メルヘン力
この高校、メルヘン高校には昔からメルヘン
メルヘン力とは、メルヘンチックな者の強さを表す指標のことだ。
メルヘン力の強いものほどこの高校を牛耳ることができるということだ。
しかし、メルヘン高校史上一度もこの学校をまとめ上げた者はいない。
この高校では日々メルヘン力を磨きトップを目指さんとするものが溢れかえっているのだ。
そんな譲り譲らぬ拮抗したパワーバランスは21xx年入学式当日に崩されることとなった。
「「メルヘン力」」
俺の名前は
俺の野望は一つ、この高校の番長になり前人未到のメルヘン高校のトップに立つことだ。
そう意気込んでいた入学式前夜だったが、当日俺は寝坊してしまい食パンをくわえながら家を飛び出すこととなった。
御伽(いっけね、入学式から遅刻なんて…)
なんてことを考えながら曲がり角を曲がろうとしたところ何かにぶつかってしまった。
ドーン☆
御伽「いてて、ちょっと気を付け…」
目の前にいたのは自分より少し背の高い男であった。
???「おっと悪いね。食パンが地面に落ちてしまった。代わりと言ってはなんだがこのフランスパンをどうぞ。」
その男はそう言いすぐに立ち去ってしまった。
御伽(おいおい俺の身長185cmだぞ…それに今の制服は俺と同じメルヘン高校の制服…そして紙袋からスマートに取り出されたフランスパン…こいつは思ったよりおもしろくなってきたぜ!)
などと考えていると先ほどの男が落としていったものだろうか?ハンカチが落ちていた。
御伽(なんだこれは?さっきの男のものか?)
御伽「!?」
それはマイメロンのキャラクターもののハンカチであった。
御伽(マイメロのハンカチ…そしてふわりとさりげなく香るみずみずしいピーチの香り…なるほど新入生を潰しにきてるってことか!おもしれえやってやるよ!)
俺はピンクにデコレーションしまくった携帯電話を取り出し電話を掛けた。
御伽「メルヘン通りに…頼む…ああすぐにだ」
御伽が電話を掛けている間、何者かが御伽の動向を観察していた。
???「もしもし、私です。プリン・ス・プリンです。御伽ですがフランシスコ・パンミュエルとの接触後誰かと連絡を取っているようです。はい、わかっています。何かあればすぐに連絡します。メルヘンイズノットデッド!」
プリンス(まったく今年の新入生は粒ぞろいですね。うかうかしてるとメルヘン高校をまとめ上げてしまうかもしれませんね…私もどこかそういった方が来るのを期待しているのかもしれませんが…)
などとプリンスが考えていると御伽の側にカボチャの馬車が現れた。
プリンス「!?」(まさか入学式早々そんな派手に行くつもりですか!?それはこの高校に宣戦布告するようなもの…まったく若さっていうのはいいですねぇ。それともただバカなだけか…どちらにせよしばらく退屈せずに済みそうだよ。マドモアゼル…)
プリンスは肩に乗せていた人形を撫でながら笑みを浮かべていた。
そして近くに停めていた白馬に跨りながら携帯電話である男に電話を掛けた。
プリンス「もしもし、レッドヘッド。もうすぐ御伽が学校に到着します。あとは手筈通りに。私もすぐに戻ります。はい、メルヘンイズノットデッド!」
プリンスはそういうと白馬を走らせた。
ーーーメルヘン高校ある一室
レッドヘッド「もうすぐ新入生が学校に着くようだね。どうか簡単に壊れないでくれよ。大切なおもちゃなんだから。」
パンミュエル(レッドヘッド、かなり高ぶってらっしゃる。これは久しぶりに見られるかもな、赤ずきんを脱ぐ姿が!)
