第4話 悪役の能力
悲しみと虚しさを背負ったまま俺は勇者達が去っていった方角と逆に歩いていく。
途中で遠くに古城のようなものが見えた。
洋風の上がつんつんしている城だ。
こういうのを見ると異世界って感じがしてくるな。
元の世界にもあったけど見に行ったことはなかったし。
なんだかヤバそうな感じがするから近づこうとは思わないが。
しばらく歩いてやっと更地が終わり通常の森にもどった。
後ろを振り返っても元いた地点は見えないっていうのに全くどれだけ破壊したんだ。
もう右腕は封印だな。
封印されし右腕だな。
ククク……この右腕が暴れだす前に立ち去れっ!
おかしいな中二病は卒業したはずなのに。
まあ魔法がある世界だし中二病でもそこまで問題はないのかもしれないが。
ククク……。
そんなことを考えながら、俺は左手で短剣を弄んでいた。
なんとなく手に持ったら馴染むような感じがしたので、意識せず適当に動かしてたのだ。
なんだろう、元の世界で触ったこともないようなものなのにうまく扱えそうな気がする。
体が使い方を覚えているとかっていうことなんだろうか。
片目になったことには違和感を感じたのに、剣の使い方は覚えてる。
なんかおかしな話だな。
脳にかかる処理の問題と考えればそうでもないのか。
ためしに封印されし悪魔の右手にも短剣を持ってみた。
やはりしっくりくる。
このままなんでもぶったぎれそうだ。
さぁ、スライムでもゴブリンでもかかってこい!
それより強そうな奴は遠慮する!
だがもちろん都合よく獲物が飛び出てきたりはしない。
そもそもスライムとかゴブリンが存在するのかもわからないんだが。
さっき倒れてた緑の気持ち悪いのがゴブリンなのだろうか。
考えてもしかたない。
「ふんっ!」
しょうがないので目の前の木に向かって斬りつけてみた。
もちろん手加減をしてだ。
俺は学習する男だからな。
だがそれでもかなりのスピードだったと思う。
まさに目にも留まらぬ速さというやつではないだろうか。
…………あれ?
切ったはずの木々には一切の変化が見られない。
おかしいな確かに何かを切り裂いた感触があったのに。
短剣の柄で木を小突いてみる。
すると今やっと切られたことに気づいたかのように木が中ほどからずれて大きな音とともに倒れた。
そしてドミノのように後ろの木も倒れていく。
あっという間に新たな道ができてしまった。
「は、はは……」
本日二度目の苦笑いである。
きっと木がたまたま折れただけに違いない……。
そうだ俺が自然を破壊するわけがないじゃないか。
俺は自然を愛する男。
称して自然マン。
死ぬほどダサいな。
まあこの木々はたまたま折れただけだが、いろいろと加減を覚えないといけないな。
ルインフェルト先輩どんだけスペック高いんだ。
そしてそれに勝った勇者も化け物だな。
絶対に会いたくない。
今会いたくない人ナンバーワン。
しかしこうなってくるとルインフェルト先輩の説明書みたいなものが欲しい。
いろいろと出来すぎて何が出来るのかさっぱりわからん。
このままではきっと事故が起こってしまう。
何かの拍子に指をさしたらビームがでてしまうかもしれない。
何かの拍子に口を開けたらビームがでてしまうかもしれない。
何かの拍子に目を開けたらビームがでてしまうかもしれない。
なんという危険な体か。
超合金ルインフェルトロボと呼んだ方がいいな。
ロボじゃないか。
そうだ、異世界なんだしステータス的なものが表示されたりしないだろうか。
いきなり放り込まれて死亡三秒前だったんだからそれぐらいのご都合があったっていいだろう。
ステータスオープン!
ステータスウィンドウオープン!
オープンステータス!
オープンザプライス!
オープンザウィンドウ!
だめだな、ステータス画面的なものはでない。
俺は目頭に手をやって溜息をついた。
そんな便利なものは存在しないということか。
ステータス表示があるだけでだいぶ楽になるとおもったのに。
まあ無い物ねだりをしてもしょうがない。
目を何度か揉んでその疲れを癒してから手を離した。
そして目を開くとすぐ前に半透明な板。
んあ!?
出てるじゃないかステータス画面!
もしかして『ステータスオープン』とかじゃなくて『ステータス表示』ででるのか?
なんでそこだけ日本語なんだよ!
統一性を大切にしろよ!
