028 王と姉妹の情報収集。そして出会い。
※ かなり間が開いてしまいました。すいません。
更新。再開します。
というわけで俺とリゼットとハルカは人間の町へ、取引に行くことにした。
魔力結晶が溜まってきたからだ。
結界のおかげで、魔物を楽に狩れるようになったからな。
結界は、魔物にとっては『見えない壁』だ。
だから狩りをする場合、こっちは魔物を外から、『結界』に向かって追い詰めればいい。
あとは壁を背にして動けなくなった魔物を包囲して叩くか、結界の内側からさくっ、と切りつければいい。
チートだけど、どんどん出現する魔物相手は、そうでもしないとやっていけない。
それに、ハーピーが空から見回りしてくれるおかげで、魔物の位置もわかるようになった。
村のみんなは「サクサク狩れます!」って喜んでた。
出かける俺たちを、村人総出で見送ってくれたくらいだ。
そんなわけで俺たちはハーピーの案内で、人間の町へとやってきていた。
辺境に近い中では一番大きな町で『キトル
……三国志だとその太守にあたるのかは、今のところ不明だけどな。
「魔物をたくさん狩れたおかげで、魔力結晶もたまりましたからね」
「これをお金に換えて、兄上さまに美味しいものを食べさせてあげないと!」
「「おー」」
リゼットとハルカも気合い十分だ。
「太守さん本人は、もっと南側のお城に住んでるそうですけど」
「心配性らしいよ。この程度の城壁じゃ安心して住めないんだって」
「ここも十分、防御力があると思うけどな」
町は高い城壁に囲まれてる。
ここからでも、城壁の上に弓矢を手にした兵士が並んでるのがわかる。
この町にも竜帝時代の魔法陣はあるかもしれないけど、使わせてもらうのは無理そうだな。
「ショーマ兄さま、疲れてませんか?」
不意に、リゼットが俺の顔をのぞきこんだ。
「リゼットたちは兄さまにしがみついてただけですけど、兄さまはずっと飛んでらっしゃいましたから」
「大丈夫。別に疲れてないよ。魔力も十分残ってる」
異世界人の俺がここまで歩くのは面倒だからな。
途中まで『
町に近づいたら地上に降りて、あとはてくてく歩いてきた。
「でも、リズ姉はずるいと思うよ」
気づくと、ハルカが腰に手を当てて、じーっとリゼットをにらんでた。
「ボクだって兄上さまに抱きつきたいのに。いつもボクは兄上さまの脚にしがみついてるだけなんだもん」
「公正なくじ引きで決まったのですから仕方ないでしょう?」
「本当に公正なのかなぁ?」
「このリゼット=リュージュ、天下国家に関わることでは不正などはしません!」
「兄上さまに関わることでは?」
「……このリゼット=リュージュ、天下国家に関わることでは不正などはしません」
おいこら。
なんで視線を逸らしてるんだよ。リゼット。
「で、ですが、帰りはハルカが抱きつくのがいいでしょう。公平に」
「だよねー。公平にだよねー」
ハルカはにやにや笑ってるし。
ちなみにハーピーたちは、帰りの時間になったら案内役をしてもらうことになってる。
それまでは別の調査を依頼済みだ。
「さてと、ここからは人間の領域か」
俺も人間のはずなんだけど、何故か、亜人の町よりも緊張する。
覚醒しない限り、俺の見た目は人間だから、大丈夫だと思うんだが。
リゼットは髪にバンダナを巻いて、ハルカは頭に帽子をかぶってる。角を隠すためだ。
町の門は東西南北にあるけれど、俺たちはぐるっと
「門は日暮れ前に閉じ、夜明けと共に開く。その間は町に入れないから、注意するように」
西側の門番さんはそう言って、俺たちを普通に通してくれた。
「……ここがこの世界の、人間の町か」
門をくぐると、すぐに町の大通りに入る。
このあたりが一番人通りが多いらしくて、左右には露店が並んでる。
人の数は多いけど、活気はあまりない。
町の人たちは荷馬車を指さして、話をしてる。あっちには、『キトル太守』のお城があるそうだ。太守には3人の姫君がいるけど、仲が悪くて心配だ、とか。乱世だからな。お家騒動くらいは普通にあるか
