第18話
暑苦しさに目を覚ます。僅かに開いた視界には煌々と照りつける太陽がまばゆい光で照りつける。
「う、う……暑いッ」
熱さに思わず手を額の上に持ってくる。気がつけばタカシ達は何処かの荒野に倒れていた。
タカシは立ち上がり、辺りを見渡す。先程までのエルフの森は何処にも見当たらず、ただただ広い荒野が広がっている。近くにベヒ美が横たわっていていびきをかいて気持ちよさそうに眠っていた。その上にアリシアが横ったわっていた。彼女も太陽の元に晒され少し寝苦しそうである。
「やはり何もないか……結局長老のやつアリシアちゃんになんの説明もなく森の外に出しちゃったのか?ほんと大丈夫なのかな」
エルフの森の少女アリシア。彼女は案内についてくると名目の元そのまま魔法陣に飛び込み結果連れてきてしまった子であり長老の孫でもある。ちなみに長老は転生者であり、転生者の最初の異世界での案内人であり、タカシはゲームマスターと呼んでいる。
長老的にはアリシアをパートナーとして連れていけとタカシにほのめかしてはいたものの、当のアリシア自身にはなんの説明もない様子なので起きた瞬間帰りたいなど言いださなければいいなと願うばかりである。
アリシアは長老が森の魔法陣にはいる寸前で飛びのいた際も戸惑いを隠せないようであったし、なにより見ず知らずのタカシのダンジョン入りの事やラウンド5での長老の無差別な攻撃に対して非常に懐疑的であった様で、あまりいい表情を浮かべてはいなかった。
最も長老も転生者が故にゲーム感覚で物事を進めている部分があるのはタカシ自身が転生者なのでわからないでもない。タカシ自身片腕を失ったにもかかわらず、腕を食いちぎられた際もすでに多量出血で意識不明になりかけていたし、必死だったが故痛みを感じた覚えがあまりない。おまけに片腕をフレアで補っているためあまり不自由も感じていないところも大きいだろう。
故にタカシ的にはRPGでいう街を抜け、広大なワールドマップに出たような、そんな印象でしかない。金銭感覚もゴールドという単位であまり日本円と変わらないようだ。もしくは〝言語理解・及び翻訳〟の機能を得ているのでタカシに分かりやすい解釈に変換されている可能性もある。故にゲーム感覚に感じてしまう要因の一つだと感じる。
今現在位置している場所からは街の一つも見当たらないので、タカシ自身が思っているよりも広く荒野が広がっている様である。普通に移動したら相当な時間を消費してしまいそうだ。
しかしタカシは移動という点に関してはあまり心配はしてはいなかった。タカシ達にはベヒ美という四足歩行の大型モンスターがいる。しかし今は旅の疲れのせいで快眠しているのでしばし様子見だ。そのうち日光の暑さで目を覚ますだろう。
「ん、ん……こ、ここは?」
アリシアが寝苦しさに起きた様だ。
「あ、アリシアさん。起きたみたいですね」
「あ、タカシさん。ここは?」
「えっと……まぁエルフの森の外、ですかねぇ、うん」
「そ、そうなんですかッ!?私初めて外に出ましたッ!やったー」
以外にうれしそうなアリシアの姿を見てそっと胸をなでおろすタカシである。
ただここから旅に同行してもらうかというと話は別である。恐らく現時点でアリシアはエルフの森に還れると考えているだろう。しかし長老もゲームマスターが故、タカシの連れのパーティーの一人としてアリシアをタカシに宛がったに違いない。なんとも不憫な話だがそう簡単にはエルフの森に還ることは出来なさそうな気がするタカシである。
しかしここから直接アリシアに返答を聞くのはタカシの役割である。アリシアに背を向け、深呼吸をしたのちアリシアに向き直る。
「あの、あり、アリシアさん!よかったらなんだけどさ、俺と一緒に冒険の旅にでない?的な……ハハハッなんつって」