まあ実際に喋ってる言葉は日本語でも英語でもなくてこの世界の言語に変換されたものみたいなんだが。
それなら余計に同じ言葉に変換しといてほしかった。
まあ出てくれたのならこれ以上文句は言うまいか。
しっかりとチェックさせてもらおう。
と思ったら読めない。
いや、読めないことはないが読みにくいと言った方がいいか。
なんか文字が重なっているのだ。
半透明の板にそれぞれ文字が書いてあってそれが二枚重ねられてるような。
もしかして俺とルインフェルトの二人分が表示されてるのか?
イレギュラーな出来事に世界が対応できてないのかもしれない。
うん、こういう時は再起動だな。
困った時は再起動と決まっている。
もしくは叩く。
それで大体治るのだ。
残念ながら触れることはできなかったので再起動だな。
閉じろと念じると半透明の板は消えた。
もう一度『ステータス表示』と唱える。
やはりこの言葉であっていたようだ、問題なく再び表示された。
むむ、なんだろう惜しい感じがする。
さっきよりはマシになったがまだ読みにくい。
画面にノイズが走っていると言えばいいだろうか。
もう一度再起動コースかな。
と思ったらノイズが晴れてきれいに表示されるようになった。
やればできるじゃないかステータス画面よ。
俺は今度こそ表示された情報に目を通して行った。
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ルインフェルト=ラクアス(チアキ=ミズサ)人族
才能:{狂戦士、目利き}(孤高、小細工)
スキル:{痛覚遮断、出血狂い、緊急再生、魂の救済、感覚強化
才能開花、鑑定}
魔法:{上神級氷魔法、上神級水魔法、中神級熱魔法、中神級火魔法、
下神級時空間魔法、上級風魔法、上級土魔法}
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……なんだか思っていたステータス画面とは少し違うな。
もっと筋力がいくつだとか魔力がいくつだとかのを想像していた。
さすがにそれはゲームのやりすぎか。
ここはゲームじゃなくて現実なんだからそんな数値化は難しいのだろう。
とりあえず順番に見ていこう。
名前はルインフェルト=ラクアス。
なるほど……あのラクアス家のものだったか。
ラクアス家、皆はご存知だろうか?
俺はもちろん知らない。
当たり前だろう。
こっちに来たばっかりなんだもの。
そして括弧の中のチアキ=ミズサというのは俺のもともとの名前だ。
水に砂、そして千の晶で水砂千晶だ。
二つの名前が書かれているということはステータスの統合に成功したのだろう。
ありがたいことだ。
名前の横には人族と書かれている。
ここには種族が記されるってことか。
括弧もなにもないということは、俺もルインフェルト先輩も人族だったってことになるのかもしれない。
他にはどんな種族がいるんだろう。
ケモミミ族とかエルフとかいたりするんだろうか。
仲良くなれたりしちゃうんだろうか。
耳とか触らせてくれたりするんだろうか。
今のこの体で触ったら引きちぎりそうだな。
力の加減を覚えることが俺の中で最重要課題になった。
次の項目は才能とやらだ。
中括弧のなかに狂戦士と目利き、括弧のなかに孤高と小細工。
なんだかバラバラだな。
これもやっぱり俺とルインフェルトのものが混ざってる感じがする。
まず狂戦士は間違いなくルインフェルトのものだろう。
まさしくといった感じだ。
そしてあとは孤高もそうだと思う。
俺は人気者ってわけじゃなかったが、孤高と言えるほどぼっちでもなかった。
だがルインフェルト先輩は勇者との戦闘を見てもわかるように、ぼっち感が半端ない。
ぼっちを極めしぼっち。
それこそがぼっち王ルインフェルト=ラクアスなのだ。
本人に聞かれていたら十回ぐらい殺されるな。
まあもう俺が本人なんだけど。
残った才能は目利きと小細工。
いっきに格好良さが下がった。
この二つがもともと俺に備わってたものと考えていいだろう。
俺は人を見比べて、色々と考えて、効率的に生きてきた。
効率的と言えば聞こえはいいが、つまり自分の利になるかならないかで人付き合いをしてきたということだ。
それが当たり前という人もいるかもしれない。
けど実践するのは案外難しいものだ。
まあもうそんな話はどうでもいいか。
とりあえず才能はルインフェルトの狂戦士、孤高、そして俺の目利きと小細工のようだ。
あれ、でもそう考えるとこの中括弧と括弧の違いはなんだ?