レッドヘッド「ねえ、パンミュエル。あれを用意しておいてよ。血が騒ぐんだ。」
パンミュエル「!?あれをですか!あれを使うと二度と目覚めない可能性だってあるんですよ!わかっているんですか!?」
レッドヘッド「わかっているよ。でもそこで死ぬようなら僕のメルヘン力はそこまでだったということ…それに、それはそれで面白いだろ?メルヘン高校に爪痕を残したいのさ。僕は今年三年生だからもう時間がないんだよ。イソップ、アンデルセン、そして我がグリム。必ずグリムがこの高校のトップに立つ。」
パンミュエル(ここまでのお方であってもこのメルヘン高校を一つにまとめ上げることができないなんて…ただフランスパンを紙袋に入れて常に持ち歩いているだけの自分がすごく恥ずかしく思えてくる…しかし)
パンミュエル「わかりました…すぐに準備します。どうかご無事で…」
パンミュエルはそういうと部屋から立ち去った。
レッドヘッドは窓から見える校庭をぼーっと見つめながらつぶやいた。
レッドヘッド「あぁ、もうすぐだ。もうすぐメルヘンの世界に行けるような気がする。死ぬことは怖くない。自分のメルヘン力がなくなる方がよっぽど恐ろしいのさ…」
ドドドドド
レッドヘッド「校門の方が騒がしくなってきたね。じゃあ行くとしよう。夢の
レッドヘッドは睡眠薬を飲み干しその場に倒れこんだ。
しばらくしてパンミュエルが戻ってきた。
パンミュエル「レッドヘッド!準備ができました!すぐにでも…!?」
パンミュエル(もうドリームワールドに行ってしまわれている…どうしてこの人はそんなに生き急いで…必ず勝ちましょうレッドヘッド。メルヘンイズノットデッド!!)
パンミュエルはハーイキティのハンカチで自分の目からこぼれた雫を拭った。
甘酸っぱいいちごの香りを醸しながら…
ーーー校門にて
???「おい、お前新入生だろ!入学式早々こんなメルヘンな馬車に乗ってくるなんて自殺行為ってことがわからねえのか?それにそんなきれいなお召し物を身に着けやがって。」
???「やめなよ兄さん。まだこの学校の恐ろしさを知らないんだからさ。まったく無知ほど怖いものはないね。」
モブ「なんだなんだ?アリとキリギリス兄弟が新入生ともめてるぞ!」
御伽「なんだお前らは?これは俺がいつも移動手段で使用している馬車だ。文句があるなら自分のメルヘン力のなさを恨めよ。」
アリ兄「言わせておけば!お前には今朝摘んできたばかりのダージリンをたっぷりと吸わせてやるよ。」
キリギリス弟「くくく、兄さんも人が悪い。あのダージリンの香りを嗅いで正気を保っていられる奴はいない。」
アリ兄は懐からダージリンを取り出そうとした。
御伽「どうでもいいけどよ。お前ら虫だろ?メルヘンと逆行ってんな。足いっぱい生えてて気持ち悪いぞ。」
モブ「あいつ!このメルヘン高校でキモいは禁句だぞ!」
アリ兄「気持ち悪い?この俺たちが?」
アリ兄とキリギリス弟は自分たちに向けられた言葉を受け止めきれずにいた。
キリギリス弟「きいいいいやああああああ!!」
キリギリス弟は耐えきれず発狂して気絶してしまった。
アリ兄「弟よ。発狂してしまうとはなさけない。メルヘンのかけらも感じられんな。くそ俺たちの負けか…おい、一年お前の名前は?」
御伽「俺は御伽童心だ。」
御伽は自らの名前だけを告げワスレナグサをアリ兄に渡した。
アリ兄(これはワスレナグサ…花言葉は私を忘れないで…か。とんでもないやつが出てきたな。俺ももう潮時かな…)
アリ兄はレベルの違いを目の当たりにし、メルヘン生活に終わりを告げることを決意した。
それほど御伽のメルヘン力が圧倒的過ぎたのだ。
モブ「す、すげぇ、アリとキリギリス兄弟を一瞬でのしてしまいやがった。」
???「お見事!御伽君。さすがと言ったところか。」
パチパチと拍手をしながら見覚えのある顔が近づいてきた。
御伽「お前は…」
モブ「このフランスパンの焼けた香り…グリム三銃士の一人フランシスコ・パンミュエルさんだ!」
パンミュエル「また、会ったね。君に会わせたい人がいるんだ。付いてきてくれるね?」
