと一緒に神社に行くことにした。

 カイルも、神社の近くにある家――孤児院の院長の実家らしい――に用事があるとのことで、神社の入り口近くまで一緒に行くことになった。

 神社までは馬車も出ているが、歩いても一時間くらいなので、運動も兼ねて歩く。


 境内へ登る階段の前まで来た。


「じゃあオレはここで。用事がすんだらそっちに合流するから!」

「ん? 俺なら大丈夫だから、無理して合流しなくてもいいぞ?」

「こっちはそんなに時間かからないから! 神社で待っててね!」


 相変わらずの強引さ。

 俺とクロは階段をのぼり始めた。百段近くあるので、結構骨だ。


「あ」

「なんだ?」

「俺、ここでお祈りしてまた気絶したら、お前や神社の人に迷惑をかけそうだよな」

「……私には迷惑などではないが。他の人間のことはわからない」


 うっかりミスである。

 また気絶する可能性がある以上、俺とクロだけではダメだった。

 さっきあんなことを言ったばかりだが、カイルが来てくれるらしいので、手伝ってもらったほうがよさそうだ。


「先にクロだけ霊獣像に祈ってもらってもいいかな? 俺はカイルが来てから、付き添いを頼んで祈るようにするよ」

「わかった」


 鳥居をくぐる。

 またもやクロは目立っている。すぐ人が寄ってきた。

 いつものように「霊獣じゃなくてペットです」という説明をするのだが、この時代は飼い犬という文化がない。あまりピンと来ていない模様である。


 なんとか、クロを霊獣像まで連れてきた。

 クロがじっと像を見つめ、そのまま固まった。祈りに入ったようだ。




 クロが祈っている間、俺は少し境内を散歩することにした。

 今日もたくさんの人達が来ている。にぎやかだ。


 人のいない、本殿から離れたところまで歩いてきた。

 やや小さめの堂がある。お賽銭箱はないので、倉庫なのだろうか。


「動くな」

「ぇっ?」


 突然、首に冷たい感触がした。

 いつの間にか、背後に人が――。


「おかしな動きをしたら殺す。これから言うとおりに動け」


 首に当てられているものは、おそらく……刃物。

 一気に冷や汗が出てきた。

 何だ。

 何なんだ、いきなり……。


「だ、誰――」

「しゃべるな」


 声は男だ。少し聞き覚えがあるような気がしたが、記憶と照合する余裕はなかった。


「このまま、そこの戸を開けて入れ」


 言われたとおりに、堂の戸を開け、中に入った。


「靴を脱いで上にあがれ」


 言われるとおりにするしかない。

 靴を脱いであがり、部屋の中央まで進む。

 中は意外に広いが、薄暗い。


「乱暴で失礼しました。もう振り向いていいですよ」


 口調が突然、丁寧なものに変わった。

 俺はすぐに振り向く。


「こんにちは。また会えましたね」

「お、お前は……!」


 逆光だが、はっきりわかった。

 男は、遺跡で国王を殺そうとした、あの時の暗殺者だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る