少々ぼかし気味ではあるが何とかいえた事に安堵しつつアリシアの返答を待つ。アリシアの顔は僅かに俯いていた。色々と道中の事など考えているのだろうと思うと心中お察しする。
(冷静に考えればつい一日前にあったやつに一緒に旅しませんかとか絶対こまる奴だよな。正直告白よりひどいわ。昨日今日会った子に衣食住共にしようっていってるわけだしやべぇ。絶対断られる奴やん)
「こちらこそいいんですか?旅に同行させてもらっちゃって?」
「……え?マジ」
「えぇ。ふつつかものですがどうぞよろしくお願いいたします」
圧倒的天使である。もはやアリシアが眩しい。天から照りつける太陽より眩しい。いい子過ぎるアリシアに対し思わずタカシの心の声が漏れ出る。
「あのさぁ……一生幸せにするわ」
「へッ?あのぉ……どういう」
「あ、つい心の声がでてしまった。ハハハ。すみません忘れてください」
「はぁ……」
「さてでは気を取り直して街探しますかね」
「ガァァァァァァァァァァアァァァッ!!」
タイミングよく、両名の後方からけたたましい咆哮が鳴り響く。ベヒ美が起きた様である。
「さてベヒ美も起きた事ですし、荒野探索行きますかね」
「はいッ!」
タカシとアリシアはベヒ美の背にまたがると、荒野を駆ける。
ベヒ美の背に乗ってみる光景は自身の視界が捕えるよりも更に情報量が多い。
とりあえず道なりにベヒ美を走らせる。
「ガァァァァァァァァァァアァァァッ!!」
ベヒ美は初めて見るのか広大な大地に興奮している様で、走りながら咆哮を辺りにまき散らす。
普段であればタカシも危険に巻き込まれる可能性があるため、注意する所ではあるのだがタカシもファンタジー世界でしか見ない広大な荒野の風景に見とれていて我を忘れてしまっていた。後方に座っているアリシアもそれは同様の様で、初めて見る景色に目を輝かせている。
「わぁッ……ベヒ美ちゃんの背中から見る景色はまた違いますね」
「ですね、うわぁッ!?まぁ多少揺れますけどね、ハハッ」
「ですね。ん、タカシさんあれは……」
二キロ程走った所でアリシアが何かを見つけ、指を指す。タカシもベヒ美を止め、視線を移す。そこには二台の荷車がモンスターに囲まれて襲われている様であった。
荷車の周りには片手剣を持った用心棒たちが必死に剣を振るってモンスターを退けようとしていた。周りを囲んでいるモンスターは遠目から見るに狼の様な形状を取っているが僅かに色合いはハイエナの様なそんな印象のモンスターの群れであった。数にして七匹。
そしてその群れのボスであろうハイエナ狼は色が黒く、一回り大きい。他のハイエナ狼が2メートル程なのに対して大きさにして七メートル程であろう大きさを誇る。
用心棒の一人が怖気づきその場から剣を捨て逃げ出す。小さなハイエナ狼の群れを掻い潜り逃げ出すも、巨大ハイエナ狼に阻まれる。
用心棒は完全に腰を抜かしてその場に尻もちをつく。
その様子にタカシが声を荒げる。
「ベヒ美ッ!頼むッ!」
「ガァァァァァァァァァァアァァァッ!!」
「キャッ……!?」
咆哮と共にベヒ美が加速する。それと同時に生じる激しい揺れにアリシアが驚き、思わずタカシの背にもたれ掛る。
(ハッ……このタイミングで女の子と自転車の二人乗りならぬ、女子とのベヒモスの二人乗りイベントで体を預けられるイベントとは……いかん、いかんぞタカシ。お前は何度死ねば学習する。今は目の前の人を救う事だけ考えろッ!)
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおッ!!」
タカシの雄叫びと共にベヒ美が更に加速する。そしてそのまま巨大ハイエナ狼に自慢の一角を構え突進する。荒野にてタカシ達とモンスターの群れとの戦いの火ぶたがここに切られた。
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