第5話 悪役と才能
さっきまでのステータスと色々と違う気がする。
俺は目をこすってからもう一度半透明の板を見た。
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ルインフェルト=ラクアス(チアキ=ミズサ)人族
才能:{狂戦士、目利き、孤高、小細工}
スキル:{痛覚遮断、出血狂い、緊急再生、魂の救済、感覚強化
才能開花、鑑定、独断専行、一人芝居、その場凌ぎ}
魔法:{上神級氷魔法、上神級水魔法、中神級熱魔法、中神級火魔法、
下神級時空間魔法、上級風魔法、上級土魔法}
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名前と種族は変わってない。
これは当たり前だろう、才能が開花するたびにころころと名前と種族が変わっては困る。
変わったのは才能とスキルだ。
才能のところはさっきまで中括弧と括弧にわかれていたのだが、それらがすべて一つの中括弧でまとめられている。
この変化についてはよくわからないな。
さっきまでのがバグだったってこともないだろうし。
そしてスキルは明らかに増えている。
独断専行、一人芝居、その場凌ぎの三つがだ。
なんだかどれもあんまりいいものには思えない名前だな。
それぞれをさっきのように鑑定してみる。
…………これはまた強力だがぼっちを促進するようなスキルだな。
とりあえず独断専行と一人芝居を鑑定してみてわかったことは、この二つは『孤高』の才能によって得られたスキルのようだ。
残りのその場凌ぎを鑑定した結果はこんな感じになっていた。
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スキル:その場凌ぎ
鑑定結果:小細工の才能によって与えられたスキル。最低限の素材を使用して、最低限の物を作成することができる。
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こちらは小細工の才能によって習得したらしい。
まあ名前もその効果も小細工っっぽいな。
まだ使ってみないことにはわからないが、そこまで強力ということでもなさそうだ。
けれどまあ、才能開花を使用したことで才能は増えなかったが、スキルは増えた。
そして才能の部分の表記が変わった。
鑑定で調べた結果もあるし、これだけの情報があれば誰でも一つの事実に気づくだろう。
才能開花は問題なく発動して、そして俺は孤高と小細工という才能を開花させたということだ。
つまり括弧の中にその二つが書かれていた状態では、俺はその才能をまだ持っていなかったのだ。
スキルを使ったことで初めて開花されて確実な才能となり、スキルを得ることができた。
そういうことだろう。
ためしにもう一度才能開花を自分に発動してみる。
やはり変化はない。
これは括弧に書かれた才能がないから、つまり新たに開花できる才能がないからだろう。
もしかしてもう俺の才能は増えないのか?
括弧が存在しないことからその可能性は大いにあり得る。
つまり俺は目利き上手で小細工を弄する孤高の狂戦士で確定というわけだ。
なんだろう、強いのと
血を見て暴れ狂いながらも、パンチラは見逃さないような、そんな感じである。
二人の才能を混ぜ合わせたのだからしょうがないといえばしょうがないんだけれど。
どうせならパンツを見て狂いたかった。
パンツをみればみるほど強くなりたかった。
ただし自分のパンツはカウントしたくない。
自分のパンツを見ながら戦う勇者なんてみたくない。
才能開花によって増えたりもしたが、才能もスキルもとりあえずこれで全部チェックしただろう。
なら次はお楽しみの魔法にいこうじゃないか!
魔法のところに書かれているのは『上神級氷魔法、上神級水魔法、中神級熱魔法、中神級火魔法、下神級時空間魔法、上級風魔法、上級土魔法』の七つだ。
さっきのスキルとは違って俺の心を刺激する名前が並んでいる。
上神級……つまりは神の中でも上位に位置するものが使えるような魔法ということか……。
ククク、我に逆らうものは封印されし右手によって放たれる神の裁きによって灰燼と化す!
さあ、世界の意思(鑑定)によってその真実(使い方)を暴こうではないか!
上神級氷魔法に焦点を当てて、俺はスキルを使った。
その結果が頭の中に流れ込んでくる。
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魔法:上神級氷属性
氷属性を上神級まで極めたことを証明する証。
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「…………それだけか!?」
驚きすぎて思わず大声を出してしまった。
慌てて封印された右腕で口をふさぐ。
挙動不審に周りを見回してみたが、何かが近寄ってくるような気配はない。
ふぅ、どうやら周りに俺を見つけて襲いかかってくるようなものはいないようだ。
今のところはだが。
そんなことより魔法の鑑定結果である。
嫌な予感がしながら俺は他の魔法も鑑定してみた。
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魔法:下神級時空間属性
時空間属性を下神級まで極めたことを証明する証。
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やっぱり同じか……。
ステータスに書かれた魔法は他のスキルとかとは違って、本当にただステータスを表すだけのもののようだ。
つまり、ここに上神級氷魔法が書かれているから上神級氷魔法が使えるのではなくて、上神級氷魔法が使えるから上神級氷魔法とここに書かれているのだ。
なんだか同じように聞こえるが実際は全く違う。
簡単に言えば俺はこれらの魔法を使えないってことだ。
少なくとも使える魔法の名前を知らない限りは。
名前さえわかれば帽子っ娘が使ってた魔法を再現できたように使えるかもしれない。
期待をさせるだけさせてお預けとは、これが神様のいたずらというやつなのか。
神様のいたずらっこめ。
きっと可愛らしい幼女に違いない。
幼女から受ける焦らしプレイ。
お兄さんなんだかぞくぞくしてきちゃったよ。
だが勘違いしないでほしい。
俺はマゾではないのだ。
むしろその反対と言ってもいい。
幼女に殴られ罵られるよりも、幼女を殴り罵りたい派なのだ。
…………。
いやちょっと待て、なんかおかしいな。
幼女を殴り罵りたい。
言葉のインパクトがすごいことになっている。
お巡りさんの前で呟けば、職質どころかそのまま捕まりそうだ。
言葉というのは時に事実よりも過剰に見えたりする。
今のがそのいい例だろう。
その証明として、幼女を殴り罵ってる光景を思い浮かべてほしい。
うむ。
逮捕どころかパトカーでひき殺されても文句は言えないな。
思考がだいぶズレた。
とりあえず魔法は現状ほとんど使えない。
まあ、人に会ったら色々と聞いてみよう。
魔法以外にもこの世界のことで聞きたいことが多くあるしな。
早く森を抜けて街とかに着きたいものだ。
というかこっちの方角に街があるのか?
