第17話

 彼らはベヒ美の真・砲天撃によって吹き飛ばされたボウによって空いた穴から次のエリアに移動した。そこに広がっていたのは……。




「こりゃ……また」




「うむ。サッカー場かのぉ……」




 緑の芝が生い茂った縦四十メートル程、横二十メートル程のコートと両端には直径六メートル程のゴールが設置されている。


そして頭上には「フットォッサルゥゥゥウ!!」と書いてある看板が釣り下がっていた。




「貴様らッ!」




 激しい掛け声がコート内に飛び交う。視線を頭上の看板からコートへ移す。


コートの中央に四人の腕組みをしたエルフが立っていた。


一番左側の女性エルフが名乗りを上げる。腕に鋭利な矢じりの先のみを握りしめ天高く翳す。




「私に弓は不要ッ!私自身が弓となるッ!ダーツのイダテンッ!」




イダテンが名乗り終わったと当時に二番目のガタイのいいエルフが長い棒をぐるぐると回し、構える。




「俺のブレイクショットはすべてを打ち抜く。ビリヤードのショットッ!」




 次の三番目の女性エルフは体中から音符マークを出している。そして大きな声でけたたましい声を館内に響かせる。




「私の歌は世界を救う。カラオケのフォルテッシモ藤代ッ!」




最期の中肉中背の男が最後に名乗りを上げる。




「我らボウ・オブザ・リングを入れた五人がエルフの森の五人衆ッ!この店の名前がなぜラウンド5か、これは我らが誇りの数ッ!フットサルの武田ッ!長老、追放の屈辱ッ!今この場で晴らさせてもらう」




彼らエルフの森五人衆の宣言中、長老はぶつぶつと詠唱していた。


そしてついに詠唱が完成する。無反応な長老ご一行にしびれを切らした武田が、長老に向かって叫ぶ。長老はめんどくさそうな顔をして杖を「えいッ」と掛け声の元振る。




「貴様らッ……我らと戦う気がないのかッ!?」




「デスフレアッ」




 黒い炎で包まれた大きな火球が長老の頭上に展開される。




「逝け。そして永久に眠るがよい。あと全部娯楽の名前が一緒で捻りが無かったのも呪文を撃った理由の一つかのぉ」




「貴様ぁぁぁぁぁぁああ!」




「許さん、許さんぞぉ!」




「助けてママァァ」




「我らがエルフの誇りは不滅なりぃぃぃッ!」




ドガァァァァアアアンッ!




黒炎が刺客四人に直撃し、黒い炎が辺りに散らばる。




「ふぅ……すっきりしたぁ」




心なしか長老はやりきった顔をして、おでこの汗を拭っている。そんな長老の姿をタカシが呆れながら見ていた。




「あんた……血も涙もないな」




「フォッ、フォッ、フォッ。まぁ長老だからね。それにこのままだとラウンド5編で何章も使う事になるよ?読者飽きちゃうよこれ」




「わかった。もう何もいうな長老。アリシアさん、行きましょう?」




アリシアは目の前の光景にポカンッとしていた。「アリシアさんッ?」とタカシがアリシアの肩をたたき、アリシアはハッと我に返る。




「えっ……あ、はい。あの、長老?これ大丈夫なんですか?」




アリシアの表情は少し不安げだ。長老はひげを撫でながら笑う。




「うむ。これギャグだしのぉ……死ぬことはあるまい。ほれ間抜けそうにカエルの様な


ポーズで気絶してるわい」




「あんたゲームマスターだからってやりたい放題だな。まぁもう突っ込まないけどとりあえず先急ぎません?」




「うむ。では……ムッ!?」




「どうしましたッ!?お客様ッ!」




 長老の魔法の衝撃音に驚いて、ラウンド5の店員エルフが何人か駆けつけてきた。




「これはッ!?ゴールド館員の五人が……はやく救出をッ!!お客様達もはやくお外へッ!」




謎の火災だと思われている様で難を逃れた様だ。




「長老。我々がやったとばれるのは時間の問題じゃないですか。はやくでましょう」




「うむ。先を急ごう」




「……はい。行きましょう」




 アリシアは不信感抱きまくりの様で、相変わらず複雑そうな罪悪感を抱えたような顔をしている。




「やばいんじゃね?長老めっちゃ不信感やばいんじゃね?実の孫から疑われてますよ」




「フォッ、フォッ、フォッ。その時は……ね」




と腕にもった杖をスッと構える。




「いやいや孫だから。やめろマジで。サイコパスしかいない世界になるからほんと」




「冗談じゃよ」




とひげを摩りながら、杖で地面を叩いたと思うとその衝撃で後ろで大人しくしていたベヒ美の背中に飛び乗る。




「あ、そういえばすっかり忘れてた」




 先程真・砲天撃ほうてんげきを放った後にそのままピン目掛けて壁に衝突した後そのまま気絶していたのだ。エルフの森五人衆のインパクトが強すぎてすっかり忘れていた。




「ガァァァァァァァァァァアァァァッァァァ!!」




 長老が横っ腹の上に着地して目が覚めたようでいつも通り咆哮ほうこうをあげる。




「なんですかあれはッ!?モンスター?なんでこんなところにッ」




ベヒ美の咆哮にラウンド5の店員エルフ達が気がついた。




「マズい。ベヒモスなんて里に出た事ないんだろ。早く脱出しましょう。はやくッ」




「は、はい」




アリシアの手を引き、ベヒ美の上に乗せる。




「ベヒ美ッ!」




「ガァァァァァァァァァァアァァァッァッ!!」




 咆哮と共に壁を突き破り、タカシ達はラウンド5を脱出する。




「こらぁッ!!まてぇッ!!」




 店員エルフ達は腰から小型の杖を腰から抜き、即座に魔法陣を展開し、迎撃してくる。


ベヒ美の背にまたがるタカシの頬を火球が掠める。ジッと焼ける音が鳴る。




「ッ!……っぶね!?」




どうにか魔法の迎撃を掻い潜ったタカシ達は、森の出口を目指す。




「なんていうか……あっさりしてたな」




「フォッ、フォッ、フォッ。うむ、さてはてもう出口かの。ワシはここまでじゃな。また会うこともあるじゃろ。精々精進せい。タカシ・ボルフシュテンよ」




と長老は言い残し、後方に笑いながら飛びのいていった。




「え、ちょ、長老!?」




アリシアが驚き、叫ぶがそれはベヒ美の速度が生む風にかき消される。




(まぁなんだかんだ癖のある長老ではあったが、嫌いじゃなかったな。あの濃いキャラクターの長老を俺はわすれはしないだろう。むッ……あれは!?)




 ベヒ美が駆ける先に魔法陣が展開されていた。恐らくあれが出口だろう。先を見るに大樹の海が広がっている事からもこの魔法陣が転送装置役割をはたしているのだろう。




「さぁッ!行くぞッ!新たなる門出だッ!」




「は、はいッ!」




「ガァァァァァァァァァァアァァァッ!」


 魔法陣をベヒ美が踏み抜くと、煌々と紅い光がタカシ達を包む。彼らの眼前が一瞬にして白で塗りつぶされ、やがて魔法陣は激しい光を放出したのち、静かに消えた。ラウンド5の店員達が後を追い来た頃には魔法陣があった場所にはには何も残ってはいなかった。


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