第3歩 そういえば異世界なんだった

 プルルと約束を交わし、夜を過ごす間の時間 俺はピクシェスに色々と豚社会について教えてもらっていた。


「長老様って代々、一番大人の豚がなるんだぜ!」

「へぇ、そうなのか」

「だから新参のピスカが選ばれるっていうのはかなり特別な事なんだぞー!」

「はは、まぁ若干27歳だし……」


 それを聞いて物理的に飛び上がったピクシェス。

「お、お、お前、不老不死!?」


 しまった、豚の寿命って10年、長くても15年ぐらいだったっけ。慌てて訂正しようとしたが、ピクシェスはそんな思考を俺が巡らせてる間に、もう眠っていた。おい、自分勝手で気ままな豚だなお前は。豚ってみんなこんな感じなわけじゃないよな……?



 さて、気づいたら俺もピクシェスの家で寝させてもらっていた。ふかふかの草が温かく、心地よく目覚めたが、そういえばまだ豚生始めて二日目か。思えば昨日のうちに先代長老が亡くなり、俺が長老になったんだ。まだ実感が湧かないなぁ……。


「とにもかくにも、俺は豚と人間を和解させなくちゃいけないんだ。俺が食べられて豚生おしまいにならない為にも!」

 ひとまず、自分のポテンシャルを確認だ。鼻は他の数倍利く。足も速い。夜目も利く事から目も良いのだろう。そして、人間の言葉を話せる口。あとは耳ぐらいだけど……恐らく、耳も良いに違いない。

