第1話
鈍痛。酷く眩暈がする。
「いてて……ここわぁッ!?」
思わず疑問を大声で吐露しつつ、飛び起きる。辺りを見回す。そこはたかし自身も知らない部屋であった。
ただ自身が生活してきた部屋ではなく、全面木製の部屋。自身が今座っている場所には藁が敷いてあった。頭上の少し上に窓がある。窓といっても鎧戸が開いていて、たかしが知っているような現代日本に見られるガラス窓は見当たらない。。
寝床の横には、小さな棚が置いてあり、そこには水の入った木製のコップと乾いた固そうな丸いパンが置いてあった。
ただ流石に誰が作ったかもわからないものを口に入れる気にはどうしてもならなかった。とりあえず外に出てみようとその場に立ち上がる。
「よっこいしょっと」
とりあえず屋内に鏡がないか、探す。残念ながら見つからない。とりあえず屋内を見渡す。見る限りリビングと、たかしが寝ていた寝室の二つ、日本でいう1LDKというやつだろうか。最も日本のアパートの一室の様なそんな立派なものではないが。
とりあえず寝室からでたたかしはリビングだと思われる部屋を通り、扉を開き、外に出る。
たかしの目の前に広がったのは、とても大きな樹木群であった。
「すげぇ……」
思わず声を出さずにはいられないそんな圧巻の光景であった。日本では高層ビルに匹敵するような壮大な大きさの樹木が立ち並んでいる。それが幾重にも連なり、無限に続いているような錯覚するら覚えるほど樹海の先は長く、果てが見えない。
「ありきたりな展開だが、ほんとに異世界にきたのかぁ……」
もし自身を主人公にした小説がでるとしたら「異世界テクノブレイカー」とか「テクノブレイクした俺が異世界に転生した件について」とかになるのかな、などとどうでもいい妄想を浮かべるたかしであった。
「あ、起きました?」
突如背後から声がかかる。驚いて咄嗟に振り向くとそこには水のはいった桶を持った少女が立っていた。
髪はセミロング程の長さで金色。耳は長く、ぴこぴこと動いている。身長は160センチ程だろう。エルフという種族だろうか。緑色のワンピースの様な服装をしているが、ワンピースの様な薄手のものではなく、生地はしっかりとしたものを着ていた。
少女はたかしを下から上までまじまじと見つめていた。
「おぉ、思ったよりおっきい方ですね」
「え、あ、えっと……」
ここで普段人と話さないたかしのコミュ障が発現した。
目の前の同年代くらいの女の子と話すのはたかしには難易度はかなり高い位置づけにある。メルシィは実年齢は定かではないにしろ、幼女の様な見た目をしていたので、平気であったが、目の前の女の子はそうではない。
目の前の少女は素朴な感じで、守ってあげたくなるような儚げな可愛さがある、と自身の中で女の子の可愛さについて熱弁を繰り広げていると、何も言葉を発しないたかしを心配して女の子が濡らした布巾を手渡してくれた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ヘッ!?へへッ大丈夫でしゅッ!」
噛みまくってまともに返答が出来ない、どころか目もまともに合わせられない。
かといってたかしは別に引きこもりだったわけではない。学校にもちゃんと毎日通っていた。ただ友達はいなかったので、一人で静かに過ごしていた。その弊害で同年代の他者としゃべるという経験がなかったというだけなのだ。
ただたかしも男の子である。故に色恋沙汰にはとても興味があった。そんな時幸か不幸か、ネット上で目にしたのがエロゲだったのである。
エロゲとは「アダルトゲーム」の略称であり、性的表現を含む恋愛シミュレーションゲームで、主にコンピュータでプレイ可能なゲームである。主にビジュアルノベル形式のものが圧倒的多数を占める。
たかしは何を勘違いしたのかエロゲをやればもしかしたら女の子と話すきっかけを作れるのではないかと様々なジャンルのエロゲをプレイした。時には涙し、時には画面の目の前の子と楽しく微笑みあい、時には体を重ねた。
しかし現実とは過酷なものである。エロゲをやったところで、たかしが実際に現実の女の子と話せたかというと答えは無論否である。そもそも友達すらいないのに女の子と話を交わすことなど出来るはずがないという根本的な事にすら当時のたかしは気づくことができなかった。
そんな現実に打ちひしがれて、逃げるかのようにたかしはエロゲの世界へと、どっぷりとつかっていった。そして悲劇が起こる。
たかしが晩年、最後にプレイしたアダルトゲーム「ドキドキッ!義妹と幼馴染とラブラブラブデイズ!」に出てくる義妹キャラ柊碧ひいらぎあおいちゃんにドはまりしてしまったのである。
銀髪碧眼。普段は大人しめなクールな性格なのに、主人公にはべったりな姿にたかしはやられた。
おまけに小柄なのに巨乳の持ち主であり、世間一般でいうトランジスターグラマーである。
たかしの好みにドンピシャであったのは言うまでもない。大人しくて従順。時折見せる色っぽさに初めてプレイした時からたかしは碧ちゃんに夢中である。
しかしその一途さが今回の悲劇を生んだ。
たかしいわく『テクノ転生事件』である。碧ちゃんに対する愛が故に起こってしまった悲劇である。
両親にはもはや弁解する余地もない。
自身の葬式でのクラスメイト達の囁きの声を想像しただけで吐き気がする。
しかし後悔はない。碧ちゃんへの思いを貫けたことは事実。命を賭してまで愛した女性をタカシは一生涯忘れないであろう。
故に碧ちゃん一筋のたかしに、他の女性の色香など通用するはずがないのだ。
長い言い訳を自身の中で語り聞かせつつ、冷静さを取り戻し、目の前の女性との会話に戻るタカシであった。
「あ、ほんと寝床貸してもらってありがとうございました」
「いえいえ、私のおうちの横に倒れていたからびっくりしました」
「あ、そうだったんですね。はは、お腹すいてたのかな……ハハハッ」
「あ、そういえば横に置いていたパン食べてくれました?」
そういえば横に置いてあったあの硬そうなパン。この子が作って置いていてくれたみたいである。初めて母親以外の異性にされる気遣いに感動を覚える。
「……いいな」
「えっ……何がですか?」
「あ、いや、ハハハッ……なんでもないです。すみません」
「はぁ……とりあえず中に入りましょう。外で立ち話もなんですし、ここではあなたの恰好は少し目立ちますから」
「はい。少し自分も色々聞きたいことがあるので助かります」
こうしてたかしはこの金髪エルフ耳少女の家に招かれ、話を聞くことになったのであった。
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