026 日用品強化と、ハザマ村開拓事業

廃城はいじょう』と『ハザマ村』の竜脈りゅうみゃくを再生して、わかったことがある。


(1)城や村──いわゆる、城壁で囲まれている場所には、魔法陣がある可能性が高い。

(2)竜帝時代の魔法陣は、土地の魔力を利用して、補給なしで動いていた。

(3)土地の魔力を活性化させるには『城主』を指名する必要がある。

(4)王と城主は、土地の魔力を利用することができる。

(5)城が複数になると、魔力のラインで結びつけられる。


 もうひとつ重要な点として、


(6)結界内では『命名属性追加ネーミングブレス』の持続時間が長くなる。


 これは、土地の魔力が影響しているらしい。

 アイテムの『強化』に、俺の魔力だけじゃなく、土地の魔力も使えるようになったようだ。

 とりあえず10本くらい強化して3日経つけど、効果はまだ続いてる

『命名属性追加』の残スロットは6。

 やはり魔法陣のある城を手に入れると増えるらしい。


「兄さまが城を増やすたびに、この大陸は平和で豊かになっていくのです。これぞまさに王道ですね、ショーマ兄さま」


『ハザマ村』を強化して『鬼王城』にした翌日。

 俺とリゼットとハルカは、村長の屋敷に集まって、今後のことを考えていた。


「ぜひ、このことを広めて、みんなが兄さまに城を差し出すように忠告すべきでしょう」

「却下」


 俺はリゼットの意見を斬り捨てた。


「なぜですか、兄さま」

「第一に『竜帝スキル持ち』ってことがバレたら、現在の『捧竜帝ほうりゅうてい』に目をつけられる。第二に『俺が豊かにしてやるから、お前のところの城をよこせ』って言って通じるわけがない。第三に、こっちの戦力が少なすぎる。攻め込まれて、村人を人質に取られて、皆の命が惜しければ従え──って言われたらどうする?」

「…………うぅ」


 リゼットはうつむいた。


「たしかに、兄さまのおっしゃる通りです」

「ボクも、兄上さまをひとりじめできなくなるから嫌だな、そういうのは」


 ハルカは唇に指を当てて、俺を見た。


「それに、兄さまにやっぱり王道より覇道はどうがにあうと思うよ。ここから南西に進んだところに『キトル太守』のお城があるから、そこを攻め取るのがいいんじゃないかな?」

「なんで俺が攻め取る話になってるんだよ」

「だって兄上さまは『異形いぎょう覇王はおう 鬼竜王翔魔きりゅうおうしょうま』さまでしょ?」

「ぐはっ!」


 さわやかな笑顔でクリティカルヒットするのやめてくれ。


「『覇王はおう』ってのは、軍事で領土を広げていく王さまのことだよね? だから兄上さまにはそういう野望があるんじゃないかって、ボクは思ったんだけど……違うの?」


 目を輝かせて俺の顔をのぞきこむハルカ。

 違うんだ。中二病時代、画数が多い文字はかっこいい、って思ってたときがあって、それで『覇王』って名乗るようになったんだ。なにも見ないで『』って書けるようになるのに結構苦労したから、もったいなくて使うのをやめられなかったんだ。意味は特にないんだよ……。


「まずは、村を豊かにしていくことから始めよう」


 気を取り直して、俺は言った。


「世界のことを考えるのは、身の回りのことをちゃんとしてからだ。いきなり世界を変えようとしたり(覚醒かくせいしようと儀式したり、悪を探して回ったり)すると、日常的なこと(受験とか)で失敗するかもしれないからね」

「兄さまのおっしゃる通りです。いきなり世界を変えようとしたり(旗揚げしたり、他の領主の悪行を成敗に行ったり)すると、日常的なこと(食糧しょくりょう不足や人材不足)で失敗するかもしれませんから」


