018 武器の強化と作戦準備

「ハルカ、この子たちから話を聞いてくれ。もう嘘は言わないと思う」

「は、はい。兄上さま!」


 ハルカは俺の方を見てから、ハーピーたちに向き直った。


「村の大人たちが敵に見つかったというのは本当なの?」

「ほんとう」「その人の前では、嘘なんかつかない」


 ハーピーたちは俺の方を見ながら、答えた。


「ついさっき」「朝ご飯を、取りに行ったら」

「鬼族のひとを見かけて」「それを追いかけてる『ゴブリンロード』たちがいたよ?」

「鬼族たち、踏みとどまって戦おうとしてた」「怪我してた」


「「助けるなら急いだ方がいいよ」」


「ありがとう。助かった」


 俺は前に出て、ハーピーたちに頭を下げた。


「そんなそんな」「強い翼の人は、えらいハーピー」

「お礼なんかいらないから」「翼をなでて」

「「ワタシたちがもっと速く飛べるように」」

「こう?」


 俺はハーピーたちの翼に、指先で触れた。

 そこにも神経が通ってるのか、ハーピーたちはくすぐったそうな顔になる。


「「ありがとうございます!」」

「こっちも、貴重な情報をありがとう。怒ってごめんな」


 ハーピーたちに言ってから、俺はリゼットたちの方を見た。

 リゼットとハルカは真剣な顔でうなずいてる。


 ここからは、村と森をよく知る彼女たちの判断待ちだ。

 その間に、俺は情報分析と──自分にできることをしておこう。







黄巾こうきんの魔道士 リッカク』


 この村の北方、森の向こうにある『廃城』に住まう、魔物のボス。

 配下の魔物を率いて、森に入ってきた村人を襲っている。

 黄色のずきんを被っている。魔物を『強化』する能力を持っている。

 過去の戦争で死んだ魔法使いの魂が、魔物化したものだと言われている。






 これが鬼族とハーピーが教えてくれた、敵のボスの情報だ。


 村の大人たちは数日前に『廃城はいじょう』を攻略のための拠点を作りに行った。

 でも現在、魔物に発見されて、逆襲を喰らっている。

 敵はおそらく『黄巾の魔道士』と『ゴブリンロード』。


『ゴブリンロード』は堅い皮膚を持っているから、通常の武器は通りにくい。

 だから鬼族の大人たちは苦戦してる。


 ──だったら、俺のすることは決まってる。


「ハルカ。ちょっとこの棍棒こんぼうを貸してくれ」

「は、はい。いいよ、兄上さま」


 ハルカから棍棒を借りて、俺は地面に腰を下ろした。

 棍棒の長さは約1・5メートル。太さは、片手で握るのにちょうどいいくらい。

 黒い塗料が塗ってある。ただの木の棒だけど、意外と重い。ゴブリン相手なら、普通に叩き殺せそうだ。

 ただ、『ゴブリンロード』や、そのボス相手にはどうだろう。


「『翔種覚醒しょうしゅかくせい』解除。『竜種覚醒りゅうしゅかくせい』」


 俺はモードを切り替えた。

『竜種覚醒』で筋力を上げて、そのへんにあった岩を軽く叩いてみる。



 がこんっ!



 折れない。軽くへこんだけだ。

 でも……岩や金属相手だと強度不足だな。これも強化しておこう。


「はおうさま?」「なにしてるの?」


 気がつくと、まわりに子どもたちが集まってきてた。

 ちょうどいい。実験に付き合ってもらおう。


「みんなもこの武器を使ったことがあるかな?」

「あるよー。鬼族は、棍棒こんぼうの方が得意なのー」

「そっか。じゃあ、今からこれを『強化』するから、ふだんよりどれくらい変わったか、感想を聞かせてくれ」

「きょうか?」「よくわかんないです? はおうさま」

「『異界いかいの少年少女よ。覇王はおうたる我の力をもって、この木製の武器を珠玉しゅぎょく兵器へいきと化す。なんじらの力をもって、その威力を我に示すがいい』!」

「わかりました!」「すごくよくわかった。はおうさま!」


 いいのかそれで。


「『──鬼竜王翔魔きりゅうおうしょうまの名において』──『命名属性追加ネーミングブレス』『汝の名は武器、棍棒こんぼう』──『重なり合う言霊ことだまを受け入れよ』──『汝に与える属性は』──」


 俺は棍棒を握りしめて、魔力を集中する。

 頭の中で『こんぼう』に類似する言葉を探す。

 確か……固いものを表す言葉で『金剛こんごう』ってのがあったな。最も固い金属を意味する言葉で。仏教用語だっけ。

 だったら──


「『棍棒』──転じて『金棒こんぼう』と為す。『金剛こんごうのごとき』『棒であれ』。その強度、柔軟性じゅうなんせいともに最高硬度の金属を超える物であれ! 王の命名を受け入れよ!!」


