027 領地拡大計画と、とある種族の勧誘方法
「やっぱり人手が足りないか」
「『ハザマ村』の人口は、100人ちょっとですからね」
「『
「「「……はぁ」」」
村長の屋敷で、俺とリゼット、ハルカはためいきをついた。
結界を張ったことで、『ハザマ村』と『
でもって、『ハザマ村』側の
今は村のまわりが切り開かれて、みんなで畑を作ってる。
魔物もいなくなり、今まで行けなかった森の奥の調査も進んでる。
『ハザマ村』は本当に順調に発展しはじめてるんだ。
問題は『
あっちは村人にとって遠い場所だから、どうしても後回しになってしまう。
かといって、無人のままま放置しておくわけにもいかない。魔物は来ないとしても、境界地帯には他の亜人もいるし、人間だってたまにやってくる。
誰かにあそこを
「……どうしましょう、ショーマ兄さま」
「ボクが命令すれば、向こうに誰か住んでもらうことはできると思うけど」
「村人数人だけを無理に住まわせるわけにもいきませんよね」
「かといって、数十人を送り込んだら、こっちが手薄になっちゃうもんね……」
リゼットとハルカは、困ったように腕組みをした。
「となると……『ハザマ村』以外の亜人に、『竜樹城』に住んでもらうしかないか」
俺は言った。
「住みかを提供する代わりに、あの場所を管理してもらう、ということですか? 兄さま」
「ああ。あの場所には魔物避けの結界が張ってある。安全な場所だから、住みたいって考える亜人もいると思うんだ」
「……なるほどです」
リゼットは感心したようにうなずいた。
俺が考えているのは、亜人との同盟だ。
鬼族を含めて亜人たちは、人間の帝国に辺境へと追いやられた。ここは魔物がはびこる場所で、住みにくいし危険も大きい。だから、亜人のみんなは安全な場所をさがして、それぞれバラバラに住むしかなかった。
けれど、今は俺が張った『結界』がある。
『結界』内は魔物がいない。それに、今まで亜人が住んでいなかった場所でもある。人がいなかったということは開拓されていないということで、食用になる動物や、果物なんかも豊富にあるってことだ。それを狩る亜人も人間も、住んでいなかったんだから。
そういう場所を提供することで、他の亜人と同盟──あるいは協力関係を作ることができるんじゃないか、って思ったんだ。
「この計画なら、お互いにメリットがある。向こうは魔物におびやかされないで生活ができるし、こっちは竜樹城やそのまわりの管理を任せられる。もちつもたれつってことだ。どうだろう?」
もちろん、向こうがこっちを信用してくれなければ、この計画は成立しない。
こっちはいつでも『竜樹城』の結界をオフにして、相手の住処を魔物フリーの状態にできるからね。そのあたりはきっちりと説明して、納得してくれれば、ってことになる。
「名案だと思います」
リゼットは
「民も土地も活かす……まさに、王の発想ですね。ショーマ兄さまと一緒にいると、
「それはたぶん気のせいだ」
「リゼットは全面的に賛成します。ハルカは?」
「いいと思うよ。問題は、どの種族に声をかけるかだね」
ハルカは椅子の背もたれに身体を預けて、腕組みをしてる。
「『ハザマ村』は、あんまり他の種族との付き合いがないんだ。亜人には人間嫌いな種族もいるからね。人間と交易してる鬼族は、ちょっと変わり者、って扱いなんだよ」
「ショーマ兄さまが『
2人の話によると、俺が知ってる以外にも──境界地域には『人魚族』『
……亜人みんなをまとめてたって考えると、改めて『竜帝』のすごさがわかるな。
でも、俺にはそれほどの能力はない。真似しない方がいい。
だから、まずは情報収集からはじめよう。
「とりあえず行動範囲が広くて、色々なことを知ってそうな種族を訪ねてみよう」
俺はリゼットとハルカに言った。
「というわけで、うちの領土に住んでくれそうな種族に心当たりはないかな?」
次の日。
俺とリゼットは、ハーピーの
歩いて行くのは面倒なので、『
案内役として、リゼットについてきてもらった。
ハーピーたちは『ハザマ村』の西、岩山に近い森の中に住んでいた。
基本的に定住しない種族だからか、村の作りも質素だ。
枝を集めて作ったような、簡易的な家──というか巣が、大きな木の上に作られてる。
ちょうど、この前ハザマ村に来たハーピーたちを見かけたから、話を聞いてみたんだけど──
「「むー」」
なんだか、ハーピーたち、ほっぺた
怒らせるようなこと言ったつもりはないんだけど……?