 リゼットは腕組みをして、何度もうなずいてる。

 わかってくれたみたいだ。


「せっかく魔物がいなくなったんだから、森を切り開くところから……でいいんじゃないかな」


 この村の人たちも、ちゃんと農耕の知識は持ってるそうだ。

 竜帝の時代に、荒れた大地を豊かにする……ってことで、開拓事業や干拓事業が行われたらしい。

 そのころは鬼族も事業に参加していて、そのときに、いろいろな知識を学んだそうだ。


「そうですね。皆さん、まずは村の周りの森を切り開いて、畑を増やすって言ってます」

「そっか」


 鬼族は力があるからね。森を切り開くのも早そうだ。

 じゃあ、俺はその手伝いをすることにしよう。




「借りてきました、兄さま」

「斧と鍬だよー」


 リゼットとハルカが斧と鍬を手に、屋敷に戻ってくる。

 これから始めるのは、森の開拓だ。

 今回はそのための道具を『強化』することにしよう。


「『おの』と『くわ』……か、短い単語だとやりにくいな」

「古いものでよければ『どうおの』もありますよ?」


 リゼットは言った。


「『青銅の斧』もどこかにあったはずです。でも、さび付いちゃってますね」

「『銅の斧』『青銅の斧』『鉄の斧』……か」


 思いついた。


「ここにある斧と鍬はリゼットたちに『鉄の斧』『鉄の鍬』って認識されてるってことだな」


 ということは──


「発動! 『命名属性追加』──『これより紡ぐのは、王の言葉』──『汝の名は鉄のおの』──『重なり合う言霊ことだまを受け入れよ』──『汝に与える属性ぞくせいは』──」


 木を切り倒し易くするには、貫通力があればいい。

『貫き通す力』だ。たとえば、敵の装甲を貫通する弾丸──『徹甲弾てっこうだん』のように。


「『鉄の斧』──転じて『てつの斧』と為す。『てつ』は貫き通すの意味。汝に与えるのは『貫通力』。触れるものを貫き、村人の助けとなれ……」


 息を吸い込んでから、俺は宣言した。


「王の命名を受け入れよ!! 『命名属性追加ネーミングブレス』!!」


『鉄の斧』の表面に、光のラインが走った。

 これでうまくいったはず。試してみよう。

 とりあえず外に出て、じゃあこれを──


「はい兄さま!」「兄上さま、ボクに!」「オレに!」「いや、私だ」「ショーマ兄ちゃんぼくに!」「あたしも、あたしもやってみたい」


 いつの間にか、屋敷の前に村人たちが集まっていた。

 みんなノリが良すぎだ。


「じゃあ、ハルカ」

「兄上さま愛してるよ!」

「いいから、これで木を切ってみて」


 俺はハルカに、エンチャントした『てつの斧』を渡した。


「せーのっ!」


 ずん。

 ばしゅん。

 ハルカが全力で振った斧の先端から、衝撃波が飛び出した。

 木が倒れた。


「…………一撃いちげき?」


 そういえばハルカ、『ハザマ村』──もとい『鬼王城』の城主だったね。

『竜樹城』のまわりでリゼットの魔力が強化されるように、村のまわりではハルカの魔力が強化される。鬼族の魔力は身体強化にも影響を与えるから──つまり。


「参考にならないので別の人に」

「ひどいよ兄上さま!」


 しょうがないだろ。ハルカ、強すぎるんだから。

 あと、泣くほどのことじゃないからね。

 というわけで、ハルカの叔父のガルンガさんで再度実験。


「ふんすっ!!」


 ガルンガさんは斧を振った。

 やっぱり衝撃波が飛び出して──ひとふりで、木の中央まで貫通した。


「2度目! 3度目!」


 ずん。

 3度目の打撃で、斧の刃が木を完全に貫いた。

 村人たちの歓声が上がる中、ゆっくりと木が倒れていく。


 あっという間だった。

 ここは『鬼王城』のまわりで、結界の範囲内。

 村人全員に『腕力増加15%』のエンチャントがかかってる。

 貫通力を強化した斧での打撃。その相乗効果に、森の木は耐えられなかったみたいだ。


「やっぱりすごいな、『竜帝のスキル』」


 レベルが上がったせいか、強化した斧の情報もわかるようになってる。

 表示させてみると──


『命名属性追加』:てつの斧

てつ』(貫き通すの意味)の文字により『属性追加』した斧。


 効果:貫通力+40%



「じゃあ、また村にある『鉄の斧』と『鉄の鍬』を貸してくれるかな。俺がエンチャントするから。それで作業効率を上げて、その分、たくさん休憩するってことでどうかな」


 俺が言うと、村人たちは一斉に手を挙げた。

 そして子どもたちを先頭にして走り出し、村中の斧と鍬を集めはじめる。

 持って来たそれを俺がかたっぱしから『命名属性追加』して、作業開始。


 それからの仕事は早かった。

 貫通力を上げた斧で木を切り倒し、残った根っこは同じく貫通力上昇型の鍬で小さく切って掘り起こす。村人全員の腕力が上がってるから、作業は急ピッチで進んでいく。俺はただ見てるだけ。村人みんな、遊んでるみたいに笑いながら、開拓を進めていって──


『ハザマ村』の近くの森は、あっという間に更地さらちになったのだった。

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