016 竜帝と鬼竜王翔魔の『名付ける力』

 リゼット、ハルカと一緒に朝食を取ったあと──

 俺は昨日行った水浴び場で、これからのことを考えてた。


 リゼットとハルカは荷物を取りに行ってる。

 ハルカは本気で、リゼットの家に引っ越してくるみたいだ。


「これからのことを考えたら、竜帝スキルの確認をしておかないとな」


 俺の中には『鬼竜王翔魔きりゅうおうしょうま』のスキルの他に、『竜帝廟りゅうていびょう』で手に入れた『命名属性追加ネーミングブレス』と『竜脈』がある。

『竜帝』はかつて、この力で天下を治めていた。

 だったら、村を発展させることくらいできるだろう。


 村を発展させるためには、まず、周辺の治安をよくする必要がある。

 この村は辺境にある。文明のはずれにあるせいか、魔物におそわれやすい。昨日も子どもたちが殺されかけてたくらい。しかも、この世界の魔物は結構強い。

 だから、村人が安心して出歩けるように、戦闘力を上げる必要がある。

 でないと落ち着いて狩りも採取もできないからな。


「そういえば昨日戦った『ゴブリンロード』、異様に身体が硬かったっけ」


 となると、強度の強い武器を作るべきだな。


 竜帝は名前をつけることで、物や人を強化していた。

 リゼットの話が確かなら、この『命名属性追加ネーミングブレス』にも、同じことができるはずだ。


 実験してみよう。

 ここに、ちょうど女神からもらった長剣ちょうえんがある。

 これを目の前に持って来て──


「『命名属性追加ネーミングブレス』──『長剣よ、切れ味を増せ』」


 ……反応なし。


「『長剣よ。お前の名前はエクスカリバーだ。聖剣せいけんの切れ味を、ここに』」


 ……これも反応なし。


「お前の名前は『レーヴァティン』だ!」

「『天叢雲剣あまのむらくものつるぎ』──いや『妖刀ムラマサ』。だめか。じゃあ『スルトの炎の剣』──」


 ……これはやめとこう。危険だ。

 とにかく、剣はなんの変化もない。『命名属性追加』は機能してない。長剣もそのままだ。

 強そうな名前を付けるというやり方じゃないらしい。


「『命名めいめい』ってことは、名前をつけるんだと思ったんだけどな」


 俺は水浴び場にある、大きめの石に腰を下ろした。

 考えろ。

 そもそも、どうして『竜帝廟りゅうていびょう』は、俺にスキルを与えた?