「説明が悪かったか……?
つまりね、俺たちは領土にした『
俺はもう一度、説明した。
「ここに来たのは、ハーピーは行動範囲が広そうだから、いろいろな情報も持ってるんじゃないかな、って思ったからなんだ。お礼はするつもりだけど、どうかな。心当たりがあったら、教えてくれないか?」
「「ひどいです王さま!!」」
怒られた。
「なんで他の種族を紹介しなきゃいけないんですか!?」
「魔物がこない土地なら、ハーピーだって住みたいです!!」
ふたりのハーピーたちは、声をそろえて叫んだ。
……あ、そういうことか。
「でもこの前。『翼があるから、魔物が来たら逃げればいいもん』って言ってなかったか?」
「言いましたけど、やっぱり魔物は恐いんです、王さま!」
「あれは『自分たちは風とともに
「違いますけど! かっこいいので今度使わせてもらうです!!」
「ありがとうございます、王さま」
どういたしまして。
「それはともかく、いいの? 移住すると、形の上では俺が王さまで、リゼットが城主ってことになっちゃうけど」
「あのですね、王さま」「私たち、ずっと王さまを王さまって呼んでるですよ?」
そうだった。
……じゃあいいか。
「でもさ、一応、大人のハーピーの意見も聞いた方がいいんじゃないか?」
「「?」」
俺が言うと、2人は不思議そうに首をかしげた。
「?」
なぜかリゼットも首をかしげてる。
「あの、兄さま。この子たちはもう立派な大人ですよ?」
「え?」
俺は目の前のハーピーたちを見た。
……元の世界の基準だと、せいぜい小学校高学年くらいにしか見えないんけど。
「ハーピーは、あんまりおっきくならないのです」「身体がおっきいと、飛ぶのに重いので」
「だから、私たちはもう大人です」「子どもも生めるですよ?」
「異種族間でもおっけーです」「ハーピーの歴史上、ちゃんと
種族間同士のハーフについてはどうでもいいとして……なるほど。
……どうも俺はまだ、元の世界の思考をひきずってたみたいだ。
確かに、空を飛ぶなら身体が軽い方がいいし、小さい方がいいよな。
「じゃあ、ふたりに決定権があるってことでいいのか? えっと、名前は──」
「ルルイです!「ロロイなのです!」
ふたりのハーピー、ルルイとロロイは声をあげた。
「大人なので、ある程度の判断は任されているです」「でも、長老さまも話も聞いた方がいいかもです」
「「来てください。王さま」」
ふたりはそう言って、俺とリゼットを集落の奥へと案内してくれたのだった。
「お初に、お目にかかりますじゃ。ハーピーの長老、ナナイラと申す」
ハーピーの集落の、最奥。
一番大きな樹の上にある、一番大きな巣の中で、
「年を取ると動くのもおっくうでな。こんな格好で失礼するのじゃ。『異形の
「いえ、こっちは訪ねた身だから、いいです」
あと、できればその名前で呼ぶのはやめてね。
「集落を移ることに異存はないよ」
ハーピーの長老は言った。
話すたびに、長い長い白髪が揺れている。翼は他のハーピーとは比べものにならないくらい大きい。広げると、4から5メートルはありそうだ。それを
「『黄巾の魔道士』どもには、同族が幾度となく
「ありがとう」
「ありがとうございます」
俺とリゼットは頭を下げた。
「リゼットも、ハーピーさんたちが仲間になってくれるのはうれしいです」
「お主をからかえなくなるのはつまらぬがな。
長老ハーピーのナナイラは、子どもの顔で笑ってみせた。
「滝の側で身を清めるお主の近くで水浴びするのは、ハーピーとして楽しい娯楽じゃったがのぅ」
「あれ、わざとやってたんですか!?」
「安心せよ。男性のハーピーは近づけてもおらぬから」
ナナイラは翼で喉を押さえて笑ってる。
すごく楽しそうだ。
もしかして……ハーピーたちってリゼットのこと好きなのか?