勇者が怖くて反対にきたけど、街に行くなら後ろをついていくべきだったか。
いや、ルインフェルト先輩が負けた相手に俺が勝てるはずもない。
逃げたのは間違いじゃないだろう。
何にせよ自分の今いる位置も地理もわからないのだから、カンに従ってまっすぐ歩くしかない。
なんとか飢え死ぬ前にどこかへ到着できればいいんだが。
それに到着してもこの世界のお金なんて持ってないから結局何も食えないかもしれない。
どうしてルインフェルト先輩は手ぶらなんだ。
普通コンビニにでかけるときでも財布とスマホぐらいは持って行くぞ。
勇者に奪われるからか。
カツアゲされた挙句、登録してある女の子の連絡先にいたずらメールを送られるからか。
許すまじ勇者。
次あったら覚えとけよ。
本当に会ったら全力で逃げるけどな。
でも勇者達も武器以外を持ってるようには見えなかったな。
ルインフェルト先輩だけなら野生に生きてると言われても納得できないことはないが、あの勇者達もそうとは思えない。
もしかしたらこの世界においては物を持つ必要がないんじゃないか?
物を実際に持つ必要がないという意味でだ。
俺のステータス欄には時空間魔法ってのがあった。
何が言いたいかというと収納魔法みたいなものが存在しているんじゃないかってことだ。
そして収納魔法といえば、その名前は決まってるだろう。
「アイテムボックス!」
控えめな声で叫んだ俺の目の前の空間がぐにゃりと曲がって、黒い渦が出現する。
おお、本当にあった!
正直、突然何かを叫んだ上に何も起こらなくて痛たたたた、と赤面する準備ができていたのだがまさかの成功だ。
びっくりしすぎて後ろに下がって木に頭をぶつけたが、成功した喜びに比べれば何も問題ない。
さて、アイテムボックスの顕現に成功したとなればもう勝ち組も同然だろう。
まずは何を取り出すとするか。
やっぱりルインフェルト先輩の秘蔵書からだな。
熟女派だったのか幼女派だったのかはっきりさせようじゃないか。
頭に取り出すものを思い受けべて渦に手を突っ込む。
秘蔵書……秘蔵書……秘蔵書……。
今更だけどこれで使い方が合っているんだろうか。
というか腕が飲み込まれたりしないよね?
不安を胸に抱きながら、探っていると何か手に当たるものがあった。
この感じは、本だな。
使い方は間違ってなかったようだ。
さあ、拝見しようじゃないか。
手に触れるものをつかんで渦から引き出してみる。
分厚い辞書のような一冊が現れた。
おいおい、こんな分厚いのが全部むふふなのか……。
ルインフェルト、お主もなかなかよのぅ。
俺は座ることもせず、期待と共に本を開いた。
現れたのは見たことのない文字の羅列。
渦に向かって本をフルスイングした。
まったく期待させやがって。
ふざけるのも大概にしてほしい。
こっちは真面目にやってるんだ。
まあいい、秘蔵書はおいておいてとりあえず食べ物を取り出してみよう。
きっと何かしらは入っているだろう。
いろいろな食べ物を思い浮かべて、手を渦の中に突っ込む。
食べ物……食べ物……食べ物……。
手に何か当たった。
よし、これで飢えを心配する必要はなくなるな。
俺は腕を引き抜いた。
封印されし右腕、もといただの右腕に掴まれていたのは本だ。
本か。
皆は知らないかもしれないが、この世界の住人は本を主食としている。
本を食べることで、文字通り知識を取り込むのだ。
だからこの世界ではほとんどの人間が凄まじい量の知識を保有している。
小さな頃から本を食べ続けたのだから、当たり前だろう。
逆に本を食べることができないほど貧困な家庭では知識が不足して、より一層貧困な状況へと追い込まれていく。
本を食べれるか食べれないか、それによって全てが決まると言ってもいいだろう。
幸いにも俺は本を食べる側のようだ。
早速頂こうじゃないか。
俺はページをめくることもせず、そのまま齧りついた。
分厚い表紙に歯が減り込む感触、鼻にとどくカビの風味。
そして口の中の水分がもっていかれる感覚。
それらの全てがあわさって俺に訴えかけてくる。
『これは食べ物ではありません』
渦に向かって本をフルスイングした。
口の中にのこったわずかな紙片をぺっと吐き出す。
本が食べれるはずがないだろう。
ふざけるのも大概にしてほしい。
こっちは必死にやってるんだ。
どうやらまだしばらくは飢えの心配をする必要があるみたいだな。
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