 スキル譲渡じょうとの条件が『竜の力』なら、相手はリゼットでもいいはずだ。

 だけど『竜帝廟』は俺を選んだ。そこに竜帝の意思が関係しているとしたら、なにか理由があったはずだ。


 中二病? ……いや、違うな。俺は元中二病だから。

 異世界人……これも違う。『竜帝』が異世界人だったという話はなかった。


「音と名前……か?」


 もしかしたら、と、思った。


命名属性追加ネーミングブレス』は、物や人に名前を付け加えるスキル。

 そして、俺は『桐生正真きりゅうしょうま』に『鬼竜王翔魔きりゅうおうしょうま』という『似たひびきの名前』を付けることで、自分を覚醒させた。


 もしも『竜帝廟』にいる誰かが、俺に『桐生正真きりゅうしょうま』と似た響きの『鬼竜王翔魔きりゅうおうしょうま』という名前があることに気づいていたとしたら。

 俺になら『竜帝のスキル』を使いこなせると思ったのかもしれない。


 だとすると、使い方は想像がつく。

 まずは……『命名属性追加ネーミングブレス』の前に、長剣の強度を確認しておこう。


「『異形いぎょう覇王はおう』の名において────『竜種覚醒りゅうしゅかくせい』!」


 誰も見てないことを確認して、俺は『竜種覚醒』した。

 耳の後ろに小さな角が生え、両腕に半透明のうろこが浮かび上がる。

 これで、筋力も上がったはずだ。


 この状態で、剣で軽く岩を叩くと──




 ぱきゃっ。




 刃が欠けた。

 ……『竜種覚醒』した状態だと、力の調整が難しいな。

 とにかく、この長剣の強度は『竜の力で岩を叩くとはこぼれする』でいいか。

 次いこう。


「『命名属性追加ネーミングブレス』発動」


 俺は長剣を握りしめて、宣言した。


「王の名のもとに『長剣』に新たなる名前を与える」


 目の前にウィンドウのようなものが浮かんだ。


 ウィンドウの中央には『長剣』『ロングソード』の文字が表示されてる。

 他に空白のスロットが3つある。

 それが『強化』できる限界数らしい。


「『これより紡ぐのは、王の言霊ことだま』」


 自然に言葉が流れ出て来た。


「『鬼竜王翔魔きりゅうおうしょうまの名において、汝に新たな属性を授ける』」


 長剣が、青白い光を帯びた。


「『汝の名は武器、長剣ちょうけん』──『重なり合う言霊ことだまを受け入れよ』──『汝に与える属性ぞくせいは』──」


 必要なのは、堅さと耐久性だ。

『ゴブリンロード』の身体を切り裂けるくらい堅く。長期間使えるように強く。

 だったら──


「『長剣ちょうけん』──転じて『超堅ちょうけん』と為す」


 息を吸い込んでから、俺は宣言した。


「長剣よ、超堅く。強靱となれ。王の命名を受け入れよ!! 『命名属性追加ネーミングブレス』!!」


 長剣の表面に、青白いラインが走った。

 それが何周かして、『超堅ちょうけん』の文字を描いて、消えた。

 うまくいったらしい。


「試してみるか」


 俺は長剣を構えた。

 岩に軽く当てて、位置合わせして、振りかぶる。


「折れたらごめんな。女神さま」


 そして『強化エンチャント』した長剣を、真横に振った。





 すぱぁん!





 岩が斬れた。

 上の方が、平らになった。

 とても、座りやすそうだった。


「…………おぉ」


 剣は……刃こぼれしてない。

 さっき欠けた部分はそのままだけど、あとはきれいなままだ。

 信じられない。

 俺としては、折れにくくなるだけでよかったんだけど。まさか岩が斬れるなんて……。

 これが『竜帝』の力か。すごいな。

 この『超堅ちょうかたい』剣をリゼットとハルカと村の人たちに渡せば、村の強化としては充分だ。


「問題は、俺の魔力容量か」


 俺はステータスのウィンドウを開いた。

 ここには各種スキルと一緒に、『鬼竜王翔魔』の残留魔力も表示されてる。

 現在はこんな感じだ。


 鬼:100%

 竜:98%

 王:95%

 翔:100%

 魔:100%


『鬼』『竜』『王』『翔』『魔』それぞれに魔力ゲージがあって、能力を使うとそれが減っていく。たとえば『竜種覚醒』すれば『竜』の魔力が減るし、『翔種覚醒』すれば『翔』の魔力が減る。


『竜帝スキル』は『王』の魔力を消費する。剣1本を『強化』するのにだいたい5%。ただし、『強化』中は徐々に王の魔力が減っていって、0%になると『強化』も解ける。

 実際に『強化』してみた感覚だと、持続時間は約1日。

 でも、『竜帝』は『命名属性追加』を国家レベルで使っていた。その魔力にはたぶん『竜脈』が関係してる。竜帝は土地の力を引き出していた、と、リゼットは言ってたから。


 あとでもう一度、詳しく話を聞いてみよう。

 ……うん。現実処理能力のある大人っぽくなってきた。

 やっぱり中二病スキルよりもこういうやり方がいいよな。

 ありがとう『竜帝』。スキルはありがたく使わせてもらうよ。


 俺はそんなふうに思ったとき──






「──鬼族の大人は発見されたよ?」

「──黄巾こうきんの魔物に襲われているよ?」





 不意に頭上で、声がした。

 顔を上げると、翼の生えた生き物が飛んでいるのが見えた。


「……鳥?」


 違う。頭上で飛んでいる影は、人の姿をしている。

 両腕の代わりに翼が生えているけど、それ以外は人間と変わらない。

 背丈は子どもくらい。長い髪を風になびかせて、村の中心に向かってる。


「魔物──?」


 俺は鳥に似た影を追って、走り出した。

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