リゼットはまじめすぎる性格だから、からかいがいがありそうだから。
「さて、王よ。あなたの配下となるにあたり、頼みを聞いてもらえぬかな?」
「頼み?」
「いずれあなたも人の世界に出て行くであろう。その時……もし、よければじゃが、人を探して欲しいのじゃ」
ハーピーのナナイラは、赤い目で俺の方を見た。
「もちろん。そのために動いてくれとはいわぬ。その者の
「いいよ。それくらいなら」
俺はうなずいた。
「俺もそのうち人間の領土に行くかもしれないからね。それで、探して欲しい人というのは?」
「我の孫じゃ。名前を『プリム』と言う。正式な名前は……我らの伝説にある始祖の鳥の名前を取って──『プリムディア=ベビーフェニックス』と言うが、人の間ではプリムと名乗っておるじゃろう」
「あなたの孫……だったら、すぐに見つかると思うけど」
ナナイラの孫なら、その子もハーピーということになる。
人間の世界にいたら、すごく目立つはずだけど……。
「プリムは人とハーピーの間に生まれた娘なのじゃよ」
ナナイラは、なぜか目を伏せて言った。
「父親の血が濃くでたようでな。彼女は人の姿で生まれたのじゃ。じゃが、心はハーピーのものじゃったようで、好奇心いっぱいじゃった。ハーピーの好奇心と、人間の知恵を持つ少女ゆえに……世界のすべてが知りたいと、人の領域へと旅だったのじゃよ」
「人とハーピーの、ハーフってことか」
「別に戻って来いとはいわぬよ。じゃが、消息くらいは知りたいのじゃ。祖母としてな」
「わかった。引き受けよう」
俺はナナイラにそう答えたけれど、頭の中では、別のことを考えていた。
『プリムディア=ベビーフェニックス』という名前に、引っかかりがあったからだ。
『ベビーフェニックス』は、
俺はこの世界が、元の世界の『三国志』とリンクしていると思っている。
となると『プリムディア=ベビーフェニックス』が『鳳雛』と呼ばれ、『伏竜』と並び称されたあの軍師だという可能性は充分にあるわけで──
──ほっとくと、非業の死を遂げることになるのかもしれない。
「機会があったら……いや、できるだけ早く探し出せるように努力する。それでいいかな」
「感謝する」
ふわり、と、ナナイラが、真っ白な翼を広げた。
「ハーピーの長老として、我が一族があなたの民となることを、ここに約束しよう。この
「……そんなたいした話じゃないんだけどな」
「まー、なんというか。わしらはあなたが気に入ったのじゃよ」
そう言ってナナイラは、片目を閉じてみせた。
「プリムもいずれ、あなたの力となるやもしれん。知識欲
「たぶん。そうだと思ってた」
「プリムがあなたの知恵袋となるのであれば、あなたの王国もより強固なものとなろう」
「……俺は、この乱世をのんびり乗り切れれば、それでいいんだけどな」
この世界の、人間の領域を知る人が味方になってくれるのは助かるんだけど。
リゼットもハルカも、ほとんど辺境で暮らしてる。接触するのは、辺境のすぐ外にいる人たちくらい。中央の情報を知る人間は貴重だ。
どっちにしても、さっさと見つけて保護した方がいいだろうな。
「そういえば、ハーピーたちに聞きたいことがあったんだ」
忘れるところだった。
俺の今の目的は『
魔力の
そうすれば……もしかしたら、すべての亜人たちを味方にできるかもしれない。
「ハーピーは広い範囲を移動するから、地理にも詳しいかと思う。だから聞くんだけど……このあたりに、古い
「古い砦や城…………とな?」
ナナイラは少し考えこむようにしてから──
「うむ。心当たりはいくつかあるのじゃ」
「本当か?」
「辺境と人間の領域の間にある岩山のあたりで、古い砦を見かけたことがある。ただそこは以前、山賊どもが占拠しておった。『黄巾の魔道士リッカク』とも親しい者であったようだが」
「山賊か……」
そりゃいるよな。乱世だもんな。
「それって、不法占拠ってことだよな」
「え? あ、はい。そうですね」
「むりやり配下を集めて、古い
リゼットとナナイラが、同時にうなずいた。
不法占拠で間違いなさそうだ。
「だったら、リゼットとハーピーたちに提案があるんだけど」
俺は言った。
「悪いけどみんなで、調べ物に付き合ってくれないかな?」
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