「これからどうするんだ?」
「まずは『魔力結晶』をお金に換えましょう」
「そうだね。それから買い物かな」
道ばたで立ち止まって、俺はリゼットとハルカと話し合う。
「わかった。はい、これ」
俺は『王の
袋の中には魔力結晶が入ってる。
『王の器』に入っているものは、俺にしか取り出せない。貴重品を入れとくにはちょうどいい。
「ありがとうございます。では、リゼットはこれを換金してきますね。兄さまはどうされますか?」
「俺はこの辺で
「わかりました。ではハルカ、護衛を」
「承知だよ。リズ姉」
ハルカはそう言って、長剣の鞘をかちん、と鳴らした。
「それでは、合流は正午に。場所はここで」
「わかった。リゼットも気をつけて」
俺とハルカはリゼットと別れて、歩き出した。
「兄上さまは山賊たちの砦に魔法陣があるかも、って思ってるんだよね?」
ハルカが俺の顔を見て、言った。
「ああ。魔法陣は竜帝時代の城や町にあるって話だからな。砦が同時代のものなら、魔法陣が残ってる可能性はあると思う」
「だけど、いきなり攻め込むわけにもいかないもんね」
「敵の兵力がわからないからな。いきなり砦に兵士が100人、とかいたら……」
……いや、『
それも無理があるか。敵に俺みたいな召喚者がいないとも限らないし。
それに、人外の力を使って人間を倒してしまうと、今度は『亜人』VS『人間』って構図になる可能性がある。種族間戦争になるのはごめんだ。
「対処にするにも、ざっくりした情報が欲しいな。砦にいる人数だけでもわかれば楽になる」
「じゃあ、
「傭兵ギルド?」
「正確には、王さまや太守さまが兵士を集めるところだよ。魔物や『黄巾の魔道士リッカク』なんかが暴れ回ったりしてるときは、通常の兵士だけでは戦力が足りないことがあるから、一時的に他の人を雇ってるんだ」
「いわゆる『冒険者ギルド』みたいなところか」
「それは……ちょっとわからないけど、でも『どこどこの敵と戦う』って情報はくれるから、もしかしたら山賊の戦力もわかるかもしれないよ」
なるほど。
情報収集にはうってつけだな。
「わかった。いってみよう。案内を頼むよ」
「おまかせだよ。兄上さま」
そう言ってハルカは俺の手を握った。
「はぐれないように、だよ。兄上さま」
不思議そうな顔をしている俺を見て、ハルカは笑う。
「兄上さまがこの町に来るのははじめてだから、念のため」
「いや、はぐれるほど人通り多くないんだが」
「でもこの世界では、
「……そうなの?」
「義妹を疑うのはよくないなぁ。兄上さま」
だってハルカ、にやにや笑いしてるし。
「か、帰ったら兄上さまには、義兄妹のルールを、もっと教えてあげないとね」
でも、ハルカも照れてるみたいだ。
しょうがないので俺たちは、義兄妹で手をつないで、また歩き始めた。
ハルカの言う『傭兵ギルド』はすぐに見つかった。大通りに面していて、まわりに剣や盾を持った人が集まってるから、目立っている。
「なんだお前ら、義勇兵希望か?」
入り口に立っていた兵士のひとりが、俺とハルカを見た。
他の兵士とは違い、
「自分は『キトル太守』さまの直属の兵だが……ふむ。ふたりとも、兵士としては細すぎるな。が、
兵士は薄笑いを浮かべて、言った。
……冗談じゃねぇ。
足が遅くていつも人手が足りないって……それは敵に襲われやすいってことだろうが。
「そうですね……」
でも、俺は少し考えるふりをした。
ちょうどいい。元の世界では社会人やってた身だ。
現実処理能力を活かして情報を引き出してみよう。
「義勇兵を募集してるということは、近々どこかと戦う予定が?」
「……山賊の話は聞いているだろう? 『黄巾の魔道士』とやらの仲間の」
「……『黄巾の魔道士』?」
「知らないのか。邪悪な魔法を使う奴らだよ。その教えを奉じた山賊が、最近、暴れ回ってるんだ」
なるほど。
