通勤急行

電車が嫌い。

黙って運ばれているのも、密室に知らない人間と押し込まれるのも、誰のための空調なのか不明なところも、イヤ。

箱から降りて、ゴチャついた人の間をすり抜けて、ホームに列を作り、新しい混雑した箱に乗り直すのも面倒くさい。


東京から出て行きたいといつも考えている。今も出ていきたい。でも出ていったところで田舎には何もない。何もないからのんびり暮らせるのだろうか、そんなに甘くはないと思う。


「蚊に刺され」みたいだったな、と思う。

何もなかったところがぽってり赤く腫れて熱を持ち、気持ちいいからかきむしっていたら血が出ちゃって、痛くてたまらない。


地下鉄の窓に写った私は、無表情で私のことを見つめてくる。

「もうちょっとうまくできたんじゃないか」と問いかけてみても、無表情のままで突っ立っている。

馬鹿だ。立って待つことしかできないただの木偶の坊だ。


気持ちよくてかきむしっていた頃に戻りたい。そうしたら、血が出ないように優しくなでるのに。


こうして電車に乗っているだけで美羽とすれ違うかもしれない、バッタリと出くわすかもしれない、と想像するだけで苦い汁が胸の中に注ぎ込まれていくようだ。


電車に揺られながら、呼吸のしづらい街になっていくのを感じた。

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