第19話
タカシの雄叫びと共にベヒ美が更に加速する。そしてそのまま巨大ハイエナ狼に自慢の一角を構え突進する。
「キャウンッ!?」
「ガァァァァァァァァァァアァァァッ!!」
虚を突かれた様で巨大ハイエナ狼は面を喰らいそのままなすすべなくベヒ美の一角による突進で天高く吹き飛ばされる。
その光景に小さなハイエナ狼達は唖然とし、その場に固まる。しかし群れのボスである巨大ハイエナ狼を吹き飛ばす巨体に襲い掛かるほど馬鹿ではないようで、威嚇し、唸りをあげつつも腰は引けている。
「グルァァァァアアアアッ!」
先程吹き飛ばされた巨大ハイエナ狼がベヒ美の脇から襲い掛かる。ベヒ美は必死に振り払おうとするもそうはさせまいと鋭い爪を突き立てる。
そして追撃するかのように口を大きく開くとベヒ美の堅牢な体に牙をむく。
「ガァァァァァァァァァァアァァァッ!!」
思わずベヒ美が雄叫びをあげ、振り落とそうと体を右往左往させる。タカシとアリシアもベヒ美に振り落とされまいと必死に体につかまる。
「クッ……このままじゃマズい」
「タカシさん!避けてッ!フ、フレアッ!!」
必死に振り落とされまいとしながら片手で杖を握り、呪文を唱える。構えた杖の前に小さな火球が巨大ハイエナ狼目掛けて飛び直撃する。炎が黒い毛に広がる。
「ガウウゥゥゥウウッ!?」
巨大ハイエナ狼は体についた炎に驚き、その牙を体から離す。その瞬間をベヒ美は逃さない。その牙が離れる瞬間僅かに身を捩じり巨大ハイエナ狼を吹き飛ばす。
その瞬間アリシアの体がベヒ美の背から離れ、宙に投げ出される。
「あ、アリシアァァア、さんッ!!」
タカシは反射的にアリシアに手を伸ばす。しかしその手はすでに宙を舞うアリシアを捕えることはできない。
しかしまだあきらめない。上体を上げ、そのままベヒ美の背を踏み台にしてアリシア目掛けて飛ぶ。
「うおぉぉぉぉぉおおおッ!」
タカシの手がアリシアの手をしっかりとつかむ。そのままアリシアを抱きしめる形で地面に転がり衝撃を殺しきれずに肩から着地する。
「ッ!?」
「……タカシさんッ!?」
「大丈夫。折れてはなさそうだから」
インドア派のタカシに受け身を取るなどという器用な真似ができるはずもなくもろに衝撃を受ける。しかししっかりとアリシアの体を抱えて落ちたので彼女の方は無傷の様である。タカシの方も骨が折れている様子はなく体は打撲程度で済んだようである。
ベヒ美はというと先程受けた傷の痛みに興奮して、高らかに咆哮している。先程の巨大ハイエナ狼は吹き飛ばされはしたもののまだ戦意喪失していない様で、こちらを睨みながらうなり声をあげている。同様に小さいハイエナ狼達も巨大ハイエナ狼を取り囲むように陣を組み威嚇態勢を取る。
「ガァアァァァアッ!」
ベヒ美もまだ戦うつもりがあるようで傷を負っているせいか咆哮は小さめながらも、その瞳には確かに戦う意思が宿っていた。
そんなベヒ美達を横目にタカシは肩をアリシアに抱えられながらどうにか立ち上がる。
「クッ、マズったぁ……ごめんアリシアさん」
「そんなッ!?私を助けるために負った傷なのに……」
「いいさ、元をただせば俺に巻き込まれて森の外に連れ出されちゃったわけですから、守るのは当然です、ハハ……」
タカシは軽口をたたきつつもアリシアの表情は不安げで、どこか複雑そうである。一方状況はあまり芳しくない。巨大ハイエナ狼をベヒ美が抑えている間に残りのハイエナ狼達がタカシ達の周りを囲っていた。
「アリシアさん……魔法ってあと何発くらい打てそう?」
「ヘッ……あと二、三発といった所でしょうか」
しかしハイエナ狼達の数は六匹。おまけにアリシアの〝フレア〟は小さな火球を出す程度の魔法なので一撃で倒せるのは一匹がいい所ある。しかも避けられれば終わり。おまけにけが人を横に抱えた状況である。
(なんとも情けない。俺は攻撃のすべは持ってない。消耗も大きいしこんな小型のモンスターに使うのはさすがに気が引ける。いよいよ足手まといだ。ベヒ美はあのでかい狼に手間取ってる。さてどうする……)
「ガァルアァッ!」
ハイエナ狼の一匹がしびれを切らし飛び掛かってくる。咄嗟にアリシアが杖を前に翳す。
「キャッ……フレアッ!フレアッ、フレアァアアッ!あ、もうでない」
アリシアは動揺しすぎて咄嗟に三回魔法を唱えてしまったようで火球が三発一匹のハイエナ狼に直撃する。三発もあたり燃え上がりながらその場に崩れ落ちた。
(おいぃぃいいいいッ!アリシアさんッ!?大事な三発全部使っちゃったよッ!え、いよいよどうすんの。やばいやつだわ。かっこつけすぎちゃったよ。べぇ……マジべぇわ)
ハイエナ狼は依然五匹。仲間がやられたせいか先程よりも大分いきり立っている。
「グルァアッ!」
雄叫びと共に一斉にタカシとアリシア目掛けて飛び掛かる。
(あ、これ終わったやつだわ。しかしこれもう何回目って感じだけど終わったわ。二度目の人生終わったぁ)
「キャァッ!?」
「アリシアさんッ!」
タカシはアリシアを抱きしめ、庇う。ハイエナ狼の爪が後数センチでタカシに触れるという時であった。
「放てッ!」
掛け声と共にハイエナ狼に数本矢じりが突き刺さっていた。
「キャウンッ!?」
ハイエナ狼は突然の攻撃に宙で態勢を崩し、その場に崩れ落ちる。
「とりゃッ!」
宙で態勢を崩し、地面に力なく伏したハイエナ狼の頭に今まですっかり忘れていた片手剣を腰から抜き、突き立てる。
突然の奇襲に群れは混乱し統制を失ったようでハイエナ狼達は違う方向を右往左往している。奇襲してきた相手を見つけるのが先決か、目の前のタカシ達を先に仕留めるべきかをモンスターながら悩んでいる様である。
「クルァァアンッ!」
更なる奇襲は空からであった。空から大鷲がハイエナ狼に襲い掛かる。その鋭い爪がハイエナ狼の体に食い込みそのまま空へハイエナ狼を高く空まで持ち上げるとそのまま落とす。宙で成すすべなくもがくハイエナ狼は地面に叩きつけられそのまま爆ぜる。
目の前の光景に残り三匹のハイエナ狼は尻尾を巻き逃げようとするもそれを阻むもの達がいた。その姿は異様であった。
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