 あっ、この世界の文字ってそういえばどうなってるんだ?書けた方が有利かもしれないな。


「ピスカ、文字が知りたいの?それなら妖精に教えてもらいなよ。何でも知ってるよ、妖精丘の妖精さんは」

 と教えてくれたのは、ピーコだった。

「妖精丘?それってどこにあるんだ?」

「ここから2キロぐらい。すぐに着けるよ、ピスカなら」


 どうやら、ピーコは地理に詳しいらしく 教えてくれた妖精丘の他にも知っている場所は沢山ありそうだった。それで探検しててフォークを刺されたのかな、可哀想に……。


「妖精が人間の文字知ってるっていうのも多少変な気がするけど……行ってくるよ、ピーコ!ありがとう」

「頑張ってね、あと今日の夜またプルルの所行くんでしょ?早く道覚えてね」

 人間なみの記憶力だから、それは問題ないだろう。よし出発だ。



 そして、割とすぐに到着した妖精丘。この足だと一瞬だった。

「で、でも まだ慣れないなこの速さには……」

 すると妖精たちが数人近づいてきた。黄緑や青緑色に発光した、中性的なものや女性にしか見えないような小人サイズの妖精たちだ。


「あら! 豚さんがこんなところに。どうしたの~?」

「実は、人間の文字を覚えに来たんだ。人間に聞きに行くと食べられちゃうからさ」

「ふぅん、見たところ あなた本当は豚って感じじゃないねえ~。 ま、いいや教えたげるわ。これが人間の使ってる文字よ」


 空中から瞬間的に本を取り出した、黄緑の妖精。


「これに全部の単語が載ってるわ~。文法は割と簡単だから覚えられると思うの。じゃ、頑張ってね~」

「え、これを読めと!?」

「だって、直接脳内に教えてもパンクしちゃうでしょ?」


 いや、出来るのならそっちの方がありがたいのだが。


「脳に直接教えてくれないか、頼む!」

「分かった、じゃあ あなたの脳に直接語りかけるからちょっと待ってね~。パンクしないかどうか…… えっ?」

 脳を調べたのか知らないが、非常に驚いているようだ。思わず後ずさる黄緑の妖精。何があったというんだ。


「あ、あなた…… 種族内で一番の能力を持ってるわ~!」

「種族内で一番?そりゃあ足も速いし目も見えるし鼻も利くけど」

「足も速いし、なんてレベルじゃないの。これだと豚どころか人族並の能力値よ~!大変、天才見つけちゃった!」


「あ、あの……能力値について詳しく教えてくれないですか?」



 聞いたところ、能力値は以下の項目に分かれている。


 腕力……腕っぷしの強さを表す。豚の最大値は普通、2。

 守護……攻撃を受けた時の強靭さを表す。豚の最大値は普通、2。

 器用……手先の器用さを表す。豚の最大値は普通、1。

 速度……足の速さや行動の早さを表す。豚の最大値は普通、3。

 精神……心の強さと魔法適正を表す。豚の最大値は普通、1。


「って、豚は最弱レベルの種族じゃないか!!」

「そうなの~。だから家畜にされちゃうのよね。人間並の能力持ってて平気って事は……革命、起こせちゃうかもよん」

「え、えと、ちなみに俺の能力値いくつでした?」


「腕力が17。守護が23。器用が20。速度が25。精神が19。いっぱしの冒険者にも負けないんじゃないかしら~」


 それを聞いて唖然とした。平均値が低い世界のようだが、恐らく20を超えている守護や速度辺りなんかはひいき目に見て、人間と互角以上なのだろう。


「ち・な・み・に、冒険者の平均は 15 よ」


 アゴが外れるぐらい唖然とした。追加情報によると、農民に負けないどころか、冒険者より腕っぷしが強い計算になる!確かに革命起こせるぞ、これ。


「じゃ、言語の情報入れてくわね~」

「お願いします!」



 帰って来た俺は、明らかに自信満々だったので、ピクシェスもピーコも不思議そうに見ていた。

「妖精のとこ、行ったんだろー? 何だって言ってたんだよ?」

 いっぱしの冒険者にも負けない能力らしいよ、なんて伝えたら困惑すると思うので、ひとまずは隠しておく事にした。実践で本領発揮だ。

「うーん……何にも言ってないけど言語はマスターしてきたよ!はははっ」

「変なの……」

 ピーコには怪しがられたが、まぁいい。とりあえずプルルからの情報を待つ時間、つまり夜までの間に作戦会議だ。全員に、広場の真ん中に集合をかけた。


「いいか、俺たち豚にも権力があるという事を知らしめてやろう」

「そんな事できませんぜ、長老様ぁ!」

 昨日からサングラスでもかけたら似合いそうな、まるでダンディなオス豚がツッコんでくるが、とりあえず話を続けよう。

「今からこのピーグの集落を発展させていく!まず、それなりに技術のある者は資材調達班、鼻の利く者は食料調達班、そして腕っぷしのある奴は対人間部隊に所属する事。女子供は、作業を少しずつ手伝いながら広場の飾りつけをしてくれ」


「何で広場の飾りつけをする必要が?」

 一部の豚から声が飛んできた。

「そりゃあ…… その方がよくゲームに出てくる集落っぽいだろ?……いや、なんでもない。雰囲気を大事に、という事だ。」

 一瞬、ゲームという単語を混ぜてしまったが 大丈夫だろう。とりあえず資材調達班と食料調達班を結成させる為に、それぞれの能力を覚えていく事にした。


「ふむふむ、キミの名前はポポロか。能力は……食料調達班だな。じゃあ次、キミは……ピースね、能力は対人間部隊向きだから、ってお前サングラス似合いそうなあの!」

 あのダンディな豚、雰囲気に似合わずピースという名前だった。ちなみに能力検査はだいたい適当に行っているだけである。突進力が強ければ対人間部隊で、鼻のかぎ分けが上手ければ食料調達班で、それ以外は大体資材調達班にしてしまっている。


「ピクシェスとピーコは、それぞれ調達班の班長をやって欲しいんだけど出来るか?」

「じゃあ、俺資材調達班な! 重い物ならピーコより運べるし!」

「うん、食料の採れる場所なら知ってるよ。食料調達班は任せて」

 ピクシェスが資材、ピーコが食料。これで二つの班の班長が決まった。


「で、ピスカはどうするんだよー?」

「俺は……対人間部隊兼、総括の司令塔かな」

「うおぉーっカッケー!! ブヒーーッ!!」


 どうやらピクシェス、興奮するとブヒーと言ってしまうタイプのようである。



 そしてやってきた、夜。多少風が吹いていて、これなら足音を消しやすいだろう。ピーコは今回は同行せず、食材調達班の指揮に回させた。そういえば、足音は消せるが匂いが多少風に流されるんだよな…注意しないと。


 まぁ何事もなく到着したのだが、プルルは相変わらずぐでーっとしていた。

「おい、来たぞ!俺が使者だ!」

「結局あなたが選ばれたんですね。まぁいいでしょう、教えますよ。近々、野良豚を一斉に仕留める計画が進んでいるようです。」

「何!?」

 近々、一斉にという事は、俺が革命を起こす前に攻めに来るという事か?何とか止めさせないと。


「それと……これは確かか分からない情報ですが、野良豚を全部家畜小屋に入れる計画もあるそうです。恐らく、仕留めるというのは家畜小屋に入れるという意味ではないかと」

「もしくは、二手に分かれてる場合か……マズいな」

「また状況が変わったら教えます。何とか連絡しますから、早く帰った方がいいですよ。」

 人間の家の窓をガチャガチャ揺らしている音が聞こえる。鍵を開けようとしているのだろう。そういえば、風向きは人間の家に向かって吹いていた。

「……みたいだな、とりあえず帰るよ。頑張って連絡してくれよ!」



 ──マズい。これは非常にマズい。止めさせねば!

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転生したらLv.MAXで最強個体の豚でした @tubamitu

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