第24話 悪役の計略
悪役に必要なものと言えば何か。
それはもちろん姫である。
姫がいて正しきものがいて悪がいて。
悪が姫を攫うからこそ正しきものは勇気を持って旅に出る。
悪がいなければ、姫がいなければ、物語は始まらない。
と言うわけで少女を攫ってきました。
「こ、ここどこなのよ!? なんで私が縛られて、これ解いて!」
バタバタと暴れながら喚く通称マル。
街で気を失ったかと思えば知らない部屋にいるのだ。
両手両足も紐で縛られているし、パニックに陥るのも無理はない。
まあ別に縛る必要はなかったけれど、そっちの方が雰囲気出るかなって。
「目が覚めたかマル」
「私の名前はマルデリカ=シーネス=フォティベルグよ! 変な省略の仕方しないで! ってルインフェルト!? そ、そうだ私、街であなたに襲われて……。わ、私をどうするつもりよこの変質者! 変態!」
待て待て待て。
俺がいつ襲ったと言うのか。
むしろ襲われたのはこっちだと言うのに。
俺の純心な背中を蹂躙した巨大兵器が、今もその胸に付いてるじゃないか。
状況証拠として提出して頂きたい。
変質者変態という言葉も全くの言いがかりだ。
そんな俺の気持ちを察したのか、横にいたサーリィがムッと顔を顰めた。
「訂正して下さい!」
いいぞ言ってやってくれサーリィ。
ルインフェルトはそんな奴じゃないぞ、と。
貴様の胸を摩り下ろして我輩と一緒にしてやろうか、と。
「ルイン様は、変質者どころではありません!」
斜め下をいくフォローの言葉。
反論を受けたマルもどうすればいいのかと固まっている。
「ミア」
「はい、ミアにお任せを」
「ちょ、ちょっと待ってくださいミア! なんで角を噛むんですか!? 違うんですルイン様は変質者どころではなくもっと偉大でって言う意味で! ああああガジガジしないで下さいいぃ!」
どうしてサーリィはこうも残念なのか。
口を開かずおしとやかにしていれば出来る女性そのものだと言うのに。
口を開いた途端にポンコツが溢れ出す。
「まあこれでわかっただろ? 俺は変質者じゃない」
やれやれとため息を吐きマルに語りかける。
気分はできない部下を持った上司。
「今の会話のどこにそう言える要素があったの!?」
チッ、勢いでごまかせるかと思ったがそうは行かないらしい。
どうすれば変質者でないと証明できるのか。
いっそのこと服を全部脱いでみるのはどうだろう。
全裸で『ほぅら怪しいところなんてないだろう?』と言えばわかってくれるかもしれない。
息子も紹介できて一石二鳥。
「大体、他種族の女の子を二人も奴隷にしてる時点で確定じゃない!」
「ミアは奴隷じゃありません。ルイン様のメイドです」
「私は奴隷ですけど、ルイン様にはとてもよくして貰ってますし、その……変態的な行為も受けてはいません! ルイン様は紳士ですからっ」
よく言えました、とミアがサーリィの頭を撫でている。
俺も撫でに行きたい気分だ。
さっきはポンコツなんて言ったけど、やればできるじゃないか。
ご褒美をあげたい。
増胸マッサージなんてどうだろうか。
念入りにひらぺっぱいを撫で上げる十二時間コース。
「やっぱり! 今も何か変なことを考えてるわよ!」
「考えてるんですか?」
「いや?」
「言いがかりはやめて下さい!」
サーリィの言う通りだ。
言いがかりはやめてほしい。
サーリィのひらぺっぱいのどこが変だと言うのか。
小さくたってそこにあるだけで素敵じゃないか。
「やっぱり考えてる! 貴方たち騙されてるわよ!」
「ミアは不愉快です。これ以上ルイン様を侮辱するなら……」
ミアが不機嫌を表すように歯をカチカチと鳴らす。
威嚇しているつもりなのだろうが、正直可愛すぎる。
もし俺が正面からあれを受けたら特殊なアプローチと勘違いして、勢いのままエンゲージリングを買いに行く。
それぐらいに可愛い。
しかしマルはそう思わなかったようで、次に紡ぐ言葉に困っていた。
よく見れば彼女は震えている。
それはそうだろう、ルインフェルトの名を聞き笑顔を受けただけで気絶したのだ。
その住処に運び込まれて怖くないわけがない。
気丈に振舞っていたのは彼女なりの防衛手段。
なら彼女を安心させるため、になるかはわからないがとっとと本題に入ろう。
「まあこの話はこれくらいにして。マル、お前がスレインのマスターだって言うのは本当か?」
「マルデリカだって言ってるのに……。本当よ、『赤白き解放者』のマスターは私」
「スレインのマスターになるのは厳しいって聞いたが」
「ふんっ、私の父様はシャンドルド王国の伯爵よ。それぐらいわけないんだから」
貴族の令嬢だったのか。
まあ身元の保証という意味では確かに強そうだ。
シャンドルド王国っていうのはミアにこの世界について聞いてた時に耳にした気がする。
隣接している人族の領域内には十二の国がある。
その中で国土が二番目か三番目に大きいのがシャンドルド王国だったはず。
ちなみに今いるのはガラバード共和国。
人族の領域の中でかなり中央に位置するが、領土は大きくなく人口も少ない。
「なるほどな。じゃあそんなスレインのマスターに頼みがある」
「……何が頼みよ。こんな状況で」
マルが悔しそうに吐き捨てる。