御伽「断ると言ったら?」
パンミュエル「これを見てもその態度でいられるかな?」
パンミュエルは内ポケットからポービリアを一本ちらりと見せつけた。
御伽(あ、あれは小さい頃よく分からず食べていたもちもちしたパン…この男フランスパンだけではないってことか。)
御伽「ふん、いいだろう。退屈させてくれるなよ」
パンミュエル「聞き分けの良い子だね。付いてきて。」
パンミュエルは御伽を校舎の中に連れ出していった。
モブ「おいおい、やばいことになってきたぞ。グリムが本気で新入生を潰すつもりだぜ」
マーガレットの花が風に揺れていた。
時に美しすぎるということは残酷にもなり得るということをまだ若者たちは知らない。だからこそ美しい。純粋であればあるほど…
ーーー校舎内にて
パンミュエルはレッドヘッドの待つ部屋に御伽を連れ出す途中である異変に気付く。
パンミュエル(…おかしい。校庭に咲いているバラが青く変色している。)
メルヘン高校の特殊なバラは人のメルヘン力を感知しその強さによって色を変える。
パンミュエル(こんな色のバラは見たことがない…一体この男は…)
パンミュエルは御伽の底知れぬメルヘン力に恐怖すら感じていた。
パンミュエル(しかし、レッドヘッドが負けるはずがない。負けるはずがないのだ!)
御伽「おい、まだ着かないのか?」
パンミュエル「心配するな。もう着く。ほらそこの部屋だ。扉を開けろ。」
ガラガラ☆
扉を開けると植物が敷き詰められた棺に男が一人、祈りのポーズで眠りについているようだった。
そして王子様が一人。
プリンス「おお、なんてことだ。姫よ。なぜ自らの命を…」
プリンス(パンミュエル。なぜレッドヘッドを止めなかった!これは諸刃の必殺技なんだぞ。もし目覚めなければどうする!)
校門で御伽がアリとキリギリス兄弟と対峙している間にプリンスは戻ってきて、状況を聞かされすぐにこの必殺技の準備をしていたが納得できてはいなかった。
プリンス(レッドヘッドもなぜこんな新入生にここまで…そこまでする相手には見えません…しかし、もうやるしかない。やるからには完膚なきまでに!)
プリンスは目の前の敵を全力で潰すことを決めた。
プリンス「私のキスでどうか、目を覚ましておくれ」
プリンスはレッドヘッドに口づけをした。
パンミュエル(頼む…目覚めてくれ!)
レッドヘッドは体をビクッとさせゆっくりと目を開けた。
プリンス(よし成功だ!このメルヘンチックなシチュエーションを見せつけられて平気でいられるわけが…)
御伽「なあ、お前その敷き詰めてある植物に肌が負けてめちゃくちゃ荒れてんぞ」
御伽はそう言いレッドヘッドの肌にメンソレートゥムクリームを塗りだした。
パンミュエル(なっ、いつの間にレッドヘッドの側に。速すぎて見えなかった。何度も頭の中であらゆる場面を想定、リハーサルをして体に染み込ませているというのか…天性の才能を持ったものが努力を怠らないとは、他の追随を許さないわけだ。)
プリンス「き、貴様レッドヘッドに何を!」
レッドヘッド「プリンス!取り乱さないでよ。王子様は如何なる時もスマートでないと。御伽君まったく君はすごいね。心を簡単に持っていかれそうになったよ。夢から覚めたはずなのにまだ夢心地だ。」
御伽「お前も自分の肌が弱いことを知っていて植物を敷き詰めるなんてな。美しくあろうとする姿が最も美しいことを知っているな。」
レッドヘッド「やめてよ。僕はすっぴんや簡単なメイクで済ませて私まだ全力出してないけどこのかわいさですが何か?って言うような女子が苦手なだけだよ。まるでフリーザが私はまだあと2回変身を残していますって言ってるようなもんだからね。僕はただ君を倒したい。そう思っただけだよ。でもだめだった。もうこれしかないみたいだ」
レッドヘッドは赤ずきんからリンゴを2つ取り出した。
プリンス(レッドヘッドが赤ずきんを外した!一年ぶりにあれをやるつもりか!しかし危険すぎる!あの技は!シュレディンガーのリンゴは!)
