014 異世界の傾向と対策

 リゼットとハルカは食事をしながら、この世界のことを話してくれた。


 数百年前、この大陸にはいくつかの小さい国があった。

 その国のひとつに『黒炎帝こくえんてい』という王が現れてから、すべてが変わった。

 彼は厳しい法律と黒魔法によって最強の軍隊を作り上げ、他の国を次々に滅ぼした。


 だけど、黒魔法の使いすぎで魔物が大量発生してしまった。

 これはおそらく女神さんが言ってた『ゆがみ』のせいだろう。混沌としたエネルギーが魔物に変化したりしている、と言っていたから。乱世を治めるのに黒魔法を使うのは、『歪みを使って歪みをしずめめる』ようなもので、つまり、禁じ手なんだろうな。


 で、その大量発生した魔物が、大陸全土にあふれて、人々をおびやかすようになったらしい。

 その『黒炎帝』の国を滅ぼして、大陸を統一したのが『竜帝』。リゼットのご先祖さまだ。


『竜帝』は巨大な力をふるって、魔物を追い払い、平和な国を作り上げた。

 人も亜人も平等に暮らせるような法を作り、黒魔法も禁止した。


 だけど竜帝の死後、時が経つにつれて、亜人への迫害が始まった。

 特に、今の皇帝が即位してからは、側に仕える賢者たちが実験を握るようになったそうだ。


 そんなことだから再び魔物が発生するようになり、地方領主たちも国を見限った。

 もう中央政府は権威だけの存在になり、人と魔物が入り交じった乱世になっている、ということらしい。






 話を聞いたあと、俺は寝室に案内された。

 リゼットが用意してくれたベッドに横になり、目を閉じる。


「……この世界のことはだいたい分かったけど」


 ここが三国志と同じ歴史の世界かというと……微妙だな。


 三国時代っていうのは、だいたい漢帝国末期からの時代を言う。

 つまり漢帝国を作った高祖を、この世界の『竜帝』に、秦帝国を作った始皇帝を『黒炎帝』とすれば、一応のつじつまは合う。


 漢帝国の皇帝は『りゅう』の姓を持っていた。

 それを『竜』に置き換えれば、遠縁の子孫のリゼットは劉備りゅうびポジションになる。

 で、俺が『世界の関を羽のように超える者』だから関羽かんう。リゼットと俺がそうなら、その側にいるハルカは張飛ちょうひのポジションってことになるけど……。


「違和感がありすぎだな、これは」


 当たり前だけど、三国志に魔法は出てこない。亜人もいない。

 それに、元の世界の大陸では『鬼』って言ったら幽霊や亡霊を意味する。

 でも、この村にいる鬼族は頭に角が生えてる『鬼』だ。

 どこまでが一致してて、どこからが違うのか、今ある情報だけでは判断できない。


「三国志関係の本は、結構読んだけどな。ゲームもやったし」


 主に中二病時代に。

 一騎当千の武将、軍師の軍略なんかは大好物だった。

 中国の陰陽五行説も四大元素と並んで、中二病設定によく使われるものだし。

 知識はある。


 ただ、それを当てにしすぎるのは危険だ。

 逆に「三国志風の世界だからこうなるはず」という思い込みに足をとられる可能性もある。


 その上、三国時代の武将なんて、みんなろくな死に方してない。

 同じ歴史をトレースしたら、同じ目にあうのは確実だ。

 それに俺は……リゼットとハルカを、乱世をしずめる戦争なんかに出したくない。


「……決めた」


 天下のことは、正式な召喚者に任せよう。

 だったら、俺はこの辺境に引きこもる。

 この『ハザマ村』を豊かにして、自給自足できるようにする。

 魔物を追い払い、外敵が入れないように強化する。この辺境だけは『乱世が終わった土地』にして、それ以外の場所が落ち着くまで、のんびりだらだら引きこもる。


 そのためにすべきことは……『竜帝スキル』の確認だ。

 俺が『竜帝廟』でもらった『命名属性追加』と『竜脈』。

 これが村の発展に使えるかどうか試してみよう。『竜帝』が使ってたスキルなら、村を強化することぐらいできるはず。

 うまくいけば『鬼竜王翔魔きりゅうおうしょうま』のスキルを使わずにやっていけるかもしれない。


 方針は決まった。


「……ふわ」


 考えがまとまったせいか、眠くなってきた。

 ……そろそろ本格的に寝るか……。

 



「…………ショーマ兄さま。もう、寝ちゃいましたか……?」




 声がした。

 横を見ると、部屋の戸口にリゼットが立っていた。

 彼女が着ているのは真っ白な寝間着。

 銀色の髪は後ろでまとめて、リボンのようなもので結んでいる。

 居間の灯りは消えていて、代わりに差し込む月明かりが、リゼットを照らしている。


 薄い寝間着は簡単に透けて、細い身体を浮かび上がらせてる。動揺しなかったのは俺が一応大人だから。中二病時代だったら「来たれ、異界の少女よ。未来と来世の話をしよう」なんて口走ってたかもしれない。大人で良かった。


「起きてるよ。どうした?」

「おとなりに、行ってもいいですか?」


 ぽつり、とリゼットは言った。


「家族と一緒に眠るのが…………ずっと、夢だったので。……だめですか?」

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