020 鬼族と魔物の戦い。そして無双の救援(2)

 ──ハザマ村の戦士たち視点 (続き)──




「リゼットとハルカの家族です。武器の補給ほきゅうに来ました」


 男性は地面に置いた荷物を指し示した。

 棍棒こんぼう6本。長剣3本。計9本。

 村人たちがあれほど欲しがった武器が、そこにあった。


「ど、どうやって持って来た?」

「手伝ってくれる人がいたんで」


 男性は空を指さした。

 木々の上を、ハーピーたちが飛び回っていた。

 まさか、あのいたずら者たちが助けてくれたとでも言うのだろうか。 


「俺はショーマ=キリュウと言います。詳しい事情は後で話しますけど、あなた方の味方です」

「ど、どこから来た!?」

「どうやってここに!?」

「人間? 商人か!? もしかして──上位の魔物か!?」


 長時間の戦闘で疲れ切っていたからか、鬼族たちは動揺どうようしていた。

 人間──ショーマを遠巻きにしたまま、武器に手を伸ばそうとしない。


「……やっぱり、すぐに信用してくれってのは無理か」


 ショーマはひたいを押さえた。

 首を振って、宙を見据えて、なにかを考え込むようにつぶやいている。


「しょうがない、翼人ハーピーのときと、同じ手でいこう…………『動揺するな、誇り在る戦士たちよ』『汝らの戦闘能力と意欲は素晴らしい』『だが、天地あめつちの間には、汝の目でも見通せないものがあるのだ』」

「……なんだ?」「なにを言っている」「あんたは一体誰なんだ」

「『知りたければ、刮目かつもくせよ!』」


 ショーマの黒髪が、波打ち始める。

 瞳がつり上がっていく。そして頭頂部には、真珠色の角。


「『鬼の力をここに』──『鬼種覚醒きしゅかくせい』!!」

「「「──な!?」」」


 村人たちは声をあげた。

 目の前にいた男性が、彼らと同じ鬼の姿へと変わっていたからだ。


「「「こ、これは…………他人とは思えない!!」」」

「誇りある鬼族の者よ、異形いぎょう覇王はおうの言葉を聞け!!」


 ショーマは地面を踏み鳴らし、一喝いっかつした。


「俺は貴様らの敵にあらず! 故あってリゼットとハルカの仲間となった者である。彼女たちが使っているのと同じ武器を届けに来た!!」

「「「なるほどっ!!!」」」

「戦士たちに問う。お前たち──いや、あなたたちはまだ、戦えますか?」


 男性はなぜか照れくさそうに横を向いて、それから、言った。


「戦えないなら、俺とリゼットとハルカで脱出の支援をします。まっすぐ村まで走ってください。リゼットとハルカは俺があとで回収します。戦うなら──」

「戦うに決まってるだろう!?」


 鬼族の一人が、叫んだ。


「ここまでしてもらったんだ! 魔物との決着をつけてやる!!」

「鬼族の治癒力ちゆりょくは超一流だ! 武器さえありゃどうってことはねぇ!!」

「武器を貸してくれ! 兄ちゃん! あんたとリゼットさま、ハルカさまの助けにむくいたい!!」


 そうして彼らは一斉に雄叫びをあげた。


「わかりました。じゃあ俺は」

「あんたは休んでいてくれ。ここまで来てくれただけで十分だ。あんたはもう、鬼族にとっては恩人だ」


 鬼族の──一番ガタイの大きい男性が、困ったように頭を掻いた。


「初対面でここまでしてくれるなんて……伝説に聞く『竜帝』さまでもそれほどのうつわはなかろうよ……ははっ」


 そうして鬼族の男性たちは武器を取り、走り出す。

 自分たちを取り囲む魔物たちに向かって。






 ──ショーマ視点──





「俺の仕事はここまでか」


 なんとなく、頭のてっぺんに手を伸ばす。

 やっぱりだ。角がある。子どもたちと同じような、堅いものが手に触れてる。


「これが『鬼種覚醒きしゅかくせい』か。やっぱり角が生えるんだな」


 元の世界では、実際に覚醒したことないからな。



鬼種覚醒きしゅかくせい


異形いぎょう覇王はおう 鬼竜王翔魔きりゅうおうしょうま』のスキルのひとつ。

 効果:筋力大幅増強。体力増強。再生能力。スーパーアーマー。ガードキャンセル。

 耐性:毒。麻痺まひ




「武器を運んでくれてありがとう。ハーピーたち」


 俺は頭の上に声をかけた。

 2人のハーピーたちはすぐそこの、背の高い樹の枝にまってる。


「お前たちは、安全なところにいて。俺はここで、みんなの背後を守ってる」

「承知なのです!」「ご配慮感謝します。王さま!!」


 ハーピーたちの声と、軽い羽音が帰ってくる。

 俺は樹を背にして武器を構えた。

 魔物の群れに突っ込んでいった村人たちは、敵を圧倒してる。


命名属性追加ネーミングブレス』でエンチャントした剣は、『ゴブリンロード』の盾も剣も問答無用でたたき割ってる。ゴブリンたちは、村人が振り回す棍棒の勢いに近づけない。殴られれば胴体がひしゃげて吹っ飛ぶんだから当然だ。

 さらに、魔物の背後では、リゼットとハルカが暴れ回ってる。


「辺境の治安を乱す魔物たちよ! ショーマ兄さまの義妹リゼットがちゅうを下します!!」

「ほんっとにらくちんだね。この武器。兄上さまってすごいねー」

『グオオオオオオォ!?』


 魔物たちは恐怖の叫び声をあげてる。

 それでも逃げようとしないのは、パニックになってるからか。


「俺の出る幕はないな」


 俺の能力は、集団戦向きじゃない。

 必要になったら『竜種覚醒りゅうしゅかくせい』のブレスをぶっぱなそう。


「大火力が必要になったら言ってくれ! いつでも撃つ!」

「「「おおおおおっ!!」」」


 村人たちの叫び声が返ってくる。

 万が一に備えて、このまま背後を守ってることにしよう。

 まぁ……なにもないとは思うんだけど。

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