御伽「これは、なんのマネだ?」
レッドヘッド「この二つのリンゴ、一つは普通のリンゴだけど、もう一つは10分で人を死に至らせる猛毒のリンゴさ。アダムとイブの時代からリンゴは禁断の果実とされてきた。でも僕たちはどうして、禁じられたことやものに手を出したくなってしまう。愚かだけどそのおかげで進化してこれた。それは醜いことではないと僕は思うんだ。」
御伽「それをお互い口にするわけか。いいぜ、お前はこのメルヘン高校最強の男と見た。お前を倒して俺はこの高校をまとめて見せる。」
レッドヘッドは口元を抑えてくすくすと笑っている。
レッドヘッド「ふふふ、勘違いしないでよ。このリンゴを口にするのは僕だけだ。この50%の確率を掴み取ることができれば君に勝てる。そう思っただけだよ」
パンミュエル(そう、レッドヘッドは常に自分を不利な状況に落とし込む。その不利な状況からのスマートさこそが彼の真骨頂。)
レッドヘッド「じゃあ行くよ。僕はこの右手のリンゴを食べる。」
レッドヘッドはゆっくりと右手のリンゴを口元に近づけた。
シャクッ
プリンス(頼む…死なないでください)
レッドヘッドはシャリシャリとリンゴを味わっているようだった。
パンミュエル(一体どっちなんだ…)
その場の空間だけ時間がゆっくりと流れているようなそんな錯覚すら感じさせていた。
御伽(初めてだ。自分が敵わないかもしれないと感じる相手は…)
御伽も初めての強敵を相手に嫌な汗をかいていた。
御伽(これが脇汗か…初めてかくぜ…)
レッドヘッドは口の中のリンゴをゆっくりと咀嚼し飲み込んだ後すぐに異変を訴えだした。
レッドヘッド「ぐ、ぐああ…」
プリンス(いかん!失敗だ。このままではまずい。すぐに解毒剤を!)
慌てるプリンスを静止するようにレッドヘッドは言う。
レッドヘッド「プリンス、僕は大丈夫、それより少しトイレに行かせてくれ」
プリンス「しかし、このままでは!」
パンミュエル「プリンス!最後の頼みなんだ。聞いてやってくれ!」
パンミュエルが声を荒げる。
プリンス「貴様!レッドヘッドが死んでしまうんだぞ!よくもそんな…」
プリンスは頭に血が上り周りが見えなくなっていた。
しかしパンミュエルの目からボロボロと大粒の涙が零れ落ちていたことに気付き冷静さを取り戻す。
プリンス「パンミュエル…」
プリンスはパンミュエルが一番レッドヘッドのことを慕っていたことを知っていた。
プリンス(一番辛いのはお前の方だろ…くそっ)
プリンス「御伽!覚えていろ。必ずお前は潰してやる」
御伽「おぉ、待ってるよ。そこの赤ずきんのやつもな!」
御伽はそう言ってレッドヘッドのポケットに何かを入れた。
プリンスはレッドヘッドを連れて部屋を出た。
部屋から出たあと廊下でレッドヘッドは御伽からもらったものを取り出し確認した。
レッドヘッド「まったく、彼には敵わないなぁ…」
彼の手には赤玉薬とワスレナグサ。
プリンス「これは…」
プリンスはすべてを理解した。
レッドヘッドは死なない。
プリンス「私を忘れないで…か」
校庭のバラが青く染まるとき新しいメルヘンの時代が来る。
まるでこの青く晴れ渡った空と同じ色をしているようで。
―完―
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