俺とルインフェルトで分けているわけでもなさそうだし。
ステータス画面のガイドはないものか。
サポートセンターに問い合わせたい。
かわいい声の女性とお話ししたい。
わからないところは放置して次に行くとしよう。
次はスキルだ。
こっちは括弧が分かれてたりはしないな。
痛覚遮断、出血狂い、緊急再生、魂の救済、感覚強化、才能開花、鑑定の七つ。
なんというか……
いや、才能開花のところに花の文字はある。
でもそういうことじゃないんだ。
花じゃなくて華なんだ。
男たちの中に花田華太郎がいてもやっぱり華がないのだ。
そういうことなのだ。
何が言いたいかというと、女の子が好きだということ。
違う、間違えた。
もっと派手そうなスキルが欲しかったということだ。
名前だけで胸の奥が熱くなるようなやつが欲しかった。
大体なんだ、出血狂いって。
出血すればするほど頭が狂うってことか。
大ピンチじゃないか。
ルインフェルト先輩も死ぬ間際だいぶ出血してたけど、あれは狂ってた状態なのか。
そういえば『幼女! 幼女!』って叫んでた気がする。
それは俺か。
体外にでた血液が蒸発し、それを吸い込んだ人間を狂わせる。
それが出血狂いということか……!
でなければ紳士な俺が幼女などというわけがない。
ちっぱい。
他のスキルも効果がわからないものが多いな。
そもそもパッシブなのかアクティブなのかもわからない。
なんとなくわかるのは痛覚遮断と鑑定ぐらいだろうか。
ああ、そうだ鑑定があるじゃないか。
これでスキルを鑑定してみよう。
出血狂いに焦点を当てて鑑定と念じてみる。
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スキル:出血狂い
鑑定結果:狂戦士の才能によって与えられたスキル。血を見ればみるほど力が湧いてくる。血は自分のものでも他人のものでもかまわない。
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おおう。
めちゃくちゃ強いな。
他人の血でも強くなるってところがやばい。
多人数との戦いとかだと長引けば長引くほど強くなるというわけだ。
さすがぼっちで戦ってきただけあるな。
他のスキルも見ていこう。
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スキル:緊急再生
鑑定結果:狂戦士の才能によって与えられたスキル。身体が致命的な損傷を受けた時、無理やりに再生させる。
スキル:魂の救済
鑑定結果:魂を救済する。
スキル:感覚強化
鑑定結果:狂戦士の才能によって与えられたスキル。五感のすべてを強化する。さらに強化された感覚によって体感時間を引き延ばすことができる。
スキル:才能開花
鑑定結果:目利きの才能によって与えられたスキル。才能を開花させる。
スキル:鑑定
鑑定結果:目利きの才能によって与えられたスキル。物事の詳細を見抜く。
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一応、痛覚遮断以外のすべてのスキルをこれで鑑定したことになる。
緊急再生と感覚強化についてはしっかりと理解できた。
緊急再生の無理やりに再生って記載が怖いな。
まあ狂戦士の才能で得たスキルってかいてあるし、死にそうな攻撃を受けても戦えるようにするってことだろう。
狂ったスキルだ。
いざという時には役に立ちそうだが。
感覚強化はあれだ、達人同士の取っ組み合いで一秒が何十秒にも感じられるとかそういうのを再現するスキルってことだろう。
五感強化もついているみたいだし、割と使えそう。
それ以外のスキルの説明は名前をそのまま説明文にしただけのような。
まあ鑑定は使っているしなんとなくわかる。
だが魂の救済と才能開花は本当にそのまますぎてわからん。
魂の救済だけは才能によって得たスキルじゃないみたいだな。
ルインフェルトが魂だけだった俺を救えたのはこのスキルのおかげなんだろうか。
というかなんかこのスキルだけルインフェルトっぽくない。
かといって俺のスキルでもないだろうし。
謎だな。
才能開花は才能を開花してくれるらしい。
それは名前でわかってたわ。
もっと具体的なお話をしてほしかった。
才能ってのは狂戦士とか目利きみたいなことを指してるんだろう。
なら使えば他の才能が習得できるってことか?
もしそれに付随してスキルも得られるのなら鑑定、出血狂いよりも強いものな気がする。
よし。
使ってみるか。
名前的に悪いことが起きたりはしないはず。
もしかしたら変な才能が開花するかもしれないけど、まあ死にはしないだろう。
……死にはしないよね?
ええいままよ!
才能開花!
「…………何も起きないな」
目をつぶって衝撃に備えていたが、衝撃どころか特別な音一つならなかった。
光が自分を包み込むといった演出もなしだ。
もしかして使い方が間違っているんだろうか。
もう一度ステータス画面を開いてみる。
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
ルインフェルト=ラクアス(チアキ=ミズサ)人族
才能:{狂戦士、目利き、孤高、小細工}
スキル:{痛覚遮断、出血狂い、緊急再生、魂の救済、感覚強化
才能開花、鑑定、独断専行、一人芝居、その場
魔法:{上神級氷魔法、上神級水魔法、中神級熱魔法、中神級火魔法、
下神級時空間魔法、上級風魔法、上級土魔法}
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なんか増えて……る?
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