やっぱり山賊連中は『黄巾の魔道士』の仲間で間違いなさそうだ。
「治安を守る戦いの一端に関われるのとしたら、名誉なことだと思ってはいますが」
「ああ、あの虫使いの山賊どもで、戦闘意欲があるのは上の人間だけだからな。他は寄せ集めの農民兵だ。訓練を受けた兵たちが立ち向かえば、ひとたまりもないだろうよ」
「ですが、奴らは砦にこもっていると聞きますが?」
「関係ない。偉大なる『キトル太守』さまの兵たちが立ち向かうのだ。どのような規模の砦だろうと、あっという間に落とせるだろうよ。もっとも……」
兵士は唇をゆがめて、皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「最後に成果を上げるのは、我らのように代々、太守さまにお仕えしてきた兵だけだがな。義勇兵と
「そーですねー」
「すごいよねー」
俺とハルカは、棒読み口調でうなずいた。
わかりやすいな。
そのほか、話していてわかるのは、もうすぐ『キトル太守』の軍が教団を攻めるということ。
これだけおおっぴらに立て札を立ててるってことは、教団にもその情報は流れてるかもしれないな。
でもって、この兵士さんが、砦の情報を正確につかんでいるかは不明だ。
ハーピーの話によると、教団の砦は岩山の上にあって、サイズはかなり小さい。
せいぜい十数人が入れる程度らしい。ただし、山の上にあるから攻めにくい。さらに砦までは一本道で、そこに兵を配置して防御に回ったら、かなり厳しい、ってことだった。
ハーピーたちには今も偵察をお願いしてるから、もうちょっと詳しい情報もわかるだろう。
「で、どうする?」
「はい?」
「義勇兵の話だ」
ああ、そういう話だったっけ。
「義勇兵の数が少ない。運が良ければ、軍を預かるレーネス姫さまか、シルヴィア姫さまの目に
「……ごはん、もらえるのですか?」
その返事に、兵士がきょとん、とした顔になる。
もちろん、そう言ったのは俺じゃない。ハルカでもない。
俺たちの背後に立つ、小さな──小学生くらいの少女だった。
「……あ、あたしの能力を認めていただけるのなら……あと、ごはんをもらえるのなら、力をカスのにやぶさかではないです。あたしが真の主を見つけるまでの、繋ぎとして」
少女は水色の髪を揺らして、告げた。
小柄な少女だった。見た感じ、小学校高学年くらいだ。
着ているのは、ぼろぼろのローブ。手には短剣を持っている。
手も足も土まみれで、なんだかすごく疲れてる感じだ。
「……あ、あたしの力なら、い、一軍に匹敵するものがあると思いますけど……どう……かな」
ぱったん。
そう言って、少女は地面に倒れてしまった。
「お、おい。ちょっと!?」
「……おなかへった」
思わず抱き上げると、少女はかすれる声で答えた。
同時に、小さなお腹が、きゅう、と鳴った。
ハラペコみたいだ。
「……傭兵ギルドで、義勇兵の志願者にごはんを出してくれたりは……?」
「いや、うちが募集してるのは歩兵だから」
だよなぁ。
この少女、身体も細いし手足も細い。背も小さい。
どう考えても、歩兵には向いてない。
「ハルカ」
「はい。兄上さま。この子にごはんを食べさせるくらいの持ち合わせはあるよ?」
しょうがない。このまま放っておくのも後味が悪いからな。
それに、背負ってる荷物と、長距離を歩いた様子から見ると、なにか遠くの情報を持ってるかもしれない。
情報収集のついでにごはんをおごるくらい、構わないよな。
「起きて。とりあえず、なにか食べよう」
「ありがとうございます……親切な方」
少女は俺の手を握って、言った。
「こっちの世界に来て……親切にしてもらったのは二度目です。このあたし、ユキノ=クラウディ=ドラゴンチャイルド──受けた恩は忘れません。どうか……お名前を聞かせてください」
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