 棍棒に光のラインが走った。


 新しい属性は『金棒こんぼう』──『金剛のごとき強度を持つ』『棒』だ。

『棒』には『まっすぐな長いもの』という意味がある。つまり、この棍棒は金属のように堅く、まっすぐでありつづける。曲がりにくく、折れにくい。


「それじゃ、この棍棒であの岩を殴ってみてくれないか?」


 俺は目の前にいた子どもに、強化版の『棍棒こんぼう』を手渡した。


「ただし、腕を痛めない程度に」

「岩を?」「折れちゃいますよ? いいのかなぁ」

「いいよ。ハルカには、俺から謝っておく」

「「わかりましたーっ!!」」


 素直でよろしい。

 鬼族の子どもたちは、岩の前に立つ。棍棒を振りかぶる。 


「いくよー!」


 そしてきれいなフォームで、岩に向かって棍棒をたたきつけた。




 ぼこっ。




 岩が砕けた。

 正確には、強化型の『棍棒』が岩を砕きながら、半分めりこんだところで止まった。

 よし、強度は十分だ。


「「ええええええええええええええええ!!」」

「ショーマ兄さま!? なにをなさったのですか!?」

「え? え? ボクの棍棒で、岩を!? どうやって!?」

「『異形いぎょう覇王はおう』さま……」「これが、ハーピーの王さまのちから……?」


 いつの間にかリゼットもハルカも、ついでにハーピーたちもこっちを見てた。

 みんな砕けた岩を、呆然と見つめてる。


 でも、棍棒は岩に食い込んで抜けなくなってる。

 せっかく強化したのにもったいない。取り出そう。


 俺は『超堅ちょうかたい』長剣を、岩に向かって振り下ろした。




 すぱぁん。




 よし、いい具合に斬れた。

 棍棒を引っこ抜いて、と。こっちも傷ついてない。


「それで質問なんだけど、この武器で『ゴブリンロード』と戦えるだろうか?」


 俺は聞いた。


「当たり前です!」「瞬殺しゅんさつできるよ!」

「負ける気がしません」「というより、これに勝る武器ってあるんですか!?」

「覇王さま、すごい」「ハーピーもびっくりだよー」

「はおうさま!」「ぼくらのはおうさま!」「「いぎょうのはおうきりゅうおうしょうまさまっ!!」」


 大騒ぎだった。

 あと、子どもたち、『覇王はおうコール』はやめてね。ハーピーたちも真似しなくていいからね。君たちは行動半径広いんだから、辺境いっぱいに広がるからもしれないからね。やめてね。


「じゃあ、みんなにお願いがある。村にある長剣と棍棒を集めてきてほしい。俺がそれを『強化』して、村の大人たちに届ける。強い武器があれば『ゴブリンロード』とも有利に戦えるはずだ」

「「「わかりましたっ!!」」」


 村人と子どもたちが走り出した。







 みんなの仕事は早かった。

 村中の武器をかき集めてくるのに10分足らず。

 俺がそれを強化するのに3分。

 その間に、リゼットたちの作戦も決まっていた。


「これからリゼットとハルカが、村の人たちを助けに行きます」


 それからリゼットは、腰にげた長剣に触れて、


「ショーマ兄さまが強化してくれた剣のおかげで、安心して戦えます」

「わかった。それと、俺の翼はまだ使える」


 ここは、現実処理能力の高い元中二病の本領発揮だ。

鬼竜王翔魔きりゅうおうしょうま』のスキルを、この村の安全のために最大効率で使おう。


「ただ、俺の力だと、リゼットとハルカを運ぶのが精一杯だ。もう一度往復して武器を届けることになるけど……時間がもったいないな……」

「王さま。王さま」「お手伝いいたしますよ?」


 気がつくと、ハーピーたちが俺を見てた。


「ワタシたちが協力すれば」「武器くらい運べますので」

「いいの?」

「ワタシたちハーピーがいたずら者なのは」「お仕えする者がいなかったから」

「「翼をなでていただいたからには、お力を貸すくらいなんでもないです」」


 ハーピーたちは、俺の前に跪いた。

 どうも、彼らにとって『翼をなでられる』ってのは、服従の意味もあったらしい。


「わかった。じゃあハーピーたちは武器を運んでくれ。俺はリゼットとハルカを連れて行く」

「「わかりました。王さま!!」」

「リゼット。作戦を聞かせて」

「はい。本来でしたら、リゼットとハルカが走って『廃城はいじょう』へ向かう予定でしたけど、空を飛べるなら直接、敵の背後を突きます!」

「敵を、村人とリゼットたちで挟み撃ちにする作戦か」

「そうです。リゼットとハルカと、強化された武器があれば、敵陣を中央突破できます。それで敵を分断してから、村人たちと合流して殲滅せんめつします!」


 理に適ってる。

 俺の知識は最近やったシミュレーションゲームと、学生時代に読みまくった軍記物くらいだからな。ここは専門家に任せよう。


「わかった。じゃあ、すぐに出発する」


 ぐずぐずしてられない。

 強化した武器は革袋に入れた。これはハーピーに預ける。

 俺は『翔種覚醒しょうしゅかくせい』して、魔力で風を起こす。リゼットとハルカを持ち上げるように、風で二人を抱える。そして2人が俺にしがみつけば、準備完了だ。


「しっかり捕まってて。リゼット、ハルカ!」

「はい──っ…………ショーマ兄さま」「お願いするよ。兄上さま!」


 俺たちは一気に戦場を目指した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る