確かに現状は極道の事務所に連れ込まれているようなもの。
さらに頼みがあると言うのは強面の親分なのだ。
脅しと捉えられても仕方がない。
実際は強面なだけで優しい親分なのに。
「そのスレイン『赤白き解放者』に、俺とこの二人を入れてくれ」
「…………はぁ!? な、なんであのルインフェルトがスレインに入るのよ!?」
「もちろん俺だとわからないように見た目やら名前を変えてだ」
通行証を持っているとは言え、ルインフェルトだと知れれば国に入れるはずがない。
そのことを思えばそろそろフード以外の変装手段が欲しいな。
その場しのぎのスキルで何か作れたりしないだろうか。
「そうじゃなくて、どうしてって!」
「ちょっと魔族との領域境いに行きたくてな。まあ言ってしまえばスレイヤーが使える通行証が欲しい」
「だからってそんな……言っておくけれどうちはCランクのスレインよ? 特別高位通行証だってないし」
スレインのランクは上からS、A、B、C、D、E。
特別高位通行証はAから発行されると聞いた。
「依頼を受ければいいんだろ? 任せてくれ、所属している間はしっかりと働く」
もちろん国を移動できるような依頼を率先して受けてはもらう。
別に俺はスレインとして登りつめたいわけじゃないからな。
「悪い話じゃないはずだ。何やら人手が足りてなさそうだし、依頼で貰える金銭も全てそっちが持っていっていい」
スレインのマスターが自ら一人で変質者狩りなんてしてるんだ。
所属している人数が少ないんだろう。
伯爵令嬢なら金には困ってないかもしれないが、貰って損するものでもない。
強面に物を言わせた脅迫じゃないとわかってもらえただろうか。
どちらにとっても悪くないウィンウィンな関係。
さらに必要だと言うのなら下半身もウィンウィンさせる心意気。
「なるほど……そういうこと」
「わかってくれたか」
どうやらプレゼンは成功のようだ。
失敗した場合はプランBの本気で強面パターンがあったのだが。
気持ちよく一緒に行動できるに越したことはない。
「……私のスレインが境界の勇者に目を付けられてるって知ってたのね」
ん?
何か変なことを言い出したぞ。
境界の勇者は獣族、魔族、長耳族との領域境界を守っている三人の勇者のこと。
他種族との境界線を守っているのだからもちろん強い。
それに目をつけられているとはどう言うことか。
「うちがあのクソ変態勇者に目をつけられて人が全くいないから丁度いい、そう思ったんでしょ?」
どうやら俺が『人手が足りてないのだろう』と発言したことで勘違いを起こしているらしい。
そう思ったんでしょ、と聞かれても返せる言葉はない。
だって全く知らなかったもの。
だからサーリィ、小声でミアに「やっぱりルイン様は色々考えてるんですね」とか言わないで欲しい。
ミアも頷いてるし。
「まあそうよね、私なんかよりよっぽど勇者達に近い存在だし」
どんどん彼女の中だけで納得が進んでいく。
勇者なんて今のところまだ二人しか見たことないです。
「悔しいけどあなたの考え通りよ……。もうスレインには私しか残ってないし一人だから依頼もまともに受けられないっ!」
歯を強く噛み締める音が俺の耳にまで届いた。
睨みつけている床にはそのクソ変態勇者の顔が浮かんでいることだろう。
今更知りませんでしたとは言い出せない雰囲気。
「こんな終わる寸前のスレインでいいなら利用すればいいじゃない! けどこっちだって利用させてもらうから! あなたなら境界の勇者だろうと関係ないだろうし、丁度いいわね。私の心が痛むこともない」
「……初めからそのつもりだ。言っただろ所属してる間はしっかり働くって」
こうなったら乗っかるしかない。
なんか結局協力してくれるらしいし。
境界の勇者は領域境いから動けないから、直接殴り合うなんてこともないだろう。
クソ変態勇者っていうのが魔族境界のやつだったら面倒だが、それならそもそも彼女はそっち方面に行くことを了承しないはず。
よし、俺は全てを知ってマルに近づいた計略の男。
俺にかかれば少女の思考など丸裸。
そして少女も丸裸。
計略万歳。
「じゃあ契約成立ってことで、この紐解いて」
依然として手足を縛られたままだった少女。
しょうがない、お姫様を捉えた悪役ごっこはこれぐらいにしておこう。
ペーパーナイフを取り出してマルに近づく。
このナイフはスキルで作ったものでそんなに切れ味が良くない。
だから頑張って切るために多少少女の体に触れたってしょうがないんだ。
しょうがないんだ。
「ぜ、絶対変なこと考えてる! 来ないで! こっち来ないでよ変態! ケダモノ!」
凄い勢いで後ずさって行った。
そんなに逃げられるとこっちも追いかけたくなる。
手に持ったナイフでも舐めてみようか。
そしてぐへへお嬢ちゃん、と。
きっと凄まじく様になる。
その後俺はしっかりとマルの紐を切ってあげた。
解放された彼女は俺のことを睨んでいたが、サーリィとミアがそんな彼女を説き伏せる。
特にミアがルイン様は紳士的だと洗脳のごとく連呼していた。
その調子で進めて欲しい。
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